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アイデアを考えるために環境を変えるということ

2014.09.08

Updated by Ryo Shimizu on September 8, 2014, 11:11 am UTC

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 私はいつも大切なアイデアをまとめるとき、最初に徹底的に情報収集を行います。頭の中を全てその案件で満たし、寝ても覚めてもそのテーマについて考え続けます。読む本、見る映画、全てをひとつのテーマに集中させ、とにかくインプットを集めます。

 それを一週間くらい続けて、それ以上のインプットが不必要になると、次に思索に移ります。

 思索するために、まず外界と自分とを切り離します。

 長距離をドライブしたり、目的地も決めずに電車でふらっとでかけたり、とにかく普段の環境と離れた場所へ行きます。

 電波がとどかないような山奥にわざとでかけることもあります。

 

 先日、どうしても時間がない中で、非常に重要なことを考えなければならなくなりました。
 こうなるといつものようなやり方では少し時間がかかりすぎてしまいます。

 そこで思い切ってキャンプをしてみることにしました。
 私は父がアウトドア派だったので、キャンプや登山の経験は一通りありますし、道具の扱いも知っています。短時間で気分を変えるにはこれしかないと思いました。

 しかし自分で主体的にキャンプをしてみようと思ったのは実に学生以来、15年ぶりのことです。

 キャンプをして、まずは一旦、インプットした情報を忘れます。
 環境を変化させることで、まず頭をリセットするわけです。

 キャンプで火をおこすのがなかなか手間がかかることだったということを、今更ながらに思い出します。

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 限られた時間、限られたリソースで何が出来るか、キャンプをしてみると、普段の生活がどれだけ豊かなインフラに支えられていたか思い知ります。

 そういう中に身を置いて、ゆっくりと考えを整理すると、自然と膨大なインプットの中から、どんな情報が重要で、どこがエッセンスになりうるのか、大切なことはなにで、省くべきことはなにか、そういうことが自然に頭に浮かんできます。

 しばらくの間、たとえば五時間とか六時間とか、ぼうっと火の番をしながらぼんやり考えていると、不意に頭の奥底に何か光りのような、輝きのようなイメージが見えてきます。

 そうして浮かんだイメージを摑み取り、メモしていきます。
 幸い、キャンプにはenchantMOONを持って行きました。浮かんだイメージをそのままにそこに書き下して行くのです。

 何ページ使おうとenchantMOONなら関係ありませんから、書き損じを気にすることなくどんどん書き進めることが出来ます。

 MacBookAirも持って行ったのですが、残念ながら出番は有りませんでした。
 キャンプのような場面でenchantMOONのような金属ボディの筐体は意外としっくりきて驚きました。

 テントの中で、浮かんでは消えるイメージや言葉を書いて行きます。

 それから日が落ちて、いつもなら決して眠ることのない時間に眠りにつくと、頭の中に浮かんでは消えて行ったあれやこれやが、ゆっくりと結晶化していきます。

 朝起きて、朝ご飯の支度をするような頃には、すっかり頭の中は固まっていて、あとはアイデアを清書するだけです。

 忘れないうちにMOONにメモをして、午前中のうちに片付けをして、車で自宅に戻り、改めてMacBookAirを開き、Keynoteをまとめます。

 ここまでくれば纏める時間は非常に短く、だいたい1時間程度で全体の骨格ができます。

 あとは装飾を加えたり補足したりするだけですが、念のため信頼できるスタッフに見せて意見を集めました。「もっとこうした方がいい」「ここは今の段階では省くべき」「この部分の説明が足りなくてわかりにくい」といったアドバイスを貰って、一日かけて企画書を練り上げます。何度も読み返し、手を加え、また読み返し、といったことを繰り返します。これをどれだけやるかが企画書の全体的にクオリティに影響してきます。

 自分としても満足の行く内容になり、翌日のプレゼンは成功と言って良い結果になりました。
 
 ただこれは、時間が倍あったらもっといいものになるかというと、それは違います。
 時間制限があるからこそ能力を集中して発揮できる、という性質を私達は忘れがちです。

 特に管理職になると、実際の企画やプレゼンを作る作業よりも報告を受けたり意思決定をしたりといった仕事が増えてしまいます。

 むしろ日本では100人規模の会社で社長が未だ企画書を書いていることは珍しいのかもしれません。

 しかしベンチャーはとにかく社長が命です。
 社長の能力をそのまま拡張したものが、すなわち会社組織そのままなわけですから、自分の頭で企画を考えるのは当然です。

 もちろん、UEIとしては毎月たくさんの企画があり、たくさんの製品がリリースされているので全てを社長一人が考えるというわけではありませんが、社運がかかったような重要なプロジェクトでは、社長自らが頭を使うべきだと私は思っています。

 ビル・ゲイツもかなり長い間、自分で製品を企画していましたし、会長を退いた後も長い間チーフアーキテクトを勤めていました。チーフアーキテクトとは、Microsoftにおいてはすなわち製品の根幹を設計する人です。

 それはスティーブ・ジョブズも同じです。彼らが社運をかけた製品企画を他人任せにしていたら、絶対にああいう成功には至って居なかったと思います。

 私のまわりを見渡すと、同世代のベンチャー経営者であっても、自ら企画を考えている社長はどちらかというと少数派です。そうした人たちは私を「変わり者」だと思っています。私と彼らには明確な違いがあります。それはプログラマー出身か、そうでないかです。

 プログラマー出身の経営者は、コードを書くのをやめても自ら企画を考える傾向が強いのに対し、プログラマー出身でない経営者は、企画を自ら立てるよりは企画者を雇うことを選択する傾向が強いように思います。

 たとえばプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の経営者が自ら製品を企画していると思うか、と聞かれれば、たいていの人は「そんなことはない」と思うでしょう。

 ではNTTドコモの社長はどうでしょうか?彼らは自社の製品を自分で考えているでしょうか?
 答えは半分YESで半分NOです。

 1990年代の末期、ドコモの大星会長は「インターネットをどうにか携帯電話に取込めないか」というアイデアを部下に話しました。インターネット対応携帯電話ビジネスの立ち上げを命じられた榎部長は、インターネットといえばコンテンツプラットフォームだろう、と考え、リクルートで「とらばーゆ」の編集長をしていた松永真里氏を引き抜き、ゲートウェイビジネス部を立ち上げます。松永氏はたしかに「とらばーゆ」という、転職コンテンツのプラットフォームを運営するノウハウを持っていました。しかしインターネットの専門家とは言い難いため、松永氏はかつて学生アルバイトでパソコンとネットに詳しかった少年を思い出します。

 そうして招聘されたのが、夏野剛氏です。東京ガスを辞め、世界初の無料インターネットプロバイダ、ハイパーネットの副社長として活躍していた夏野氏の抜擢は、まさにうってつけだったと言えます。

 当時のドコモくらいの規模の会社であっても、会長が新しい事業企画を考えていたわけです。

 会社の大小と関係なく、経営者が企画を考える会社か、そうでないかという違いはもしかしたら会社の本質的な違いなのかもしれません。

 もちろん社長が企画を考えれば常に良い会社というわけではありません。
 逆にそれが原因で失敗している会社も沢山あります。単に「違う」というだけです。男と女くらいは違うかもしれません。

 ただどちらにしろ、ベンチャー企業にとって、経営者本人の企画能力が会社の生命線であることは間違いないと思います。ベンチャー企業は経営者が企画し、それを投資家にプレゼンするわけですから。そこがうまくいかなければそもそもスタートさえできません。

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 ただし、「短い時間に集中的に考えること」は経営者にのみ有効な思考法ではありません。

 むしろ幅広く使える普遍的な方法論だと私は思います。

 UEIが最近取り入れているのは、「社内ハッカソン」による開発アイデアの検討です。
 社内である特定のテーマまたは技術について、制限時間を設けて集中的に作業させます。

 この時間は、短かすぎても長過ぎてもよくありません。
 短すぎれば充分な能力を発揮できず、長過ぎれば疲労がとんでもないことになってしまいます。

 私はいろいろな方法を試しました。短いものでは3分、長いものでは二日間に及ぶハッカソンを試行し、今のところ、だいたい4〜5時間のハッカソンを二日連続で行うのが効果的という結論になりました。

 重要なのは一日目と二日目が繋がっていないことです。
 一日目と二日目がつながっていると、それは事実上48時間のハッカソンになってしまいます。

 そうではなく、一日目の結果を二日目に持ち越さないようにするのです。

 そうすると一日目で充分な能力を発揮できなかったチームも、二日目には追いつけるようになります。
 

 つい先週末も、土日続けて社内ハッカソンを行いました。
 だいたい、4〜5時間で1チームあたり4〜6本の実装を行うことが出来ます。
 ハッカソンなので完成度よりも実装のスピードを競わせるのが効果的です。そのほうが沢山のアイデアが出ます。

 ハッカソンでは多産多死を奨励することが大事で、それはブレインストーミングのルールと似ています。つまり、どんなアイデアも「くだらない」といって切り捨てるべきではないのです。

 この方法論が社内でうまれたのはほとんど偶然でした。
 もともとはenchant.jsというミドルウェアを啓蒙するために行っていた社内のお遊びから、少しずつ仕事を集中的かつ効果的に行う手法として洗練させて行ったものです。

 UEI方式のハッカソンは電通の中堅社員教育にも活用されました。
 

 この手法を効果的に運用するにはまだ多くのノウハウが必要になります。

 しかし共通しているのは普段の仕事場とは違う、独特の緊張感のある環境に身を置き、短時間で集中して能力を引き出すことに有ります。

 実際、今回は社外の方も参加してのハッカソンでしたが、社外の参加者からは「仮に自分一人で開発していたら、同じ成果を出すのに一週間はかかっていたかもしれない」という感想も出ました。

 チームでやること、制限時間があること、多産多死を奨励すること、は間違いなく自分自身でも信じられないような能力を引き出してくれます。

 いわばスポーツで言う試合や大会のようなものです。

 こうした方法論は今後もっと洗練されて行くでしょう。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。