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美女と高級車、デザインという仕事 

2015.01.12

Updated by Ryo Shimizu on January 12, 2015, 11:21 am UTC

 iPodとiPhoneのデザインで知られる、Appleで唯一、スティーブ・ジョブズ以外の誰も指示も受けない特権を持つ男、ジョナサン・アイブの伝記が出版されました

 非常に示唆に富む内容で、全ページ赤線を引きたくなるような傑作です。

 林信行氏の手による序文も、序文の範囲を越えた力作になっており、本当にオススメです。個人ブログでも詳しく書きましたが。

 そしてこの本を読むと、本書で度々言及されている「アップルデザイン」という本も読みたくなります。早速昨日購入し、今朝読んだところです。

 この本も本当に面白いのでオススメです。

 そして改めて「デザイン」という仕事について考えてしまいました。

 昨日は、幕張メッセで開催された東京オートサロンに行ってきました。

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 東京オートサロンは、改造車のショウです。

 アフターパーツメーカーやチューナーが一同に会し、さまざまなカスタムカーを展示しています。

 私自身も改造車の雑誌媒体の仕事をさせていただいたことがあり、オートサロンには何年かスタッフとして参加させていただいたことがあります。

 久しぶりにオートサロンにでかけると、駐車場は大混雑。幕張メッセのあの広い駐車場の入口が渋滞していてなかなか中に入ることができないほどの大盛況でした。


※写真は乙幡紗紀さんから許諾を得て掲載しています

 オートサロンといえば、美しいコンパニオンさん達も見どころのひとつですが、当然、主役はさまざまなアフターパーツメーカーが作ったカスタムカーです。

 しかし美女とカスタムカーの組み合わせはなぜ多いのでしょうか。
 世界各国のモーターショウにも必ず美女が立っています。

 日本ではCEATECなどのビジネスイベントでもコンパニオンが立つことが多いのですが、実は欧米ではそうしたイベントでコンパニオンが立つことは極めて稀です。

 にもかかわらず、モーターショウは世界中どこでやってもコンパニオンさん達が立ちます。

 つまり車と美女というのはなにか密接な関係があるようなのです。

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 会場では、まるでステルス戦闘機のようなマットな塗装を施されたBMWの最新ハイブリッドスポーツカー、i8が目立っていました。

 BMWのi8はただでさえコンセプトカーのような先鋭的なラインとデザインが特徴で、当初発表されたときは「まさかこのままの形で世にでることはないだろう」と私は思っていたのですが、そのまんま出てきて本当に驚きました。

 価格は1970万円と、まあおいそれと手が届くものではないのですが、スペシャルカーとして考えても、非常に美しく先鋭的なデザインのまま市販されたことには拍手を送りたい気分です。

 同行した学生アルバイトが「なんで外車はこんなに格好良いんですかね」と素朴な疑問を口にしました。

 実はBMWやフェラーリも、日本人デザイナーが活躍していることは意外と知られていません。

 フェラーリのデザインを担当するピニンファリーナの奥山清行さんは有名ですが、残念なことにそれほど多くの才能ある人を輩出しながらも、我が国のカーデザインはどうも野暮ったいというか、全体的に保守的な印象があります。

 しかし日本車と海外の自動車は明らかにデザイン的に差があります。
 日本車を見て「美しい」とか「エレガント」という形容詞がしっくりくるものはとても少ないと思います。良くも悪くも実用的。白モノ家電のような質実剛健さと中途半端な遊び心に集約されてしまいます。

 でもデザイナーの問題ではないのです。

 日本のメーカーはしばしばピニンファリーナやイタルデザインなどにデザインを依頼します。しかし頼み方が根本的に間違っているのです。

 デザインというのは「良いデザイン」というのがいきなり存在するわけではありません。あれはあくまでも表現物や表現手段であって、メッセージです。ということは、そもそも根本にあるフィロソフィ(哲学)がないと、発信すべきメッセージがブレてしまいます。

 ただぽんと「若者にウケるデザインよろしく」とデザイン事務所に投げても、ウケるデザインは出てきません。「若者にウケるとはなにか?」という媚びたものになってしまいます。少し前に話題になったダサピンクと同じ現象です。

 いいデザインというのは、媚びるのではなく、内から溢れ出るメッセージを強烈に発信するものです。

 そしてそれは、ディシジョンメーカー自らが責任をもって伝えなければならないことです。優れたデザイナーを雇うだけではだめなのです。優れた発注者になって初めていいデザインを「もの」にできるのです。

 すると思うに、やはり欧米と我が国とでは経営陣のデザインマインドの違いに第一の問題があると思います。

 多くのエンジニアは、デザインを単なる器や洋服のようなものだと思っています。

 しかし実際のデザインは「生き様」そのものです。

 洋服でさえ、そうです。

 洋服というのは着ればいいというものではありません。
 その人に似合っていなければならないのです。

 その人の生き様、その人のライフスタイル、その人の体型、そういうものすべてに合致して、初めて洋服というのは成立するのです。

 洋服が難しいのは、実際には着る人をあまり選べないということです。

 最高のスーツと呼ばれるものはすべてオーダーメイドです。
 

 その人にピッタリあわせたスーツこそが最も美しいファッションになります。

 すべての服がオーダーメイドになればいいのですが、実際にはプレタポルテ(既製服)で我慢しなくてはならない部分が多々有ります。

 自動車も同様で、たとえば半袖短パンでBMWに乗るのはダサいです。
 きちんとした人が少しきちんとした格好で乗るのがBMWです。

 私が以前、「さすがだな」と思ったのは、LEONの創刊編集長、岸田一郎さんとお話したとき、「新しく車を買おうと思ってるんですよ」と言うと、「君の服装なら、アルファロメオのMitoがいいんじゃないかな」と仰ったことです。

 服装にあわせて車を選ぶ、というのは普通の人の発想ではなかなか思い浮かばないと思います。

 けれども、ファッションを生業とする人々にとって、服にあわせて車を選ぶ、車にあわせて服を選ぶ、というのはある意味で当然なのかもしれません。

 そのとき私は車オタクとしてどうしても欲しいクルマがあったので、Mitoではなくそっちを買ってしまいましたが、そう言われて以来、車に乗るときに服装に少しだけ気を使うようになりました。

 ずっと以前ですが、私にとって最初のApple製品はiPod Shuffleでした。

 シンプルなデザインが心地よさそうだったし、何より値段が安かったので買ってみました。

 すぐにiPod Shuffleに魅了され、それからiTunesをWindowsで使うことの違和感を感じ始め、気が付くとPowerBookG3の17インチを買っていました。

 PowerBookG3は非常に巨大なノートで、ノートというよりはカンバスのようでした。

 これの最大の悩みどころは重い上にでかすぎて入るカバンがないことです。

 そこでいろいろ探しまわった結果、ゼロハリバートンのアタッシェを見つけました。まるであつらえたかのようにスッポリ収まるので、我が意を得たり、と思ったのですが、これで総重量は6kgくらいになりました。手提げで6kgです。軍用か。という重さでした。

 そんな重いものを毎日通勤電車で持ち歩くのは本当に苦痛でしたが、ジーンズにTシャツでそんなカバンを持ち歩くことに違和感を感じました。

 そこでスーツを買いました。
 ゼロハリバートンにあわせて、グレーのスーツをTheoryで買いました。

 それから、自動車を買おうという段になって、どうしてもトパーズブルーの車が欲しかったので、スーツも濃い目のネイビーのものに変えました。

 ファッションはこうして人のいろいろな生活の意識にはたらきかけてくるのです。

 そう考えるとファッションというのはとても身近です。

 ところが男性の多くは、ファッションに無頓着です。

 しかもエンジニアは特に無頓着です。
 なのに突然、髪を染めたりします。

 「どうしたの?」

 と聞くと、「モテようかなと思って」と答えます。

 モテようとしてファッションを考えた途端、どうすればいいのかわからなくなってしまうのです。

 日本のメーカーというのはファッションセンスを感じる経営者というのが殆どいません。私もきっと他人ごとではないと思います。

 スタイリストがついてるわけでもないし、流行を追いかけてるわけでもない。
 それでもサマになって見えるのは、とりあえず人前ではスーツを着てるからです。

 スーツさえ着てれば最低限の印象は保てます。高いスーツは見るからにその人を偉大な人物に見せます。

 しかし私服になった途端に、突然、近所のスーパーマーケットで揃えたような冴えない格好になるのです。

 でもモノ自体は高価だったりします。

 そういう、お金はあるのに着こなしが下手な人に向けたファッション雑誌が岸田さんの手がけたLEONやZINOでした。

 スティーブ・ジョブズは経営者としては珍しくファッションにもこだわりのある人でした。
 彼がハレの日には決まって身につけた、黒いタートルネックはISSAY MIYAKEの特注品です

 そして当然、デザインにも拘りのある人でした。

 私がお世話になっている成蹊大学の坂井直樹教授は、日産Be-1や、オリンパスO-Product、auの携帯電話を手がけられた超一流のデザイナーです。元はファッションデザイナーをされていたそうです。

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 坂井先生は普段の服装にも強烈なこだわりがあります。身に付けるアクセサリー、小物、すべてに配慮があり、研ぎ澄まされています。休日にお会いしても、気を抜いてません。一流のデザイナーとは自身の生活そのものをデザインするのだなと改めて思いました。

 本書ではジョナサン・アイブが数々の言葉を残していますが、印象に残った場面は2つです。

 ひとつは、スティーブ・ジョブズがAppleに復帰した直後の場面です。

「アップルのどこが悪いか教えてくれないか 」とジョブズが問いかける 。だれも返事をしないでいると 、ジョブズは突然大声で怒鳴り始めた 。 「プロダクトだ !プロダクトが最悪じゃないか !セクシ ーさがどこにもない 」
(本編より)

 

 実は知らなかったのですが、私が数年前、コンサルティングの仕事でiPhoneが出てきたばかりのとき、なぜ日本の携帯電話が勝てないのか調査するというものがありました。複数のメーカーがその理由をとても知りたがっていたのです。

 スペックはどれひとつとってもiPhoneが日本の携帯電話に勝てる要素はありませんでした。

 スペック表だけで見れば、iPhoneは高価な欠陥商品に過ぎません。Webブラウザも、初代iPhone(日本未発売)は3ページくらいWebを見ると異常終了するくらいひどい出来でした。

 にも関わらず、iPhoneが日本に上陸したら、日本の携帯電話を脅かすだろうと私は指摘しました。

 「なぜですか?弊社の携帯電話の方が、通話音質、機能性、安定性、通信速度、解像度、CPUの処理速度、どれをとっても圧勝してるじゃないですか」

 それで仕方がないので当時CM女王と呼ばれていた上戸彩さんと私の母の写真を見せました。

 「この二人のうち、こちらの女性・・・私の母ですが・・・の方が、知識、経験ははるかに勝っています。唯一負けているのは身体能力ですが、身体能力で上戸彩さんを凌ぐ女性はたくさんいます。人間としてのスペックを比較すると、視力、聴力、頭脳すべてにおいて上戸彩さんが世界一の人間というわけではありません。しかしテレビCMに選ばれるのは上戸彩さんであって、他のだれでもありません。なぜでしょうか」

 「それはだって・・・若いし可愛いし・・・」

 「そうですね、では可愛さとは何ですか?」

 「うーん、キュートというかセクシーというか・・・」

 「それです。私の母はセクシーじゃないのです(笑)。スペックとは無関係に、セクシーであるかどうか、それはバランスです。iPhoneには"若さ"つまり、触ってみたくなる目新しさがあり、いろとりどりの・・・デザインの正当な文法である統一感を敢えて無視したアイコンが並べられています。そしてなにより、発売直後のこの段階で、右下に逆L字型の隙間があります。"ここに何が入っていくのだろう?"という可能性の広がりさえ、このシンプルな画面で表現することに成功しているのです。それに比べると、御社の製品にかぎらず最近の日本の携帯電話はデザイン的に極端に奇抜か、極端に保守的なものしかなく、目新しさがなく、敢えて買い替えてまで使いたいという欲望を沸かせる新機能も入っていないのです。iPhoneが売れる可能性があるとすれば"これまでと違うこと"です。そしてセクシーだということです」

iphone1g.jpg

 このとき、私は電化製品に「セクシー」という言葉を当てはめたことに自分自身がひどく驚きました。

 しかしiPhoneの魅力を表現するとしたら、本当にその言葉しかなかったのです。

 その後、私は「セクシー」という言葉を多用するようになります。
 使ってみたいという欲望を湧き起こさせる、という意味の言葉として。

 スティーブ・ジョブズ氏が最初に重要だと放った言葉が「セクシーな製品」だというのは、私にとっては驚きであると同時に納得でもありました。

 もうひとつ、ジョナサン・アイブのセリフとして印象に残った場面は以下のような場面です。それが偶然の産物ではなく、意識的なものだということにまず驚きました。

「工業デザイナ ーは 、モノをデザインするんじゃない 。僕らはユ ーザ ーが対象をどう受け止めるかをデザインする 。その存在 、機能 、可能性が生み出す意味をデザインするんだ 」
(本編より)

 まさにそのとおりで、Appleは極端にデザインセントリックな会社だったということが本書を読むと非常によくわかります。

 Appleは製品がというよりも、会社そのものがセクシーなのです。

 同じことは自動車にも当てはまります。
 特にBMW i8やランボルギーニなどのスーパースポーツカーは、セクシーさの塊です。あくまでこれは男性目線ですが。
 

 東京モーターショウや東京オートサロンを飾るセクシーなコンパニオンのお姉さん達が配置されているのは、まさしくそれがセクシーさの象徴であり、ずらり並んだスーパーカー達がより一層、輝いて見えるためかもしれません。

 

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。