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千円でベロベロ・・・センベロ居酒屋の経営学

Strategy of super discount bar

2015.04.21

Updated by Ryo Shimizu on 4月 21, 2015, 10:05 am JST

最近、いわゆるセンベロという業態のお店が人気です。

センベロとは、ご存じない方のために説明すると、「千円でベロベロに酔えるお店」ということです。主に立ち飲み屋さんや安い居酒屋さんの総称です。

まあテクノロジーとエコシステムが中心話題のWirelessWireNews読者諸氏から見たら

「安かろう悪かろうのお店なんて、ビジネスエリートの寄り付くところじゃないでしょ?」

なんて思うかもしれませんが、なかなかどうして、これが馬鹿にできないほど質が高くて美味しいお店が増えてきているんです。

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むしろ同じ効果を得られるのに余分なコストを払うのはビジネスエリートとしてどうなんだろう、という疑問さえ感じる程です。

もちろん、ものには幅と程度というものがあります。

「安かろう悪かろう」というのは、「安いので質も低いですよ」という、いわばエクスキューズです。こんなものは、小学生にもできる子供騙しの商売です。

しかし「安くていいもの」「高級で壊れやすいけど毎日身につけたいもの」そんな一見すると矛盾したような要求をこなしてこそ初めていっぱしのビジネスマンと言えるわけです。

当然、センベロと呼ばれる店も千差万別・玉石混淆ですが、いい店は本当にしっかりとしたビジネスモデルを持っているのです。

例えばある焼き鳥屋さんでは全ての串が一串160円で提供されます。

「ほう、安いね」と思うかもしれませんが、実はこれは9串のコースで、座ると強制的に9串がサーブされます。

そして一本目の串は原価が500円します。

一本目が逆ざやになっているのです。

340円の赤字です。

しかし逆ざやになっているだけあって、もの凄く美味いです。

じゃあその340円をどこで回収するのかというと、酒です。

酒も決して高価な値付けではありませんが、酒はもともと利ざやの良い商品です。だいたい、原価は定価の3割と言われています。400円のドリンクを二杯頼んでもらえれば逆ざやぶんは取り返せるというわけです。

また、普通の安い居酒屋の場合、原価の掛かるアルコールをなるべく薄めて出します。その方が沢山頼んでもらえると思うからでしょう。しかし、実際に薄いアルコールを出す店はどうなるかというと、客足が単に遠のきます。

「あの店のビール、水で薄めてあるよね」

「あの店のハイボール、いくら呑んでも酔わないよね」

そんな経験をしたら、自然に足は遠のいて行きます。

じゃあどうするか。

まず、いい店と呼ばれる店は、ジョッキが大きいです。

ジョッキが大きいと二つの効果があります。

一つは、呑むのに体力を消費すること。

もう一つは、おかわりを注文される頻度が減ることです。

おかわりを注文される頻度が減れば、店員の負担は軽くなり、人数を減らすことができます。

ジョッキが小さいと、頻繁におかわりを要求され、客も「なんだか沢山払ってるな」という気分になりますし、店員の負担も大きく、客が焦れる前に注文をとるためには大量の店員を投入する必要があります。

しかしジョッキが大きいと、受け取った時点で満足感があります。同じ量でも重くて大きいジョッキで来るのと、軽くて小さいグラスで来るのとでは有り難みが違います。

ズシッという重みに400円ぶんの満足感を感じるのです。

また、いくつかのセンベロで導入されているのが「一杯目だけ格安になるハイボール」などの工夫です。

ハイボールは、ウィスキーを炭酸水で割ったものですが、満足度の割には利益率が高い商品です。

お店としては、ハイボールを沢山頼んでもらった方が凝ったカクテルを要求されるよりずっと有難いので、まずハイボールを呑むという習慣を身につけてもらう方が得です。

反対にビールは酒税法の関係で高くなりますし、最近は日本のビールもレベルが高くなってきてるので、どうしても満足してもらうには原価が上がってしまいます。

しかしハイボールはアルコール度数の割にはリッターあたりの値段が安いので手軽に酔っぱらってもらうには好都合というわけです。

一杯目にハイボールを頼むと、二杯目にもハイボールを頼む確率が高まります。

一杯目を呑んでるうちに話に夢中になって面倒になり「同じの」と注文するからです。

店としてみれば、「とりあえずビールで」という日本の文化はあまり儲けがでませんが、「とりあえずハイボールで」という文化が流行ると利ざやが大きく稼げます。

だからセンベロではハイボールのほうがビールより安く設定されているのです。

センベロに慣れきってから、浅草のホッピー通りあたりに出かけて行くと、ホッピーが600円という表示を見て思わず「ギョッ」としてしまいました。

ビールと同じ価格です。さすがにこれは高過ぎます。

そもそもホッピーはビールが高価だった時代の代用飲料です。同じ値段になっていては本末転倒です。

こういう店には二度と行くまい、とやはり思ってしまうのです。

 

次に、ツマミです。

ツマミは、それぞれの店の個性がもっとも出るところです。

これが美味しくないところは、そもそもダメです。

センベロのツマミの中で、材料費が極端に掛かるものは実は少ないのです。

そのかわり確実に美味しくできるものがあります。

それは時間を掛けて煮込んだ「煮込み」です。

だからたいていのお店では「煮込み」が看板料理ということになっています。

比較的安くて肉の触感と味噌の旨味を堪能できる料理として「煮込み」は居酒屋の定番中の定番と言っていいでしょう。

刺身なんかは仕入れに左右されるので常にクオリティと価格のバランスをとるのが難しいわけですが、煮込みは一度美味しい煮込みができてしまえばずっとその味を保ち続けるのはそこまで難しくありません。

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しかも原価も刺身程高くなく、盛りつけも簡単なので煮込みはセンベロの主力選手と言って良い存在です。

豆腐やコンニャクといった、本当に原価が安いものまでもが非常に美味しくなるのが煮込みのマジックです。

煮込みだけでツマミが完結してもいいくらいです。
しかしこれがまた丁度「これくらいで満足」という絶妙な分量で出て来るのが妙手で、しかも味が濃いので酒が進みます。

煮込みを中心に、串焼き、刺身、揚げ物、なんかを構成するのがセオリーですが店によっては刺身が無かったり揚げ物がなかったりします。

料理の幅を広げるとそれだけ厨房に負担が行きます。

厨房に負担が行くとレスポンスタイム(応答時間)が長引いてしまうのでできるだけ料理のジャンルは絞った方が効率が上がります。

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高級な料理ではなくむしろ格安で上質な料理を出すセンベロは、早く酔っぱらってもらうことによって回転率を上げるのが商売のミソです。

センベロの多くは立ち飲みなので、酔いが回って来るとすぐに帰りたくなります。この回転率を上げるということは、なかなか飲食業では難しく、理想的に回転できているお店は稀です。

もちろん「立ち飲み」というリーズナブルなイメージがプラスにもマイナスにも働く可能性はあるでしょうが、ひとつの選択肢として「センベロ」は多いにアリだと思うわけです。

筆者は仕事柄、会食が多いのですが、妙に高級で堅苦しいところで会食するよりは御茶ノ水、秋葉原近辺のカジュアルなお店で会食する方が楽しいと感じるようになってきました。

 

「こんなに美味しいのにこんなに安いの?」という驚きも、ひとつのキーポイントだと思うわけです。

同じ値段を払うなら、美味しい方がいいに決まってますし、同じ美味しさならば、安い方がいいに決まっています。

高級フレンチを食べて美味しい、と思う感動と、カジュアルな料理を食べて美味しい、と思う感動は質的に似てますが違います。

高級な料理を食べた時の感動は「美味しい、二度と食べられないかもしれないけど」という感動ですが、カジュアルな料理の場合は「美味しい、何度でも食べたい」という感動になります。

 

経営者の「仕事ができる、できない」の境界線はどこで決まるのと言うと、「資本の運用能力」だと思います。

たとえば、経営者Aと経営者Bに同じ資本金1000万円を与えたとします。

この1000万円を資本として、いくら稼げるか、一年間で何回転するか、これが資本回転率です。

同じ業種なら、資本回転率が高い方が効率的に資本を活用していると言えますが、資本回転率が同じだったとしても質が異なります。

 

Aは一回10万円の高級フレンチで接待を100回行い、1500万円の大口契約を2本とったとします。

Bは一回2万円の居酒屋で接待を500回行い、500万円の契約を6本とったとします。

 

極端な例ですが、この場合、A、Bどちらがより堅実な経営をしていると言えるでしょうか。
この場合、1000万使って3000万の売上を得ているわけですからパッと見は同じです。

Aは2/100の確率で1500万円の契約をとっています。つまり接待の成功率は2%です。

Bは6/500の確率で500万円の契約をとっています。つまり成功率は1.2%ということになります。

営業マンとしてはAの方が成功率が高いように見えます。しかしAは一回の接待にBの5倍の費用を使っているのです。

使用したお金あたりの成功率はAは1万円あたり0.2%、Bは0.6%と逆転します。つまりBの方が資金効率のいい営業マンと言えます。

ただし、Aの方が一件あたりでみるとBの3倍の金額を契約できています。

 

仕事の利益率が同じだと仮定してA、Bどちらの経営者に投資するか、と問われたら、私なら間違いなくBを選びます。

その理由は、こまかく沢山の仕事をとって来る方が、少なく大口の契約をとって来るよりも安全性が高いからです。

Aはとれた契約のどちらかひとつが心変わりしたり破談になったりしたらすぐに行き詰まる可能性が高いのに対し、Bはどれか一つが心変わりしたとしても全体の1/6しか影響がありません。

Aが失注してから埋め合わせのための他の仕事を探すのにさらに営業費用が500万円かかることを考えると、1500万円の契約がとれても赤字になってしまうかもしれません。

しかしBはAの3倍の効率で契約をとることができるわけですから、仮に1/6を失注したとしても166万円の営業費用でさらに500万円の仕事を探して来れる可能性があります。

 

これはプログラミングの世界では冗長化と呼ばれるやり方です。
サーバーはハードウェアですから必ず壊れます。しかし世の中には壊れてはいけないサービスばかりです。そういう時は、壊れることを前提として協力で大きなサーバマシンを導入するのではなく、コンパクトなマシンを複数台用意して負荷を予め分散させながらバックアップをとります。

万が一ハードウェアが故障した時もバックアップはとれているし、どちらか一方が生きていればサービスは停止しません。
同様にクライアントひとつひとつがランダムな確率で失注すると仮定して特定のクライアントに売上が偏らないようにバランスをとり、仮に失注しても大丈夫な状態を維持するのがBのやり方です。

これは安定性の高い経営が期待できるでしょう。

 

高級フレンチとセンベロの関係は経営者AとBに似ています。

高級フレンチは客を絞り、サービスレベルを高めることで付加価値を付けます。高級な分、原価もそれなりにかかります。

しかし原価のかかる分というのは、専らハードウェア、つまり内装や土地といった、料理そのものとは直接関係しない間接的なコストです。もちろん料理の原価も上がるはずですが、それが問題にならないくらい、他の全てのコストが跳ね上がります。

その結果、ときたま来るお得意様の心を繋ぎ止め続けなければ商売が成立しません。

しかし客というのは気まぐれなものですから、ありきたりの料理には飽きてすぐ別の店に行ってしまいます。そうするとここでの損失は甚大になります。しかもそもそも高級フレンチに10万円払える客というのはそう滅多にはいないのです。ですから一度客を失ったら大変なことになってしまいます。だから気を抜くことが許されません。

一方センベロは、調理法や回転率を上げる工夫というソフトウェアを改良することで毎日でも通いたくなるお店を作ることに成功すれば、持続的に売上が入ってきます。客単価が安くても月に2,3回通ってもらえるような店になればまず安泰と言えるのです。

ポイントは本来はどちらもリピーターが大事ということです。

しかしリピーターを繋ぎ止める努力は、高級フレンチの方が遥かに難しいと言えます。高い材料を使うだけなら誰でもできるからです。

結局ソフトウェア・・・つまり調理のアイデアの闘いならば、センベロの方がひょっとすると効率的なビジネスなのかもしれません。

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清水 亮(しみず・りょう)

1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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