アメリカというのは、理想主義の権化の様な土地です。その理想は美しく崇高であり、建前の上では、世の中は善意と正直に満ちていることになっています。
シリコンバレーから産み出されるネットサービスの多くも、その様なアメリカ的な理想主義に溢れています。P2Pサービスにしろ、ネットオークションにしろ、ソーシャルメディアにしろ、その多くは、ユーザーの殆どには悪意がなく、恊働と共助の精神に溢れています。
こういうサービスは、インターネットがまた一般化していなかった2000年以前の、UNIXでやり取りしていたメールの世界や、Gifアニメがユンユンと飛び回る手作りのサイトとか、親切な技術者が無料で何でも教えてくれた掲示板のモラルや世界観という物を継承しています。
こういうサービスを作る技術者は、金を儲けたいというよりも、これがあったらら便利だな、こんな物があると楽しいなという心でサービスを作っています。
その典型例は、最近話題のAirbnbやUberであり、サービス提供者もユーザーも、お互い変なことをしないという前提で成り立っています。ネットオークションも掲示板もソーシャルメディアも基本的には悪意を持って使うユーザーが少ないことが前提になっています。
しかし中東における紛争やテロは、シリコンバレー的な性善説を根底から覆してしまう様な衝撃に満ちています。動物の動画やバカげたコラが飛び交うはずだった仮想空間には恐怖と悪意が溢れ、お誕生会の写真が流れてくるはずだったタイムラインには、みたくもない凄惨な動画や画像溢れています。
その動画や画像な何日も頭の中に残り、楽しかったインターネットは、できれば距離を置きたいものになってしまいました。
楽しかったネットの世界が、暴力と凄惨さに溢れた世界になっていくことが悲しくて仕方がなく、あの事件が起きてから、ワタクシはしばらくはキーボードとタブレットに触ることができませんでした。
その凄惨な動画や画像は、アメリカが原因であるものも含まれているし、アメリカを恨むもの達が流しているものもあります。理想主義の権化であるアメリカが作り出したインフラの上で、全世界に悪意と恐怖が広がっているというのは大変な皮肉の様に思えます。
通信業界やIT業界の人々は、技術やデバイスの話に注力しがちですが、技術や世の中の発展を願うのであれば、技術をどの様に使うべきか、どうしたら悪意が広まるのを阻止することができるか、という倫理的なことも時には考えるべきかもしれません。
今の業界にはそういう倫理的な議論が欠けている様に思えてなりません。
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。