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少数精鋭とダイバシティ

2015.02.10

Updated by Ryo Shimizu on February 10, 2015, 09:50 am UTC

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久しぶりに連載タイトルに沿って、経営の話をしましょう。

筆者の経営する株式会社ユビキタスエンターテインメントは、社員、アルバイト含めて100人規模の小さくも大きくもない組織です。

もともと、立ち上げた頃はプログラマーを中心に雇い、プログラマーの比率が高い会社でしたが、ある時期から方針を変えてプログラマーの比率は相対的に減っています。

それには理由があって、プログラマーはとにかく個人の能力によってバラつきが大きく、優秀な人とそうでない人で文字通り何百倍ものパフォーマンス差が出てしまうからです。

小さな組織、無名の会社が他社に高い付加価値を提供するためには、その会社のプログラマーは超一流の人間でなければいけません。

大企業が自社で抱えることができないくらいに優秀で、時には大企業を飛び出して行ってしまうほどに飛び抜けた能力を持った人物を雇う必要があります。

したがって、ヘッドハンティングや転職も新卒もありますが、プログラマーに関してだけは、とにかくとても高い水準を求められます。

先日、長年アルバイトしていた学生が、そのまま就職したいと言ってくれたのですが、彼はどうしてもUEIのプログラマーとしての試験に合格することができず、別の東証一部上場企業にプログラマーとして内定を頂き、そちらに就職することになりました。

プログラマーの質を超一流だけにしておくこと。
小さい組織は、最初、求人に苦労します。

時には、猫の手も借りたくなります。
しかし受託開発、ソフトウェア開発にとって、プログラマーの質は生命線です。

受託開発の場合、「あそこは安くてそこそこの品質だから使おう」というパターンと、「あそこは高いけど仕方ない」というパターンがあります。それ以外のパターンでは仕事が取れません。

「安かろう悪かろう」の粗製乱造と「高価・高品質」の少量生産の二択なら、我々は後者を取り続けて経営してきました。

もちろん、現実にはすべての仕事が常に満足の行く結果に終わるわけではありませんが、明日にも独立できるような質の高いプログラマーが揃っているからこそ、UEIという会社の存在意義があるのです。

 

こうした組織で、優れたプログラマー達と働けることを、私はずっと誇りに思っています。

優れたプログラマーとは、環境に適応し、難問を楽しみ、進取の精神に冨み、常に挑戦を辞めない人物です。

しかしある時、このやり方ではどうしてもできない仕事がある、ということに気づきました。
それはB2C向けの商品開発です。

UEIは基本的に受託開発で売上を伸ばしてきた会社です。
時折、ゲームを開発したり、ZeptopadenchantMOONという少し変わったB2C商品を出してきましたが、共通するのはどれもマニアックなニッチ領域向けの製品だということです。

ゲームの場合、これは相手はゲーマーという限られた人々です。
ゲームにはゲーマーの好むように作る必要があり、それはゲーマーの中でも、「○○のジャンルのゲーマー」というかなり狭いターゲットに絞り込むことができるという点ではニッチな商品と言えます。

「好きな人にはたまらない」というものを作り出すのがゲームの世界です。

これを、例えばiPhoneやiPadのアプリに適用したのが、Zeptopadという商品で、これはiPadでメモをしたりブレインストーミングしたりしたい、という願いを叶えるものです。実際にそんなことをする人はごくごく限られています。しかし、刺さる人には物凄く深く刺さります。

以前、サンフランシスコに行った時に、現地で偶然知り合った方が「私はずっとZeptopadのファンでした。iPadは、Zeptopadのためにこそあるハードだと思います」と言ってくださいました。嬉しかったです。

 

私にとって、Zeptopadは子供の頃からの夢のひとつでした。
思うがままにアイデアを描けて、手軽にアイデアを表現するツールとして非常に役立っていました。

仕事でパワーポイントのスライドの図を作るのに苦労する経験の多かった私は、こういうソフトこそがまさにアイデアを具現化し、プレゼンテーションを作りやすくするのに必要なあらゆる機能を持ったアプリだと考えていました。

しかし大半のiPadユーザにとって、Zeptopadは異常なアプリでした。
なぜそれが必要なのか、わからないのです。

なぜなら、実際に企画を立てる必要に迫られる人は本当にごく少数ですし、そういう人にとってはZeptopadのようなツールは必要ないのです。ですからやはりこれはニッチ商品でした。

Zeptopaしで唯一、不満だったのが、イラストの書きづらさです。
ベクトルベースのスケッチツールなので、どうしてもデータ量が増えると動作が重たく(遅く)なってしまいます。

Zeptopadは初代iPad用に開発しましたが、iPadがRetinaディスプレイになったときに、画面の解像度に対してあまりにCPUとGPUが非力なため、突然、物凄く重いソフトになってしまいました。

また、どれだけ最適化を駆使しても、結局のところはiOSのオーバーヘッドに引っ張られてしまいます。また、タッチパネルの精度も、いろいろなスタイラスとの組み合わせを試しましたが、なかなか良くなりませんでした。

そこでさらに進化した手書き端末として、OSやハードウェアのレベルから自分たちで作れるように独自の手書き端末であるenchantMOONを作るのですが、このとき、それまでの全ての考え方を一端リセットして、さらに操作性を紙に近づけ、新しいコンピューティング・パラダイムを提案するというアプローチをとりました。

これもまた、ニッチ向け商品として企画しました。
とりあえず1000台製造し、販売することが目的だったので、とてもニッチです。
Zeptopadのユーザが2万人ほどだったので、その1/20くらいなら買ってもらえるだろう、という読みでした。

ところがこの端末の開発が、私の仕事を大きく変えてしまいました。

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この端末は私達の予想を裏切り、あまりに注目を浴びすぎ、あまりにニュースを呼びすぎました。
その結果、発売前にこの端末に寄せられる期待値は空前のものとなってしまったのです。

そのとき、私はとても混乱しました。
ガジェットおたく、コンピュータおたく、と呼ばれる人たち、とてもニッチな人たちに向けて作ったはずのものが、むしろそうでない人、ごく普通の人から注目を浴びる、という逆転現象は、すぐには理解することが出来ませんでした。

それから、この連載で時々紹介しているように、品川女子学院で中学生に使っていただいたり、電通で企業研修に使っていただいたりして、ようやく私は自分たちのやろうとしていること、「新しいコンピュータを作る」ということが、決してコンピュータマニアにフォーカスしているのではなく、もっと普通の人々、つまり全く門外漢の中学生や、広告代理店の営業マンといった人々にこそ、使えるような機械を作っていかなければならないのだ、ということに気がついたのです。

そして同時に、このenchantMOONの発展形としてパートナーとなっていただける外部の企業の方ともいくつかのプロジェクトがスタートし、一緒に頭をひねる、という日々がようやくスタートしました。

そこで気づいたのです。
目の前にいる人は決して「ごく普通の人」ではないと。

それどころか、私の周りには「ごく普通の人」がほとんど居ないのだということです。
ゲームを作っている部署とは別に、私が管轄している秋葉原リサーチセンター(ARC)という組織には、とにかく優秀の中でも優秀、というプログラマーしかいません。基本的に皆、一流大学の大学院を卒業しています。

気が付くと、優秀なプログラマーを求めるあまり、私の周りには優秀なプログラマーしか、居なくなっていたのです。
しかし当然ですが優秀なプログラマーというのは極めて特殊な人たちです

私がPCから目線をあげると、西田友是さんの姿が目に入りました。東京大学の教授を10年以上務め上げ、定年後に研究組織UEIリサーチを立ち上げて、初年度から世界中の学会に論文や研究者を送り出している人物です。そして彼の周囲には、世界中の科学者をうならせる凄腕の研究者達がせっせと複雑な数式をホワイトボードに書いています。

皆、立派な人物ですが、立派すぎるのです。

この組織では「普通の人」に向けたものをつくり上げるのは難しいのではないか。

私はそう考えました。

つまり、個々の社員の優秀さを求めるあまり、「普通の人」の感覚を完全に見失っていたのです。
そして優秀な人物は優秀であるが故に、本来あり得べき問題も、ほとんど感じさせないようにしてしまうのです。

これはまずい、と私は思いました。

これではenchantMOONを一般向けにリファインすることなどとても無理です。
しかし一方で、普通にリファインした結果、それが既存のWindowsタブレットのようなものななったらもっと無意味です。

そこで私は今年から、自分の組織にダイバシティを取り入れることにしました。

全くの門外漢、異分子、ハイテク音痴、のような人物をわざとチームに入れるのです。
そして彼らに発想させ、優秀なプログラマーがそれを実現するというスタイルで、一週間規模のハッカソンを繰り返して来ました。

すると全く意外な発想が次々と現れました。
例えば、「Excelを起動したことがない」とか、「Macで右クリックができるのを知らなかった」とか、「Excelは使っていたけど数式の入力がわからない」とか、「そもそもURLをクリックするのが怖い」とかです。

私達を含めて、IT業界は全速力で進化を模索してきました。
昨日より良いもの、今日より優れたものをずっと追いかけて作ってきたのです。

しかし今の10代、20代にとっては、置いてけぼりにされているようなものです。
コンピュータの進化の歴史をある程度は把握しておかなければ、Macのトラックパッドでは二本指タップが右クリックになることなどわかるはずがありません。

我々が無意識のうちに「直感的」と感じる操作は、実際には過去の歴史の積み重ねの結果体得していたものに過ぎないのです。

したがって、次なる直感、5年後の当たり前、という世界はそう簡単には出現しないでしょう。
しかし少数精鋭にあぐらをかいて、組織にダイバシティを持ち込まなければ、もっとわからないことはたくさんあったと思います。

新年の抱負を語るには少し遅いですが、今年の個人的なテーマはダイバシティとして、一年間やっていきたいと思います。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。