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技術とイノベーションが生活に根付くということ

2014.12.03

Updated by Satoshi Watanabe on December 3, 2014, 10:34 am JST

少し前の話になるが、開業云年を経て、ようやく自社サイトを作ることとなり、ひっそりと公開運用している。
特段サイトが無くても仕事が出来ないということは無い職種であるし、実際無しでやってきたのであるが、ちらほらと自社サイトを持っていないのを胡散臭く見られるような気配がして来ていた。ニュアンスを要約すると、「顔が見えず看板も無いのでちゃんとした人たちと感じにくい」というところである。
思い返すと、インターネットに便所の落書きとの呼称が過去流通していた事実もあるように、企業がサイトを作ることに対して、あんな好事家が触るだけで役にも立たないものにカネかけるなんて、という風潮は少なからずあった。その後、サイトがあるのはむしろ当たり前になり、ファナックみたいな会社は超希少種扱いをされ、果てはブランドサイトが運用されて文字通りその会社の顔や品格を受け止めて表現する役割を担うことも珍しくなくなってきたことを思うと、サイトを持っていないことに一抹の胡散臭さを感じるというのは分からないでもない。
しかし、後発の企業がコーポレートサイトを本格的に整備し始めたのが2000年代であることを思い出すと、真逆に振れたとも言えるこのビジネス習慣の変化は概ね10年で起きたことになる。大きな文化の変化は、モノによっては10年20年で済まないことを踏まえると、「いやいや、あなた(たち)ついこの前までけちょんけちょんに言ってたじゃないですか」的な感想も浮かんで実に面白い。
持ってることをある種胡散臭いというか流行りものに流されで地に足がついてない、などと言われてたところから、ここまで世の中に定着して必須のものと認識されるようになったのだな、というのを改めて理解しつつ、いい機会だからさくっと作ってしまおうとして冒頭に至る訳である。
■ 技術が生活の一部となることあるいは生活を変えてしまうこと
技術というのが長期に渡って使われるには、エンタメ的なものを除くと、製品などの形を借りて生活の一部になる、更には生活を変えてしまうという水準まで普及浸透する必要がある。必ずしも煌びやかなものじゃなくても、ゆっくりしっかりと世の中を変えていく、あるいは、世の中の変化と歩調を合わせて業界業態自体が変遷を遂げていくものは少なくない。
身近で分かりやすいところだと、いまだ普及変化の途中にあるものとして携帯電話が好例となる。大人や仕事する人のツールというところから、家族契約が一般化して小中学生も含めてひとりひとりが持つものとして変化が起きるに並行して、電話は家族なり世帯にかけるものではなくて、個人に直接かけるものという認識に変わった。
結果、電話をかけた際にお互い名乗るという習慣が携帯電話間ではなくなってしまった。登録している番号にかけたらお互い誰か分かっているから、出る前に「あ、**から電話だ」と分かるので名乗る必要はない、という今更説明するまでもない仕組みとなる。また、同じくわざわざ説明するものでもないが、電話番号を覚えなくなった。昔はなんであんなのを覚えてられたのだろう?、ともはや10年前20年前の自分が信じられない気分である。
近しいところで、興味深く推移を追ってるものとして、お金と決済の分野がある。都市部に住んでいることも背景理由としてあるだろうが、オンラインでのクレジット決済から10年以上越しの普及トライアルを経て電子マネーが普通に使えるようになってきたことから、お札と硬貨の出番が年々減っている。むしろ、ちょこまかと小銭を数えたり管理するのを煩わしく思うくらいになってきた。財布忘れても、Suicaあたりがあれば、移動して買い物として食事して仕事でも週末の外出でも一通りのことはもう出来てしまう。
というあたり、目新しいよ珍しいよ、時代の先端だよとのある種見世物的な普及ストーリーの見せ方ではなくて、もう少し穏当で静かな世の中への混ぜ方が情報系の技術には要されるようになってきてるのかも、というのをこのところ考えている。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。

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