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タクシーもホテルも、みんなシェアすればいいじゃないと世は言うけれども

2014.12.26

Updated by Satoshi Watanabe on December 26, 2014, 16:11 pm JST

シェア」の邦訳版が出されたのが、2010年。SNSが世の中に普及定着しているところで、次はこれだと提示され、様々なスタートアップやサービスが生み出されて現在に至る。
概ね4年経った今、日本でもシェアードサービスは一定の認知(と普及?)を見るようになり、国内でも優れた事例や景気のいい話なども耳に入るようになってきている。
例えば、数日前の記事である「500万円儲ける一般人も出た「自宅民宿」 旅館業界を激怒させる「Airbnb」とは」などは、既存業界との対立的な状況も見据えつつ実体=ある程度の経済取引規模を伴った現象になってきているとの構図が上手くまとまっている。
■ シェアという思想と生き方
モノを個人で所有しない、必要な時に必要なだけというのがシンプルで新しくてかっこいいんだ、との思想主張はレンタルサービスが一般普及したころからいろんな形で言われてきた。根っこの考え方自体は大きくは変わっていない。大きな傾向として見て取れるのは、CDといった雑貨的なものから車や不動産といった大物に対象範囲が広がっていることである。
モノの貸し借り管理というのはやりだすと手間がかかりめんどくさい。めんどくさいことをいちいち繰り返すくらいなら手元にあった方が話が早いので買っちゃえ、となる。逆にそのめんどくさいのが上手くサービス化されていてば買わずに済ませる人が増える、というのはごく自然な経済原理である。よって、情報技術が発達し、ネットワークがモバイル含めて普及し、スマートフォンの普及が続く状況を下地として、シェア型のサービスが伸びてくるというのはこれまた自然に理解できる。
というところで、世の中ひとつ便利に良くなりました、と言って終われば話は簡単なのであるが、(予想はされていたが)そうは簡単に済まない事案が幾つか出始めている。
■ 顕在化するリスク
名指しで批判したい訳ではないが、Uberが良いケースになってしまっているので、幾つかピックすると、
といったニュースが目につくようになってきた。
また、韓国においては
創業トップであるTravis Kalanick氏が刑事罰のリスクにさらされている。
これらの出来事を持って、ほーらみろやっぱりシェアなんて、と快哉を叫ぶつもりはない。
ないのであるが、Airbnbにしても「ホテルと同じようなもの」、Uberにしても「タクシーみたいなもの」と既存もののサービス認知にフリーライドして評価されている面があることは否めない。
無論、下手に画一的なホテルよりもしっかりとした個人経営の方が良いし、そういうものを見つけやすくなったという声は各所にあり、これもまた同意出来るものである。余剰遊休資産の活用機会と考えると、単なるダンピングによって成立してる取引市場ではない、というのも説明づけられる。
しかし、CDレンタルで失敗してしまったくらいならともかく、タクシーにしてもホテルにしても身体安全のリスクが近いところにある。宿としていまいちだった、くらいで済めばちょっとした笑い話になるが、それ以上のことになると取り返しがつかないものであり、タクシー業界にしてもホテル旅館業界にしても様々な形で努力を重ねて業界のあり方を形作ってきている。
C2Cのサービス市場で最も早く立ち上がり、世界的にも大きな規模に達しているのがいわゆるオークションであろう。米国eBayから日本のヤフオークションから先行者は多いが、初期にはやはりトラブルが多発し、ユーザー評価の仕組みを取り入れたり、取引の安全担保のためエスクローサービスを原則導入するといった対処を続けてきた。
既存のECに比して、エスクローが必須なものとしてC2Cオークションを捉えるのであれば、UberにしてもAirbnbにしても、エスクロー的な何かなり第三者機関などがセットになって初めていい形で回るものでは、との考えがどうにも頭を離れない。
■ 2020というターゲット年
2020年のオリンピックに向けて、及び観光立国の強化を受けて、都内を中心にホテル需要はうなぎのぼりになっており新築計画を合わせても追いつかないような伸びを示している。業界としてはいいことであるが、いざ2020年になって「大会は運営出来るけれども、宿はありません」になるのもちょっと格好が悪い。宿泊需要の代替的な吸収先としてAirbnbのような仕組みもあってはいいのではないか、との指摘にも頷けるところではあるが、野放図に数だけ増やすようなことで安全安心おもてなしを失ってしまうような事態を避けるにはさてはてどうすればいいのであろうか。
共有と共創というテーマが最近個人的にも近しいものになっており、あれこれ考えをめぐらしてはいるものの、どうにもまだシロともクロとも、あるいはこうすれば問題はクリアされるとも言い難い悶々とした状況が続いている。

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渡辺 聡(わたなべ・さとし)

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特任助教。神戸大学法学部(行政学・法社会学専攻)卒。NECソフトを経てインターネットビジネスの世界へ。独立後、個人事務所を設立を経て、08年にクロサカタツヤ氏と共同で株式会社企(くわだて)を設立。大手事業会社からインターネット企業までの事業戦略、経営の立て直し、テクノロジー課題の解決、マーケティング全般の見直しなど幅広くコンサルティングサービスを提供している。主な著書・監修に『マーケティング2.0』『アルファブロガー』(ともに翔泳社)など多数。

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