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普通のサラリーマンに24時間で「瞬間プログラミング」を教えてみた

2014.11.16

Updated by Ryo Shimizu on November 16, 2014, 17:53 pm UTC

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 年に一回、電通の社員向け研修をするようになってから、もう4年になります。
 私が普段接しているのは、大学生やコンピュータ関係の仕事に就いてる社員なので、電通で営業や企画として働くごく普通のサラリーマンとOLたちに研修するというのは多いに刺激を得られる楽しい仕事なのです。

 しかも彼らは、文句無しに日本でも飛び抜けて優秀なサラリーマンたちです。

 これまで電通の選抜された20名に「ゲーム企画」「ソーシャルゲーム×社会貢献」「ノベルゲームプログラミング」など、数々の難題を出して来ました。

 もともと鏡明役員(当時)のアイデアで始まったこの電通向けスパルタ研修企画、毎回私の予想を大きく裏切る素晴らしい作品を見せてくれます。

 そこで今回は私が最近考えている「瞬間プログラミング」を題材にしてみることにしました。

 「瞬間プログラミング」とは、必要な道具をアドホックに創り出すという手法で、これは単にコンピュータのプログラミングという枠を飛び越えて、実生活の様々なことに応用できると考えています。


 
 例によって午前中は一般社員も聴講可能な講義スタイルでコンピュータとプログラミングの歴史と、そもそもプログラミングというものはコンピュータと切り離して考えられるものであること、などを説明します。このあたりは拙書「教養としてのプログラミング講座」ではお馴染みの内容です。

 そして瞬間プログラミングを効果的に実現するための道具として、enchantMOONを出しました。
 まずはウォーミングアップとして、自分で作ったプログラムを使ったインディアンポーカーをします。

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 社員が何万人もいる会社なので、研修でも初顔合わせの人ばかり。
 そこでまずこうしたゲームで打ち解けてもらいます。

 そしていよいよ瞬間プログラミングの練習。
 最初のお題は「クリスマス」にしました。
 制作時間は20分です。

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 するとみんなそれぞれ思い思いの「クリスマス」をenchantMOONで表現することができました。
 初めて触った機械ですぐにここまで作れるというのがMOONを使う強みです。

 手書きの絵と簡単なブロックの組み合わせで動きを含めたアプリを実現できます。

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 面白いなと思ったのは、たとえばこの上の作品なんかは、「クリスマスにカップルばかりで僕はひとりぼっち」ということを表現しています(絵が下手なのはご愛嬌)。カップルがたくさん現れて来るのですが、当たり判定を付け忘れて「ぼく」を操作することはできてもカップルからはスルーされます。

 偶然ですがこの「カップルからスルーされ続ける僕」というのが非常に叙情詩的な表現になっていました。

 触りながら、動かしながらアイデアを煮詰めていく、というのが瞬間プログラミングのスタンスです。

 次に挑戦したのは、これまでどのハッカソンでもやったことがない、「二人一組になって二台の端末を組み合わせたゲームをつくること」でした。

 さらにここに電通コミュニケーションデザイン局の細金さんから「オリンピック」というテーマが与えられ、混迷を極めます。

 enchantMOONには現在のところ、二台の端末が互いに通信するような機能がありません。
 ということは、完全に独立した二つのコンピュータを組み合わせて一体化したゲームを作る必要があるのです。

 これはいきなりハードルの高い難題ですが、時間は同じく20分。
 しかし面白いアイデアがどんどん産まれました。

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 たとえばこれは「フェンシング」
 二台のenchantMOONを盾として、ペンでお互いの画面をつつき合うのです。

 画面にペンが触れるとブザーが鳴って点数を失うというわけです。
 見事ですね。

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 これは二台を使ったボクシングゲーム。
 片方でパンチの方向を選び、片方で避ける方向を選びます。
 ジャンケンの要領で、せーのでボタンを押すとハイパーリンクでジャンプして避けられたかどうか決まるわけです。

 いきなり初めて会った人とペアになって触ったこともない機械でたった20分でここまで作れるんだから電通マンはさすがです。

 一般的にハッカソンみたいなものはチームの人数が増えるとコミュニケーションコストが増大するので二人より一人の方がアイデアを具現化しやすいのですが、今回の電通マン達はそういう罠にはハマりませんでした。

 そして最終問題。
 これは午後4時にスタートして翌日の午後1時に発表するという、まあ一言でいえば地獄のようなマラソンです。まさにハッカソンと呼ぶに相応しいもので、もちろん徹夜する義務はありませんが、「絶対に勝ちたい」という思いが全員にあるため、全チームほとんど徹夜状態になるというブラック企業も真っ青な、電通のワークショップにつきものの暗黙のルールです。

 つまり20時間くらいぶっ通しでやるのです。

 そのためにはそうそう簡単な課題を出すわけにも生きません。

 そこで今回は、「四台の端末を効果的に活用する」というルールを設けました。
 二台でもしんどいのに四台です。

 1チーム4人なので、ちょうど全員の端末を使えば実現することができます。

 そしてさらにテーマとして「恋愛エンターテインメント」というものを課しました。

 これまたいくつも答えがありそうな超難題です。

 さあ果たして、電通マン達は瞬間プログラミングを駆使してこの難題に答えることができるか!?

 瞬間プログラミングの極意は、できるだけプログラミングしないことです。
 故に瞬間であるわけです。

 つまり今回は与えられた時間の大半をアイデアの検証に使えるようにしています。実作業はほとんどなくても、瞬間的なアイデアを評価するという仕組みです。

 ここからはグループごとに用意された個室に別れてのグループ作業です。

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 どのチームもまず最初の数時間は頭を抱えていたようでした。
 四台をどう使うか、ということと、恋愛という普遍的なテーマをエンターテインメントとしてどう切り取るかということ、二つの難題が彼らを襲います。

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 いろいろなアイデアがでたら、その場でプロトタイプを試作して検証してるチームもいくつかありました。

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 たとえばこれは、デート中に相手の本音を引き出すためのプロトタイプです。

 こういうプロトタイプをいくつも重ねて答えに向かっていきます。
 でも開始から三時間の時点で何を作るかハッキリしていたチームはひとつもありませんでした。

 「しかしさすがに今回は完成できないチームもあるんじゃないの?」

 惨憺たる状況に細金さんも不安そうです。
 私も正直、「今回ばかりは脱落者が出ちゃうかなあ」と思いました。

 毎度毎度、私と細金さんが出す「そりゃ無茶だろ」という課題を完璧にこなしてくる百戦錬磨の電通マンたちも、今度と言う今度ばかりは難易度が高過ぎるかもしれません。

 しかしそれとは裏腹にどこかで期待がありました。

 「きっといつものように、なにか凄いことをやってくれるんじゃないか。それがどんなものかは想像もつかないけど」

 果たして翌朝、この細金さんと私のコンビで行うワークショップの幹事を長年やってきた人事部の金原さんから第一報が入りました。

 「やっぱ徹夜してたみたいです」

 やっぱりか。
 しかし一体なにをどうすると徹夜することになるんだろう?

 私にはもはや想像もできませんでした。

 そして運命の午後1時。
 命を削ってアイデアを絞り出した汐留頂上頭脳戦。
 その闘いの火ぶたは切って落とされたのです。

 「ではチームAから発表させていただきます」

 ナレーター役の社員が挨拶しました。
 しかしその直後、私たちは度肝を抜かれます。

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 「私たちは未来の恋愛はどうなる?ということを考えました。未来の世界ではきっとネットで知り合った相手と付き合うのが当たり前になるはずです。しかしネット上の自分しか知らない相手に、リアルな自分をいきなり見せるのは勇気が必要・・・・そこで考えました、enchantMOON仮面です!」

 絶句しました。
 でもなかなか上手いのです。

 顔に取り付けられた端末にはTwitterなどのアイコンが、胸にとりつけられた端末にはハートが描かれていて、会話の盛り上がり具合によって自分でハートの大きさを左右フリックして大きくしたり小さくしたりできます。

 少し打ち解けて来ると・・・

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 モザイクのかかった自分の写真になり、さらに仲良くなると・・・

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 胸に本名が表示され、ヘルメットの端末を開いて「こんにちは」と挨拶するわけです。

 凄い。
 凄いというか、もはやわけがわからない。

 これが電通の底力か!!

 いきなりこれだったので、次のチームの姿を見てもさほど驚きませんでした。

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 4面enchantMOON阿修羅仮面です。
 妻と愛人に詰め寄られ、ビンタされるのを端末上でのスクロールで表現しようとしていました。

 最後は

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 妻と愛人の両方から三行半を突きつけられ、独身になってしまいます。

 コントですね。もうこれは

 ただ、もうひとつ「実用的なツール」を考えた、ということなのでプレゼンを聞くと

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 夜の夫婦生活のすれちがいを無くすための「YES/NOまくら」をenchantMOONで作るとより素晴らしいものができるというプレゼンでした。それは考えたことが無かった。

 しかもハイパーリンクだけで実現できているシンプルさは、瞬間プログラミングというお題と照らせばバッチリでした。

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 続くチームは鉄板の合コンゲーム集三つです。

 四台組み合わせた指ツイスターと、くちびるDUSHゲームという連打ゲーム、自分の恥ずかしい写真を消しゴムで一定時間消す「見ちゃいやよゲーム」と、どれもそれぞれ工夫がされた力作でした。

 ここにたどり着くまでにさらに多くのネタを考えた上で絞り込んだというから苦労の後が見えます。

 そして次の作品が、またまた我々の度肝を抜くことになります。

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 TRSこと「Totte Roundtable System」

 端末のハンドル部を組み合わせて四台をひとつの端末に合体させます。
 この発想は無かった!

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 そして組み合わせた上で合コン参加者の顔に落書きしたり、秘密のメッセージを書いたりすることができます。
 なるほどこれは画期的。

 これをくるくるまわして四人分やると、密かに連絡先を交換したり鼻毛でてるよ、などの重要情報をアノテーションしたりすることができます。

 これはプレゼンも関西弁のスティーブ・ジョブズ風で面白く、かなり高い評価を受けたのですが、最終的に優勝したのは最後の作品でした。

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 これは実に見事な作品で、いわばenchantMOONを使ったミュージックパフォーマンスです。

 広末凉子のヒット曲「ダイスキ」に合わせて四台のenchantMOONを持ったメンバーが暗闇で踊ります。

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 しかも、四台というハンディキャップをものともせず、「つきあってください」という9文字を端末をじゅんぐりに見せながら後ろの人がページめくりするというマスゲーム的なやり方で、これは奇しくもプログラミングテクニックのひとつ「リングバッファ」を彷彿とさせます。

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 さらに、「つきあってください」のデモのあとで「YES」または「NO」と書かれた二台の端末を示され、NOを選ぶとゲームオーバーになり、YESを選ぶとハートの嵐が振って来る、というインタラクティブ性まで備えていました。ここまでくると、このパフォーマンスは立派にプログラミングされていると言えるでしょう。

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 あまりに面白いのでここでお見せしたいのですが著作権的にいろいろまずいので動画は公開できません。写真で想像してください。

 しかし、結婚式の余興などでやったら凄くビックリするのではないかと思います。とても楽しく、もう一度見たいと思いました。

 最後の最後まで悩みましたが、細金さんと「やはりあのパフォーマンスは凄く考えられてる」という結論に達し、これが優勝しました。

 エンターテインメントですから、その大切なことは、「もう一度見たい」と思わせるかどうかです。
 そういう意味では他の作品もどれも力作だったものの、「もう一度見たい」と思う程には至りませんでした。

 私が今回の研修で伝えたかったことは、「プログラミングはコンピュータの中だけでやるものではない」ということでした。「むしろコンピュータをうまく使って現実の世界を動かそう」ということです。

 それを見事に捉えて、素晴らしい作品に仕上げていただいた電通マンの皆様には感謝の言葉しかありません。

 そしてやはり改めて、電通というのは凄い人たちがいる会社だな、と思いました。

 そしてここまですんなりと瞬間プログラミングを電通マンたちが咀嚼できたのであれば、電通の外の人たちにも同じようにやれば上手くできるのではないかと思いました。

 いつかそんな企画もできればと思います。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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