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罪作りなグーグルの「テキサス工場をめぐるピボット」(編集担当メモ)

2014.06.04

Updated by WirelessWire News編集部 on June 4, 2014, 11:47 am JST


[Gov. Perry: Texas Home to First Smartphone Assembled in USA]

グーグル(Google)からレノボ(Lenovo)への売却話が進んでいるモトローラ(Motorola)。そのモトローラが昨年夏にオープンさせたテキサス州の組み立て工場を操業開始から1年もたたずに封鎖することにしたという。この話題については、佐藤仁氏が連載コラム(『モトローラ:廉価版スマートフォン「Moto E」とテキサス州Fort Worthの工場閉鎖』)に書かれている通りだが、このニュースを見聞きして「あれほど大騒ぎして始めたわりには、ずいぶんあっさりと手を引いてしまうんだな」といった印象を持たれた方もいるのではないだろうか。

この件に関する米媒体の記事をいくつか調べてみたが、いずれにも「肝心の製品(「Moto X」スマートフォン)の売れ行きが芳しくなく、工場を操業し続けたくても続けようがない」といった事情が記されている。つまり、「当初の思惑通り製品が売れていれば、工場が閉鎖に追い込まれることもなかった」ということだろう(「当初の思惑」については、昨年9月のThe Verge記事に「1週間の生産可能台数10万台」といった数字がある。それに対し、直近の販売台数は「2014年Q1で90万台」程度だったという)。

「どれくらいの数がさばけそうか」についての見極めが甘かったという点は「しかたがない」として片付けられる話かもしれない。当事者が赤字分を損金処理すればいいだけの話で、リッチなグーグルにとってはそれも「節税対策のひとつ」にさえなりそうだ。ただし、そもそも「きちんと売れるかどうかもよく分からない商品をいきなり米国内で組み立てることにした」というのは、やはりモトローラ=グーグル経営陣の判断ミスだろう。そうして、この「空騒ぎ」に巻き込まれ、結果的に肩すかしされた格好の工場従業員や地元コミュニティがちょっと不憫(ふびん)でもある。

「事業所誘致」関連のニュースにはたいてい「誘致のための優遇策(税控除など)」云々といった話が出てくる。またテキサス州については「リック・ペリー(Rick Perry)知事の熱心なトップセールスぶり」を紹介したBusinessweek記事を以前たまたま目にしてもいた。そのせいで「事業所閉鎖となるとそうした(公的補助の)部分の処理はどうなるのだろうか」といった疑問が浮かび、ちょっと検索してみたところ、グーグルが「実は二股をかけていた」あるいは「うまくいかない場合を想定して保険をかけていた」と思わせられるような情報が見つかった。

昨年6月はじめに地元紙のStar-Telegramに掲載された記事には、モトローラがこの組立工場開設にあたり「税控除を受けないことにしていた」などとある。これが異例の対応であることは、記事の見出し("Motorola Mobility deal unusual for not seeking tax incentives")からも読み取れる。

いちから新しい工場をつくる場合と異なり、「居抜き同然で買った工場ーーもともとはノキアが使い、その後フォクスコン(Foxconn)子会社の手に渡っていたものを改修するだけでは、公的補助が出たとしても大した金額にならない」とモトローラ=グーグルがそう考え、それで特別な控除などは受けないことにしたという可能性はある(工場の名義は外注先のFlextronicsになっているかもしれないが)。また「はした金などはあてにせず、自分たちの資金だけでやる」と潔い選択をしたという可能性もある。それとは別に、工場閉鎖の判断を下したのがレノボ側という可能性も十分に考えられる。

ただし、グーグルがいっぽうではたいへんな手間暇をかけて(=各国税制の隙をつくような手段を講じて)「合法的に膨大な額の税金逃れをしている」というのもよく知られた話で、そういう企業が「受け取って当然」と思われるような優遇策を辞退するというのは、やはり「異例」("unusual")というか不自然なことと思えてしまう。

公的な援助を受け取ってしまうと、万一(事業所の)閉鎖となった時に面倒なことになる(少なくとも、世間からそのことでとやかく突っ込まれる)。だから「うまくいかなかった場合に備えて(簡単に足抜けできるように)優遇策は辞退しておこう」・・・そんな計算がモトローラ=グーグル経営陣にあったのではないか。

この件の真相を知るすべはないが、いろいろな傍証を考えあわせると「グーグルは(米国内でのハードウェア製造に)本気でコミットしていなかったのではないか」と詮索されてもしかたのないような、なにか釈然としない部分が残ったとの印象を受ける。

現時点でひとつはっきりといえるのは、「Moto X」の売り込みにあたって、米国人の愛国心に訴えようとするかのようなPRをしていたモトローラ=グーグルのやり方が、結局は単なる「思わせぶり」に終わったということだろう。

いろんな媒体で使われていた「Moto X」の宣伝資料のなかに、星条旗をイメージさせる青・赤・白の壁紙を配した端末の写真があったが、ああした部分にも「メイド・イン・USA」をアピールすることで広く一般に訴えたいとの思惑が表れていたかと思う。さらにいえば、アップル(Apple)のティム・クック(Tim Cook)CEOがNBCの『Rock Center』に出演し、「一部のMac製品を米国内で製造する」と口にしていたのが2012年12月上旬のことで、そうした動きをグーグルの幹部連中がまったく意識していなかったというのはほぼ考えられないようにも思える。

金融不況以降「米国内での製造業復活」「ハイテク製造業が生み出す新たな雇用」などへの期待感がとくに高まっている(オバマ大統領がここ数年必ず一般教書演説でこの話題に触れて、そうした期待を煽っているといった印象もある)。グーグルは「Moto X」の売り込みにあたって、そんな社会の流れに乗ろうとした。これほど簡単に「Made in the USA」の看板を下ろすと分かっていれば、そうした戦術にでたりはしなかったかもしれない。だが、いずれにせよ、グーグルは結果的にそんな米国社会からの期待を裏切ったということになろう。この記事の見出しに「罪作り」云々といれたのはそうした理由による。

「何事もまずはやってみないと(うまくいくかどうかは)わからない」「やってみてダメだと分かったのだからしかたがない(はやく手仕舞いしたほうが得策)」・・・「ピボット」(方向転換)といった言葉がバズワードになったりする背景はそうした風潮の広がりがあるのかも知れない。また「まずはベータ版を出してユーザーの反応をみる」「その反応を踏まえて必要な修正を加えていく」というアプローチは確かにウェブサービスなどではいいやり方なのだろう。だが、数千人規模の雇用が関わる(とくにシリコンバレー以外の土地での)工場操業まで「ベータ版」のつもりで始めていいものかどうか。


[Flextronics and Motorola Mobility in Fort Worth, Texas - Flextronics]

工場開設/Moto X発表時にわざわざスティーブン・レビィ(Steven Levy)に取材させて書かせたと思われる記事(WIREDに掲載)には、「サプライチェーンの専門家や学者のなかには『米国内での組み立てなどできっこない』という人間が多い、とグーグル(の連中)にそう話したら、『やってみようぜ』(Let's go do it)という反応が返ってきた」とするモトローラのある幹部の発言も出ている。またグーグルから送り込まれたデニス・ウッドサイド(Dennis Woodside)CEOの過去の発言などからは、一部の人間が「やれば、できる」と本気で考えていたことも伺われる。

なお、テキサス州の政府というのはここ十数年企業誘致に極めて熱心で、「リック・ペリー知事が、大企業から中小企業、はては有名な個人ーープロゴルファーのフィル・ミケルソン(Phil Mickelson)の名前が出ているーーにまで『(州の所得税がない)テキサスにおいでよ』と自ら電話をかけまくる」「おかげで、グーグルやアップル、GM、ビザ(Visa)など数々の事業所誘致に成功」「最初期の成功例はトヨタのサンアントニオ工場誘致で、この時には州政府がさきに誘致予定の土地の地主と交渉をまとめたり、鉄道会社と話を付けて専用の引き込み線を引かせる約束を取り付けたことで、アーカンソー州にほぼ決まりかけていた案件をひっくり返した」・・・昨年7月のBusinessweek記事にはそんなエピソードが紹介されている。またこの記事には、州政府が誘致の「ダメ押し用」として「Enterprise Fund」という基金(別名"deal-closing fund")を用意し、この配布額が「2004年からの9年間で約5億ドルに達した」などという記述もある。

モトローラのテキサス工場であった開所式に、エリック・シュミット(Eric Schmidt)やデニス・ウッドサイドらと出席したペリー知事は、「ボケットから取り出した自分のiPhoneを『こんなものはもう不要』とばかりに放り出し、その後で自分用にカスタマイズされたMoto Xを披露してみせた」(The Verge)といったギミックまでしていたらしいが、今後はまたiPhoneに戻ったりするのだろうか。

[Motorola, under Google, unveils Moto X smartphone - CNN]

【参照情報】
Motorola's American dream is over - The Verge
Google's Motorola Mobility to Close Factory in Texas - WSJ
Motorola Mobility deal unusual for not seeking tax incentives - Star-Telegram
Apple CEO Tim Cook announces plans to manufacture Mac computers in USA - NBC News
Made in America: a look inside Motorola's Moto X factory - The Verge
THE INSIDE STORY OF THE MOTO X - WIRED
Rick Perry, Texas's Star Business Recruiter, Will Be Missed - Businessweek

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