年末年始はひたすらお酒を飲んだくれていたため、今週仕事始めと言われても未だよく頭が回らない状態だったりします。そこで『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』に登場する冷徹傲岸な投資家としてもおなじみのフレッド・ウィルソンがブログに投稿した2014年を振り返るエントリと2015年を占うエントリを紹介して、いい加減頭のモードを切り替えていきたいと思います。
フレッド・ウィルソンは、ブログで自身の会社が投資するスタートアップの半ば宣伝みたいなエントリもときどき書くので注意が必要ですが、今回紹介する文章は割とフラットな書き方がされていると思います。彼が振り返る2014年は以下のような年でした。
もちろんこれ以外にも大きなトピックはあったでしょうし、日本とアメリカでは見える風景が違うところもあるでしょうが、もちろん共通するところも多々あります。個人的には、シェアはレンタルにとって変わられたという3.と、我々は遂に「ファイル」から解放されたという8.に(そこまで言い切るかと)特にはっとさせられました。
まず1.で書かれるソーシャルメディアの飽和感については「個人ブログ回帰と「大きなインターネット」への忌避感、もしくは、まだTwitterで消耗してるの?」で触れていますが、当然ながらというべきか個人ブログへの回帰ではなく、2.で書かれるメッセージング分野の隆盛がトレンドでした。アメリカにおける Whatsapp は、日本では LINE にあたるでしょう。
しかし、モバイル分野は移り変わりが激しい。かつてティム・オライリーは2010年に「インターネットOS」を構成する主要プレイヤーについて文章を書いたとき、モバイル分野から選ばれたのは Nokia でした。
当時にしても業績に影がさしていたものの、それでも世界最大の携帯電話メーカーだったのが、それからまもなく Samsung にその地位を追われ、昨年にはマイクロソフトに携帯電話事業を買収されました。しかし、その Samsung にしても昨年後半にはスマートフォン事業の業績低下が報道されており、創業から5年も経たずに売り上げ1兆円を達成した Xiaomi が迫ろうかという勢いです。Xiaomi については後半でまた触れます。
あと昨年末は、ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃並びに北朝鮮の指導者金正恩の暗殺が描かれるコメディ映画『The Interview』の公開を巡る騒動がありましたが、それに関する報道を散々見た後では、最後の10.に肯かざるをえません(と同時に7.の最後に皮肉交じりに書かれるように、そういう映画がすぐにネットで見れるようなっているという現実もあるわけですが)。セキュリティー分野の大家のブルース・シュナイアーは、2015年は個人情報がネットに晒される「Doxing(Doxxing とも表記される)」の年になるという心臓に悪い予測を書いていますが、もはや誰もがハッキング被害の対象になりかねないのが現実で、これが新たな標準だと対応していくしかないのでしょう。
さて、フレッド・ウィルソンの2015年予測は以下の通りです。
2014年の振り返りと一部対応する形で書かれていますが、面白かったのは Oculus Rift をはじめとするバーチャルリアリティー分野の苦戦を予想しているところです(バーチャルリアリティ体験における性差問題も影響するのでしょうか?)。実は昨年末までに、Oculus を買収した Facebook 以外でも、ソニーも Google も Samsung も Apple もマイクロソフトもこの分野に既に一枚噛んでおり、これらが皆共倒れなんてことはさすがにないと思いますが。
あとフレッド・ウィルソン的には Bitcoin は既に失敗という認識なのでしょうか。「2014年はビットコインの年になるか?(別にならんでいい)」を書いた一年前は結構乗り気だった印象があるのですが、そういえば MIT Technology Review が認定する2014年を代表するテクノロジーの失敗において、Bitcoin は Goole Glass や STAP 細胞(!)と並んで選ばれており、もはやそのブロックチェーンの仕組みを使って次バージョンを作るほうにステージが移っているのかもしれません。
ウィルソンが企業として注目しているのはやはり Xiaomi なようです。現在、本国以外は途上国を主戦場とし、欧米市場への進出は今も否定しており、2015年中のアメリカ進出は個人的には懐疑的ですが、今もっとも勢いのあるプレイヤーの一つなのは間違いありません。
恥ずかしながらワタシが Xiaomi の名前を知ったのは、Google のサーゲイ・ブリンの不倫相手とされるアマンダ・ローゼンバーグが、Android の製品管理ディレクターだったヒューゴ・バラの元恋人であること、そしてブリンの不倫並びに夫妻の別居報道の前にヒューゴ・バラは Google を去り、Xiaomi の副社長に就任したことを伝えるニュースにおいてだったりします。
このニュースは多分にゴシップ的な興味をひく一方で、ヒューゴ・バラについては「傷心の」といった表現がなされたことからも分かるように、Xiaomi への転職は、Google からの逃避、もっとはっきり書けば Google における要職という恵まれた地位と環境を投げうって中国くんだりの創業まもない携帯電話メーカーに移るという正気でない選択ととる雰囲気を報道から感じました。
しかし、ヒューゴ・バラは正気を失っていたのではもちろんなく、Xiaomi の成功に勝算があったのでしょう。元恋人のアマンダ・ローゼンバーグが後に鬱病の治療中であることを公表し、彼女が交際中のサーゲイ・ブリンが手がける Google Glass はデベロッパーの離散を招き、大衆向け端末になる資格がないと烙印を押され、前述の通り MIT Technology Review に2014年を代表する失敗に挙げられたのと比べると、ヒューゴ・バラの退職時には予想もできなかった明暗と言えます。
しかし、Xiaomi も磐石ではありません。先月もエリクソンの特許を侵害しているとインドでの一部製品の販売停止が報じられましたが、スマートフォンを初めとして出す製品の多くについて知的財産権の侵害を疑う声が出ています。ワタシが Xiaomi のアメリカ進出に懐疑的なのもこの点があるからですが、知的財産権の問題でぶち折れることはなく、今年中は急成長が続くのは間違いない、というのがワタシの見立てです。
あとフレッド・ウィルソンの2015年予測を見直すと、ウェアラブルのハイプ先行を断じているくらいで、Internet of Things(IoT)という言葉への言及がないのは意外でした。今年の巨大家電ショー CES も IoT がトレンドのようですが、今年もこのあたりについて本連載でぼちぼちフォローできればと思います。
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登録はこちら雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。