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オランダのゲーム産業に注目(1):シリアスゲームからローカライズまで

2014.10.14

Updated by Hitoshi Sato on October 14, 2014, 08:24 am JST

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オランダのゲーム産業の成長が目覚ましい。2011年にオランダ国内のゲーム関連企業数は330社、雇用人数は3,000人を超えた。特にゲーム開発会社が約250社以上と、人口1,680万人の国としてはかなり多い。オランダではゲーム業界に従事する人の数は人口10万人あたり9.94人で、フランスの3.38人やドイツの3.54人に比べると、その数がいかに多いかがわかる。アメリカの10.6人や日本の10.19人に肉薄する勢いである。

2014年9月18日から21日まで、千葉・幕張メッセで世界最大級のゲーム関連イベント「東京ゲームショウ 2014(TGS 2014)」が開催されていた。日本国内からだけでなく海外からの出展や来場者も目立っていた。その中にオランダもブースを構えており、オランダから5社のゲーム会社が出展していた。

オランダにおけるゲーム産業はアムステルダムに70社以上とユトレヒトに60社近くとこの2都市に集中している。またオランダにある大学で合計44のゲーム関連のカリキュラムが用意されており、8,000人以上の学生がそれらを専攻しているため、将来のゲーム業界の人材育成にもなっている。特にアムステルダム自由大学、アムステルダム大学、ユトレヒト大学、ユトレヒト芸術大学などがゲーム業界向けの人材育成に積極的である。

オランダにおけるゲーム産業の特徴

(1)シリアスゲーム
「シリアスゲーム」と聞いても日本人にとっては馴染みがないかもしれない。日本でゲームといったら、ほとんどが「エンターテイメントゲーム」である。日本人や多くの世界の人にとってゲームはエンターテイメント(娯楽)である。シリアスゲームとは、そのようなエンターテイメントゲームとは一線を画し、教育、医療研修、災害対策シミュレーションなどを主目的とし、ゲーム性をもちながらも現実的な能力の習得を目指すゲームのことである。

脳トレなどの知能トレーニングゲームから、パンデミックを想定したロールプレイングの医療目的ゲーム、人材開発のためのプロジェクトマネジメントゲームなど様々な用途のゲームが開発されている。また商品やブランドなどの広告を目的として提供されるアドバゲームもシリアスゲームである。

オランダにおけるシリアスゲームの開発は国際市場でも群を抜いており、オランダに拠点を置くゲーム会社のうち約半数以上がシリアスゲームを開発している。代表的な企業としてはシミュレーションや技能訓練のゲームを開発するE-SembleやVStep、医療研修や研究関連のゲーム会圧のRanj Serious Games、Gendle Games, Ijsfonteinなどがある。アドバゲームの分野ではシャーロックホームズなど様々なハリウッド映画のゲーム化を手掛けているSticky Studioや、ハイネケン、KLMオランダ航空を顧客に持つLittle Chicken Gameなどがある。

(2)カジュアルゲーム
オランダのゲーム業界の特徴として、ビッグプレーヤーが存在せず、ほとんどが中小企業である。上述のようにオランダにはゲーム開発を専攻できる大学や専門学校が多数あり、学んでいる学生も多いが、彼らの多くは大きなゲーム会社に勤めるのではなく自ら起業してゲームを開発することを選ぶ。そのため、オランダに拠点を置くゲーム関連会社330社のうち約250社がデベロッパーであり、中でもインディーズのデベロッパーが多い。

このようなインディーズのデベロッパーが開発しているのが、カジュアルゲームである。例えばSpil Gamesが運営するオンラインゲームポータルでは19の言語でプレーが可能で、毎月1.8億人の訪問者がいる。またGameHouse Europeが運営するオンラインゲームポータルZylomはゲームに限らず全ジャンルの中から最も優秀なインターネットサイトを決める「Website of the Year」を2011年、2012年の2年連続で受賞した。ほかに世界有数のモバイルゲーム・ディストリビューターであるBooster Media社は世界約25か国で100以上のゲームチャンネルを有しており、HTML5モバイルゲームの先駆者で、2014年7月、ヤフーが運営する「Yahoo!ゲーム」向けに、ブラウザ型カジュアルゲーム11タイトルの提供を開始した。

(3)ローカリゼーションと移植
開発されたゲームを配信するために必要な各種ツール、例えば各国言語へゲームを適合されるローカリゼーションや他プラットフォームへのゲーム移植の分野においてもオランダは強い。オランダはヨーロッパ内で大国に囲まれているという特性から国民のほとんどが多言語を操るため、各国市場向けのゲームのローカリゼーションには適した国である。たしかにオランダでは英語が問題なく通じるのでオランダを訪問する外国人がオランダ語を学習する必要はほぼない。これはゲーム産業以外でも多くの業界が注目するオランダのメリットの1つといえる。

代表的な企業としてユトレヒトにあるLocal HeroesはソニーコンピュータエンタテイメントやWarner Brosなどのゲームの各国へのローカリゼーションを17年にわたって担当している。

ローカリゼーションの他にも移植分野もオランダは強い。例えば世界的にヒットした「Angry Birds」をiOSからAndroidに移植したのはアイントホーフェンにあるAbstraction Gamesである。ユトレヒトにあるNixxesはスクウェア・エニックスの「Deus Ex: Human Revolution」のPC版への移植と、「トゥームレイダー」のPC版とPS3版への移植を行ったことがある。

日本では知られていないかもしれないが、このようにオランダではゲーム産業が盛んである。また「シリアスゲーム」という、日本では研修や自己啓発に使われるようなコンテンツを提供するゲーム開発にも強い。またオランダでは大学などでも多くのゲーム開発の教育が行われており、今後のオランダの経済をけん引する1つの産業としても注目される。

次回はオランダのゲーム市場や有利な税制、助成金プログラムや同国のゲーム団体について紹介していきたい。

【参考動画】E-Sembleの開発したシリアスゲーム

▼東京ゲームショー2014に出展していたオランダ大使館ブース「オランダ・ゲーム・フロント」
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▼オランダのローカリゼーションのゲーム会社Local Heroes`のオフィス。壁いっぱいに今まで手掛けた(ローカライズした)ものが貼ってある。
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【参考情報】
オランダ経済省企業誘致局 駐日代表部

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。