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地下鉄24時間運行 安全性を心配する日本人と、地下鉄で働く人について議論するイギリス人

When tubes run 24/7, Japanese worry about the safety, Britons discuss about Tube workers

2015.07.10

Updated by Mayumi Tanimoto on July 10, 2015, 02:17 am JST

ロンドンでは地下鉄のストの真っ最中です。ロンドンでは9月から地下鉄が24時間運行になるのですが、割増賃金やボーナスに関して、地下鉄職員の組合と、経営側の交渉が決裂したのがストに突入した原因です。ウインブルドンはまだやっているし、夏休みが始まったのでロンドンには観光客が押し寄せていますが、そんなことは関係ありません。イベントの時期や、休暇の時期にストをやるから効果がでるのです。通勤客が困ろうがどうしようが、そんなことは関係ありません。

Tube strike begins across London Underground network

ちなみにロンドン地下鉄の運転手の年収は、半年の訓練終了後の初任給が年収900万円で、その後在籍年数によって変わることがありません。週36時間勤務(1日あたり7.2時間)、有給は年に33日です。東京メトロ勤務の方の平均年収は740万円ぐらいらしく、勤続20年で年収800万円ぐらいの様なので、それに比べると破格の待遇ですね。

私の場合、イタリアに4年住んでる間に、夏は大規模ストが月に3回ぐらいあるのに慣れちゃってますので、この国は随分ストが少ないなあ、なんて感覚ですが、日本から来たばかりの人や、アメリカ人は、怒りのために狂い死にしそうになっています。怒る元気があって羨ましいです。

 

ここの人々はこういうストに慣れっこになっているので「スト!許せん」と怒るよりも「明日は休むわ」「家で仕事するわ」「明日はキックボードでくるわ」「運動不足だから歩くのは体にいいよな」という極めてユルユルな対応です。もう夏だし、仕事もやる気がないし、しかも週末なので(水曜日はもう週末モード。だから昼からパブは大盛況)、通勤できようができまいがどうでもいいのです。1-2日仕事できなくても死なないだろ、というスタンスです。在宅勤務当たり前の会社が多いので、家でも仕事できる人が多いので騒がないというのもあります。

ところで、地下鉄の深夜運行に関して面白いのが、ここでは議論の中心になっているのが

 

・地下鉄で働く人の労働環境が悪くなる!

・深夜勤の人の給料どうなるの!

・終電気にしないで飲めるからいいじゃん。パーティーピーポーには最高!

です。

 

日本の場合は、ちょとまえに地下鉄や都バスの24時間運行のお話がでましたが、その際に、議論の中心になったのは

・メンテナンスできなくなるから危ない

・乗客の残業が増える

・経済効果はどうなのか

 

地下鉄24時間化より満員電車の解消を

都バス・地下鉄の終夜運行 経済効果は?

 

イギリスの場合は、「働く人をどうするか」「地下鉄で働く俺たちの給料はどうなるか」と、いうのが議論の中心であり、あくまで「働く人の方がえらい」というスタンスが面白いおですね。

アル中云々は、そもそもサービス残業というのはなくて、働く人の大半は定時上がり、しかし、男も女も大酒飲みが多く、終電でパンツ丸出して寝ている女性とか、ホームで踊りながら吐いている男性などいるのが普通なので、これ以上そういうのが増えるのはちょっと困るという話です。この議論も、イギリスの働き方を反映しています。

経済効果云々は隅に追いやられてるのがすごいですね。社会全体のことを考えて云々という視点はなく、あくまで、「自分がどうなるか」という視点で語っている人が多いのが、個人主義的です。

日本の場合、地下鉄で働く人はどうなのか、という話が全然出てこなかったのが興味深いというか、そもそも、安全性は世界トップレベルなのに、まだ安全性云々の話をしているところに、日本人の生真面目さが表れています。ロンドンのバスの正面衝突(割と当たり前)とか、常にぶっ壊れている地下鉄車両のことを知ったら、卒倒する方が多いでしょう。

乗客の残業増えるからやめて、は、涙無くして読めませんね。これも、日本とイギリスの働き方の違いをよく表しています。サービス残業があるのがおかしい、なぜ、残業させるほど仕事が多いのか、管理職がなぜ無能なのか、経営者は血も涙もない、という議論に話が進まないのも日本らしいです。

経済効果云々を真剣に語っている人が多いのも日本らしいですね。自分のことではなく社会全体のことを考えてしまう、しかし、自分の生活の質は二の次という、かなり間違った優先順位の思考を展開する人の方が多いからです。個人の生活が悲惨だったら経済効果云々も何もありません。

ところでロンドン交通局の通勤客に対するアドバイスが、アナログかつ、無責任な感じで、イギリスぽくやる気が無くいい感じというか、「働くほうが偉い」感丸出して、大変勉強になります。日本の会社もこういうノリで顧客対応すると、みんなやる気がなり、適度にゆるい社会になって、ビールがもっと美味しくなるというものではないでしょうか。

 

・歩けば!歩く人用に徒歩移動用地図を用意したよ!

・タクシーに乗れば!

・近所の人と相乗りするといいよ!

・自転車に乗れば。レンタル自転車もオススメだよ(←そうあのレンタル自転車は観光用じゃなくこういう時用。。。)

・家で仕事すればいいんじゃん!

・倒れる可能性があるので水を忘れないでね。今日は暑いよ!(←でも温度は20度ぐらい)

・追加バスを走らせるよ。ただし200台だけどね!(←どう考えても足りない。そして臨時バスだからどうせ道を間違える)

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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