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テック界隈の諸行無常──2014年の振り返りと2015年の予測

2015.01.07

Updated by yomoyomo on January 7, 2015, 17:00 pm JST

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年末年始はひたすらお酒を飲んだくれていたため、今週仕事始めと言われても未だよく頭が回らない状態だったりします。そこで『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』に登場する冷徹傲岸な投資家としてもおなじみのフレッド・ウィルソンがブログに投稿した2014年を振り返るエントリ2015年を占うエントリを紹介して、いい加減頭のモードを切り替えていきたいと思います。

フレッド・ウィルソンは、ブログで自身の会社が投資するスタートアップの半ば宣伝みたいなエントリもときどき書くので注意が必要ですが、今回紹介する文章は割とフラットな書き方がされていると思います。彼が振り返る2014年は以下のような年でした。

  1. インターネットのソーシャルメディア段階は終わった。もはや大手プラットフォームが磐石で、この分野にイノベーションの余地はあまりない。
  2. メッセージング分野が新たなソーシャルメディアである。これは1.と関係しているが、Facebook の WhatsApp 買収はこのトレンドを決定付けた。
  3. 「シェア経済(sharing economy)」は「レンタル経済」にとって変わられた。実は誰もシェアなんかしておらず、テクノロジーのおかげでものを買うのと同じくらい容易になったレンタルでお金を稼いでいるのだ。UberAirbnb がこの分野の勝ち組だが、これからもいろいろ出てくるだろう。
  4. 資本市場がインターネットに移行した。いわゆるクラウドファンディングのことだが、グローバルなプラットフォームのアプリケーションで何十億もの人々が参加するものになった。
  5. モバイル OS は iOS と Android の二頭寡占だが、後者は Google の Android とそれ以外の Android に分かれつつある。2014年に大躍進したのが Xiaomi で、彼らが米国進出したら新しい(そしてより良き) Samsung となり、面白いことになるだろう。
  6. モバイルとメッセージングがエンタープライズに影響を及ぼし始めた。2014年では、Slack がこのトレンドにおける先駆者となった。
  7. YouTube はずっと怪物級だったが、2014年には16歳以下のエンターテイメント消費を握るまでになった。映画『The Interview』を YouTube で観るのが、2014年を締めくくるに相応しい出来事である。
  8. 我々は遂に「ファイル」から解放された。Dropbox や Google Drive や SoundCloud や Netflix や YouTube や Kindle らが、ファイル名の3文字の拡張子(mp3 や mov や doc や xls)を殺したのだ。
  9. ネット中立性の議論はオバマ大統領が支持表明を行う国家的政治問題に発展した。この問題が解決するかはともかく、大衆がこれだけ大きな声を上げている以上、インターネットはイノベーションの土壌としてオープンなままであるべきで、通信キャリアやケーブル会社に独占させてはいけないことを政治家も理解している。
  10. サイバー戦争、サイバー犯罪、サイバーセキュリティが間違いなく2014年の主要テーマとなった。これはもう目をそらすことはできなくて、これが新たな標準になる。

もちろんこれ以外にも大きなトピックはあったでしょうし、日本とアメリカでは見える風景が違うところもあるでしょうが、もちろん共通するところも多々あります。個人的には、シェアはレンタルにとって変わられたという3.と、我々は遂に「ファイル」から解放されたという8.に(そこまで言い切るかと)特にはっとさせられました。

まず1.で書かれるソーシャルメディアの飽和感については「個人ブログ回帰と「大きなインターネット」への忌避感、もしくは、まだTwitterで消耗してるの?」で触れていますが、当然ながらというべきか個人ブログへの回帰ではなく、2.で書かれるメッセージング分野の隆盛がトレンドでした。アメリカにおける Whatsapp は、日本では LINE にあたるでしょう。

しかし、モバイル分野は移り変わりが激しい。かつてティム・オライリーは2010年に「インターネットOS」を構成する主要プレイヤーについて文章を書いたとき、モバイル分野から選ばれたのは Nokia でした。

当時にしても業績に影がさしていたものの、それでも世界最大の携帯電話メーカーだったのが、それからまもなく Samsung にその地位を追われ、昨年にはマイクロソフトに携帯電話事業を買収されました。しかし、その Samsung にしても昨年後半にはスマートフォン事業の業績低下が報道されており、創業から5年も経たずに売り上げ1兆円を達成した Xiaomi が迫ろうかという勢いです。Xiaomi については後半でまた触れます。

あと昨年末は、ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃並びに北朝鮮の指導者金正恩の暗殺が描かれるコメディ映画『The Interview』の公開を巡る騒動がありましたが、それに関する報道を散々見た後では、最後の10.に肯かざるをえません(と同時に7.の最後に皮肉交じりに書かれるように、そういう映画がすぐにネットで見れるようなっているという現実もあるわけですが)。セキュリティー分野の大家のブルース・シュナイアーは、2015年は個人情報がネットに晒される「Doxing(Doxxing とも表記される)」の年になるという心臓に悪い予測を書いていますが、もはや誰もがハッキング被害の対象になりかねないのが現実で、これが新たな標準だと対応していくしかないのでしょう。

さて、フレッド・ウィルソンの2015年予測は以下の通りです。

  1. ゼロ年代後半に起業した大企業が上場する(Uber、Airbnb、Dropbox など)。
  2. Xiaomi のアメリカ進出。これは非 Google の Android 分野の強力プレイヤーの登場になるし、欧米における「第三のモバイルOS」につながる。
  3. アメリカ市場へのアジアからの侵攻がメッセージング分野で起こり、LINE と WeChat がアメリカ市場でシェアを獲得する。
  4. Oculus Rift にとっての2014年は Facebook に買収されるという大きな年だったが、バーチャルリアリティ分野には少し逆風が吹く。Oculus は一般消費者向けの製品を出荷するのに苦労するだろうし、競合他社も迫力に欠ける。
  5. もう一つハイプ先行の分野がウェアラブルだ。Apple Watch は iPod や iPhone や iPad のようなホームラン級の製品にはならない。ウェアラブル分野には多大な時間、エネルギー、金が投資されるが、それに見合う成果は2015年には得られない。
  6. 2015年の資本市場は玉石混交で、1.で書いたようにテック分野のビッグプレイヤーは容易に資本を集めるが、原油価格の上昇と下降はグローバル資本市場にとって多大なストレスとなる。かつて安全とされたのは金だが、今では Google や Apple などのテック系優良株がそれにあたる。
  7. 共和党も民主党も次の大統領選挙に向けシリコンバレーにおける位置取りを始めるが、テック系の問題は大きな位置を占める(移民政策やネット中立性問題など)。
  8. Bitcoin にとって2014年は恐ろしい年だったが、これがあらゆる利害関係者にとっての警鐘となる。開発者は Bitcoin のブロックチェーン上でスタックを作成する Bitcoin の次に来るものを作るのにエネルギーを向けるだろう。
  9. エンタープライズ/SaaS 分野には、エンタープライズにおける仕事やワークフローを再定義する、クラウドやモバイルに長けた新興企業がたくさん登場して光が差し込む。
  10. あらゆる企業、公共機関、政府が昨年のソニーピクチャーズみたいな目にあいたくないと、サイバーセキュリティへの予算が爆発する。昨年はレンタル経済に流れたように、今年はセキュリティ分野に投資家のお金が流れるが、それでもハッキング被害は続くだろう。
  11. ヘルスケア分野にスマホなどが参入するものの、現実の患者からの重圧を感じ始める。

2014年の振り返りと一部対応する形で書かれていますが、面白かったのは Oculus Rift をはじめとするバーチャルリアリティー分野の苦戦を予想しているところです(バーチャルリアリティ体験における性差問題も影響するのでしょうか?)。実は昨年末までに、Oculus を買収した Facebook 以外でも、ソニーも Google も Samsung も Apple もマイクロソフトもこの分野に既に一枚噛んでおり、これらが皆共倒れなんてことはさすがにないと思いますが。

あとフレッド・ウィルソン的には Bitcoin は既に失敗という認識なのでしょうか。「2014年はビットコインの年になるか?(別にならんでいい)」を書いた一年前は結構乗り気だった印象があるのですが、そういえば MIT Technology Review が認定する2014年を代表するテクノロジーの失敗において、Bitcoin は Goole Glass や STAP 細胞(!)と並んで選ばれており、もはやそのブロックチェーンの仕組みを使って次バージョンを作るほうにステージが移っているのかもしれません。

ウィルソンが企業として注目しているのはやはり Xiaomi なようです。現在、本国以外は途上国を主戦場とし、欧米市場への進出は今も否定しており、2015年中のアメリカ進出は個人的には懐疑的ですが、今もっとも勢いのあるプレイヤーの一つなのは間違いありません。

恥ずかしながらワタシが Xiaomi の名前を知ったのは、Google のサーゲイ・ブリンの不倫相手とされるアマンダ・ローゼンバーグが、Android の製品管理ディレクターだったヒューゴ・バラの元恋人であること、そしてブリンの不倫並びに夫妻の別居報道の前にヒューゴ・バラは Google を去り、Xiaomi の副社長に就任したことを伝えるニュースにおいてだったりします。

このニュースは多分にゴシップ的な興味をひく一方で、ヒューゴ・バラについては「傷心の」といった表現がなされたことからも分かるように、Xiaomi への転職は、Google からの逃避、もっとはっきり書けば Google における要職という恵まれた地位と環境を投げうって中国くんだりの創業まもない携帯電話メーカーに移るという正気でない選択ととる雰囲気を報道から感じました。

しかし、ヒューゴ・バラは正気を失っていたのではもちろんなく、Xiaomi の成功に勝算があったのでしょう。元恋人のアマンダ・ローゼンバーグが後に鬱病の治療中であることを公表し、彼女が交際中のサーゲイ・ブリンが手がける Google Glass はデベロッパーの離散を招き、大衆向け端末になる資格がないと烙印を押され、前述の通り MIT Technology Review に2014年を代表する失敗に挙げられたのと比べると、ヒューゴ・バラの退職時には予想もできなかった明暗と言えます。

しかし、Xiaomi も磐石ではありません。先月もエリクソンの特許を侵害しているとインドでの一部製品の販売停止が報じられましたが、スマートフォンを初めとして出す製品の多くについて知的財産権の侵害を疑う声が出ています。ワタシが Xiaomi のアメリカ進出に懐疑的なのもこの点があるからですが、知的財産権の問題でぶち折れることはなく、今年中は急成長が続くのは間違いない、というのがワタシの見立てです。

あとフレッド・ウィルソンの2015年予測を見直すと、ウェアラブルのハイプ先行を断じているくらいで、Internet of Things(IoT)という言葉への言及がないのは意外でした。今年の巨大家電ショー CES も IoT がトレンドのようですが、今年もこのあたりについて本連載でぼちぼちフォローできればと思います。

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yomoyomo

雑文書き/翻訳者。1973年生まれ。著書に『情報共有の未来』(達人出版会)、訳書に『デジタル音楽の行方』(翔泳社)、『Wiki Way』(ソフトバンク クリエイティブ)、『ウェブログ・ハンドブック』(毎日コミュニケーションズ)がある。ネットを中心にコラムから翻訳まで横断的に執筆活動を続ける。