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ついに目覚めた巨人 Microsoftの逆襲

The Empire Strikes Back

2015.05.07

Updated by Ryo Shimizu on 5月 7, 2015, 10:36 am JST

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連休中にサンフランシスコで開催されたMicrosoftのイベント「Build 2015」から戻ってまいりました。

今回のBuildで強く感じたのは、「ついにマイクロソフトが逆襲を開始した」ということです。

これまでMicrosoftはパッとしない時代が続きました。

これまでのMicrosoftは愚鈍な牛のように見えました。

誰が求めているかいまいちわからないZUNEやWindows8という製品を発表し、Microsoftの生命線とも言えるOSのアップグレード需要を冷え込ませました。Windows8も、8.1も、誰も求めていない製品だったのです。

にも関わらず、昨年は過去最高益を叩きだしたというのはさすがと言わざるを得ませんが、WindowsPhoneしかり、WindowsStoreしかり、お客さんがどこにもいない中で苦しい戦いが続いていました。

お客さんがいないマーケットにむけて商品を作ろうという開発者はいませんから、このままではMicrosoftは本当に終わってしまうところでした。

そして今回のBuildは、Microsoftの新時代を感じさせるに相応しいものとなりました。

まず、Microsoftの優れた開発環境であるVisualStudioのソースコード編集機能を抜き出したVisualStudio CodeのMac/Linux対応。

これはメインマシンを他機種に乗り換えてしまった開発者たちへのラブコールです。

VisualStudioに搭載されたIntellisenceというソースコード入力補助機能は非常に強力で、この機能のファンは多かったため、会場では大喝采を浴びました。

そしてさらに会場に集まった開発者たちを驚かせたのは、Windows10のWindowsStoreへのAndroidアプリ、iOSアプリのアップロードを可能にしたことです。

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これには会場に集まった開発者たちはもちろん、会場で密かに筆者とチャットしていたMicrosoftの担当者も度肝を抜かれました。

Androidに関してはAPK(Androidのアプリケーションパッケージ)のまま、iOSに関しては再コンパイル後、ということですが、曲がりなりにもWindowsでこうした広範囲のアプリケーションが動作できるということは本当に驚きです。

実際的にAndroidアプリやiOSアプリをWindows10に移植しようとしたとき、本当にそのまま動かしてWindowsStoreに並べるのかどうかは疑問ですが、少なくとも細かな調整以外はそのまま動いてしまうとしたらそれは大変なことです。

むしろこれは開発者イベントならでは、というか、開発者たちにMicrosoftという巨人の底力を見せつけるための、一種のデモンストレーションなのではないかと思います。

実際、その場でiOSのコードをWindows上のVisualStudioでコンパイルし、ゲームを実行していました。

これは非常に野心的なプロジェクトと言えます。

 

これなら全くアプリがない状態のWindowsStoreも盛り上がるかもしれません。

さらにキーノートではAzureなどのクラウド機能に力点を置いて説明されていました。

MicrosoftはWindows10へのアップグレードを1年間の期限付きとはいえ無償化します。

そのかわり、クラウドなどで収益を確保していきたいという意向が見え隠れします。

 

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会場ではdockerのCEOが現れ、Ubuntu LinuxとAzureをdockerで管理するデモが行われたり、

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新しいAzure向けSQL Database Poolの実演や

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新たにSQL Data Warehouseというサービスをスタートすることが告知されました。

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SQL Data Warehouseは、機械学習に最適化され、ビジュアル言語でデータ解析が可能なほか、統計解析で用いられるR言語にも対応しています。

R言語はschemeの影響を受けた言語ですが、統計解析に使いやすく、日本の文系の学部でも教えられている便利な統計解析言語です。

Microsoftによれば、SQL Data Warehouseではペタバイト級のデータを扱う機械学習が可能です。

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さらにMicrosoftは、エクサバイト以上、事実上無限のデータサイズを保存・管理するAzure Data Lake Serviceも開始するとアナウンスしました。

事実上無限、というのが実際にどの程度無限なのかはわかりませんが、Azureは運用性が高いことで評価も高く、筆者も個人的に使っていますがこれまで不満を感じたことはありません。

個人で使う範囲ではAmazon Web Servicesに比べると管理しやすい印象ですが、本格的な法人運用にどれだけ耐えられるかはまだ実績が少なくて評価できる段階にはありません。

しかしMicrosoftがAzureに本腰を入れるとなると、同業他社から見ると非常な脅威でしょう。

MicrosoftはAzureを武器にクラウドサービス企業への生まれ変わりを志向しているのかもしれません。

実際、筆者はWindows10を試すのに手近なマシンがなかったため、Azure上の仮想コンピュータを立ち上げ、そこにWindows10 Technical Previewをインストールして試していました。MacからRemote Desktop Protocolで使うことが出来ます。

このような用途、つまりバーチャルデスクトップ的な用途にもAzureは使えますし、このやり方なら機密が無制限に漏洩するのも防げます。

かつてOracleが提唱したいわゆるNC、ネットワークコンピュータサービスがAzureによって簡単に実現できてしまうことに驚きました。

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また、Microsoftの主力製品であるOfficeは、プラットフォーム化を志向していくことが明らかになりました。

Office365を中心に、Officeと連携するサービスやアプリケーションを増やしていくためのOffice APIを推進し、様々な外部のサービスと有機的に結びついた活用法を模索して欲しい、というメッセージを開発者たちに投げかけました。

実際、ExcelとWebサービスを組み合わせた見事なデモが行われたのですが、筆者としてはイマイチExcel以外のOffice製品、たとえばPowerPointとかWordとの連携というのがイメージできませんでした。

Excelはたぶんすごく便利になるんでしょうけど、その他のOffice製品との有機的な連携は今後の課題になりそうです。

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さらに、これまで「Project Spartan」と呼ばれていたMicrosoftの新しいブラウザーが、「Microsoft Edge」と名付けられて紹介されました。

これまでは「Internet Explorer」というベタベタな名前がむしろ良かったのではないかと思ったのですがMicrosoft Edgeはそれはそれでカッコイイ名前なので流行りそうです。

Microsoft Edgeの特徴は、なんとChromeやFirefoxのプラグインをすべて取り込めるようになってること。

今回のMicrosoftは、とにかくユーザーを獲得するために手段を選びません。

Cortana(iOSでいうSiriに相当)と連動し、ユーザーの好みに合わせたWebページを提案してくれるという機能もあります。

また、ただ「見る(ブラウズ)」だけでなく、Webページに手書きでメモを書き込んだり、書き込んだメモを友達と共有したり「する」ことまでできるブラウザ、というのが大きな特徴になっています。

実際に筆者も会場で配布されたHPのSpectre x360にWindows10をインストールしてEdge(まだ名称はSpartanのまま)を使ってみたのですが、確かにメモを書き込むのは便利なものの、OneNoteとの連携かメールでの共有しかないのでちょっと使い道がわかりませんでした。これなら手書きでメモしたあとGyazo(http://gyazo.com)で共有したほうが便利かなあ、と思います。

とはいえまだ開発段階ですから、今後の展開に期待したいところです。

 

そして最後に会場を沸かせたのはなんといってもHoloLensという、新たなHET(ヒューマンエンハンスメント技術)です。

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HoloLensは頭にかぶるタイプのコンピュータで、現実の空間にウィンドウやガジェットなどをオーバーレイ表示させます。

Microsoftはこれを「ホログラフィック・コンピュータ」と呼び、講演中に何度もこの単語を連発しました。

ウィンドウを現実の世界に配置することで事実上無限大の広さまで広げてしまうというのがこの技術の重要なポイントです。

1月のイベントで発表されたHoloLensは大きな話題を呼びましたが、今回はさらにデモが増えていました。

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ウィンドウに「Follow me(ついてこい)」と指示して移動したり、ウィンドウをリサイズして壁いっぱいに広げたり、Skypeをしたりというデモが行われました。

また、HoloLensはBluetoothマウスを使うこともできるということなので、キーボードも使えるのではないかと思います。

メールの本文入力などの作業はキーボードで、細かい指示はマウスで、大雑把な指示は指を空中にかざす「エア・タップ」で、行うようです。

 

これまでAR(Augmented Reality;拡張現実感)やMR(Mixed Reality;複合現実感)と呼ばれる分野は入力装置がひとつの課題でした。

HoloLensは室内用と限定することでこうした入力装置の問題を現実的に解決したところは非常に興味深いと思います。

実際、HoloLensではWindows10のアプリがすべて動作し、HoloLensからメールを出すこともすでに可能だそうです。

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さらに、Windows10 for IoTを搭載したRaspberry Pi2によるロボットを認識してロボットとインタラクトするデモが披露され、これもまた喝采を浴びていました。

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ロボットをエアタップすると、空間上に設定項目が現れます。

設定項目のひとつを注視し、エアタップすると操作できるという仕組みです。

まさにSF映画でも描かれなかったような未来像に集まった開発者たちは興奮の色を隠せないようでした。

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さらにHoloLensでロボットの周囲の空間を認識し、ロボットに移動経路を指示するデモも行われました。

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これは直感的なプログラミングとも呼べるもので、「ここに行ってから、次にあそこに行きなさい」と視線とエアタップで指示を与えることで簡単に実現できます。こんなに簡単にプログラミングできるなら、だれでも出来る世界はすぐにやってきそうですね。

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さらにロボットの経路上に障害物(最初に空間を認識した時には存在していなかったもの)があるとアラートを表示して手前でロボットは静止します。実に見事なデモでした。

このとき、注意したいのは障害物となったアレックス・キップマンの足元です。

本来床である場所に描画されるべき赤い円形のマーカーが、キップマンの足の上に表示されてしまっています。

これはヘッドマウントプロジェクターの制限で、奥行き情報を用いて正確に隠れ面検出ができていないということのようです。

そう考えて振り返ると、実は今回のデモでも前回のデモでも一度も人間がホログラムの前を遮るようなアングルから撮影されていません。

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このビデオだとホログラムの前を遮っているのですが、明らかにこれはイメージビデオというかCGのようです。

ということは、HoloLensは基本的には室内で一人で使うものなのかもしれません。

実際、プレスや開発者たちが体験できるデモもわざわざ一人一人が個室に分けられて行われました。

HoloLensに関してはまだ謎も多く、開発環境としてUnityが使えること、USBケーブルでデータを転送すること(これはいずれワイヤレスでできるようになってほしいところです)、くらいです。

 

価格も発売時期も未定ですが、今回のBuildが盛り上がったのはHoloLensが注目を浴びたためといっても過言ではないでしょう。

実際、HoloLens関係のセッションは長蛇の列ができていました。

 

今回のBuildの感想をまとめると、「行ってよかった」ということです。

2008年、iPhoneが発売された翌年のWWDCを思い出します。

あの時、Appleの人たちは「日本から開発者がこんなに来たのは十何年ぶりだろう」と感動していたました。
今回のBuildも、日本からの開発者がかなり多かったように思います。

オープンソースへの取り組みも意欲的で、.NET Coreに関してはMacとLinux双方をサポートすることが表明されました。

 

実際、Windows10の出来は素晴らしく、何よりフォントのレンダリングエンジンが大きく改善されているのでMacからVAIO Zに乗り換えた時に「しまった」と思った感覚が完全に払拭されたのは大きいですね。

フォント自体が美しくないという問題も、NotoFontというGoogleとAdobeが共同開発したフリーのフォントをインストールするとかなり改善されます。

一度Windows10に行ってしまうと、なかなかMacに戻りたくなくなってしまうほどだったのは筆者としても驚きでした。

Mac OSXがフラットデザインを導入し、10年続いたAquaに別れを告げたのと対照的にWindows10はWindows95から始まる伝統的なスタイルに原点回帰を果たし、さらに洗練されました。

この2つのコンシューマOSがダンスを踊るように様々な表情を見せるのは非常に面白いですね。

お互いに刺激を与え合いながら切磋琢磨していただくと我々エンドユーザも恩恵が得られるというものです。

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清水 亮(しみず・りょう)

1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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