WirelessWire News Philosophy of Safety and Security

by Category

プログラミング以外の大事なこと

Great Things Other Than Programming

2015.09.27

Updated by Ryo Shimizu on September 27, 2015, 10:30 am JST

 お陰さまで7月に刊行した「最速の仕事術はプログラマーが知っている」が好調な売れ行きなので、あちこちの雑誌から取材を受けるようになりました。

 何年かに一度、取材ブームみたいなのが来て、その都度、どんな服装で受けたらいいのか、どんな顔をして話をしたらいいのか、私なりに多少悩むのですが、結局、Tシャツにジーンズ、たまにジャケット、といういつもの格好でやってしまいます。

 特に難しいのが写真撮影で、「笑顔でお願いします」と言われるんですが、私はとにかく笑顔を作るのが苦手です。
 これはもう、20年前から苦手で、同僚からはよく「清水は笑顔をつくると気持ち悪い」とからかわれたものです。

 では笑わないのか、というと、むしろ私はよく笑う方で、会社では笑ってる時間の方が長いんじゃないかと思うくらい笑っています。

 けど、意図的に笑顔を作るのが難しいんです。

 なので私の取材写真は、どうもいつも不自然な笑顔で不自然な感じの写りになってしまうのです。

 ということもあり、私は取材を受けるのは苦手です。
 人と話をするのは好きなのですが、写真を撮られるのが苦手なのです。

 写真はともかくとして、インタビューを受けることになると、受け答えにもセンスが要求されます。

 普段、こうしてコラムやブログを書いている時は時間もたっぷりあるし、文字数制限もないので特に気にしないのですが、インタビューは時間も文字数も限られているのでできるだけ簡潔に相手の聞きたいことを伝えなければならず、これもまたかなり難しいのです。

 基本的には事前にインタビューの内容が企画書などで送られてくるので、インタビューのある日の朝には企画書に目を通しておきます。

 そして頭のなかである程度、「こんな話をしようかな、こういうエピソードも話そうかな」と準備体操を始めておきます。
 そうするとインタビューの時に、迷わず言いたいことが話せるというわけです。

 昔は、インタビューの企画書をもとに事前に想定問答を作ったりしていたのですが、それはさすがに時間を吸い取られるのでやめてしまいました。

 また、「最速〜」の中でも触れましたが、プレゼン資料は直前に作るのがいい、という話と同じで、インタビュー内容は直前、もっと言えばその場で考えるのが結局は最善の受け答えができます。なので、事前に企画書を読みながら頭で受け答えをイメージするだけに留めています。

 最近おもしろいなと思ったのは、仕事術にまつわる本を出したことによって、それまでインタビューされる内容が「経営のやり方」「プログラミングの学び方」だったのが、「頭の使い方」にシフトしたことです。

 たぶん世の中にはこういう「頭の使い方」を常に風変わりな切り口で説明するやり方を探し求めている人たちが一定数居て、そういう人たちのアンテナに引っかかったのでしょう。

 ただ、最近立て続けに「プログラミング」や「プログラマー」という言葉のついた本ばかり出してしまったので、「プログラマーから見て●●はどう思いますか?」「プログラマーから見た●●について本を書いてくれませんか?」というやりとりには辟易しています。

 確かに私はプログラマーですし、それが私の人生や人格の根本的な部分を占めていることは否定できません。
 しかし当然ながら、プログラミングの手法「だけ」が私の生き方や仕事のやり方ではありませんから、ともすればすぐにインチキな話をしなければならなくなります。

 また、もっと致命的なのは、当然ながら編集者の方はプログラマーではないので、プログラミングに関して誤解したまま本にしてしまって、あとで喧嘩になることがあります。

 そういう制約があるので、最近は「プログラマー」とか「プログラミング」とかがタイトルについてる本の執筆依頼は原則として断ることにしました。

 まあこの連載も「プログラマー経営学」なので、その一種ではあるのですが、ブログという形式であることもあって、基本的に自由に書かせていただけるので助かっています。

 そこで今回は、連載の主旨から少し逸脱して、「プログラミング以外に私が仕事をする上で大事だと思っていること」を書いてみたいと思います。ごめんなさい、ほんと、プログラミングについて語るのが少しつかれたので、たまにはこういう回があっても許して下さい。

 私がプログラミング以外で大事にしている心がけは以下のようなことです。

・人間の心理
・宇宙の真理
・戦略と兵站
・食事
 

 書いてみて思いましたが、「うわあ、大丈夫かな」と思われるかもしれません。
 でもそんなにぶっ飛んだ話ではないのでご安心ください。

 私が大事にしている「人間の心理」というのは、基本的に自分の心と部下の心です。たまに、取引先の心も興味関心に入ります。もちろん、エンドユーザの心は仕事の中心的な興味になります。

 しかし一番大事なのは自分の心です。

 私はときどき、「なんか面白いことないかなあ」と誰ともなしに聞くことがあります。
 私がその台詞を発すると、付き合いの長い部下は「またぞろ清水の悪い癖が始まったぞ。あれを言った日にはろくなことが起きないんだ」と身構えます。

 私がこの台詞を発するのは、たいていは仕事が順調な時です。
 順調過ぎると飽きてしまうのです。

 というのも、(これはプログラマー的な性格のせいかもしれませんが)、全てが順調に行くということは自分が書いた(編成した)プログラム(組織、仕事)が問題なく動いてしまっているということだからです。

 プログラムが完成すると、プログラマーの出番はなくなります。
 だから私は仕事が順調に軌道に乗ると、「なんか面白いことないかなあ」と次なるテーマを探し始める習性を持っているのです。

 しかし、この「なんか面白いことないかなあ」と言ってる心理状態は危険な状態でもあります。
 新しいことを求めるということは、リスクが当然含まれるからです。

 だから部下は警戒します。「気をつけないとうちのボスはまたなにをしでかすかわからないぞ」と思うのです。
 

 こういうときにはたいてい新しいことを始めて失敗するのですが、その失敗が意外と次の成功のヒントになっていたりするのです。

 部下の心というのは、読み切れるものと読み切れないものがあります。
 男性の部下の心は、たいていが読み切れます。

 私は一緒に働く人に必ず最初に聞くのは、その人の夢です。
 その人の夢を叶えるために仕事をして欲しいと常に思っているからです。

 だから私は滅多に命令をしません。
 命令するというのは最後の手段です。
 年に一回もしないのではないでしょうか。

 命令するのではなく、プレゼンテーションします。
 「こんな仕事があるんだけど、これは君の夢を実現するためにちょうどいいステップになるのではないか」

 そんな感じで、「どうだ、やってみないか?」と聞くのです。
 それでも嫌だと言われたら、強制はしません。

 人は好きなこと、自分のやりたいことをやっているときに最高のパフォーマンスを発揮します。
 プログラマーは特にその傾向が顕著です。

 その上、新しいこと、最先端のことをやるためには、常に新しいことを勉強しなければなりません。
 勉強してまでやりたいことをやってもらうには、命令しても上手く行きません。

 自分の子供時代を考えてみてください。
 親から「勉強しろ」と命令されて勉強できた人というのは居ないはずです。

 あるとき、「自分には勉強が必要だ」と自覚できて始めて受験勉強に身が入るのです。

 仕事も同じで、「自分にはこの仕事が必要だ」と思って始めてパフォーマンスを最大化できます。
 仕事には二種類あって、一定時間我慢して、我慢したことの対価として報酬をもらうタイプの仕事と、自分がやりたいことをやって、その上報酬までもらっていいの?と申し訳ないくらいの気持ちで報酬を貰うタイプの仕事です。

 私は幸い、人生のほとんどの時間を後者のような仕事をして過ごしてきました。
 だから私は自分の給料が下がっても楽しく生きていけましたし、お金と自分の心と、どちらを優先するかというときに、常に自分の心を優先して生きてくることが出来ました。

 人間も動物の一種であると考えると、自分自身もプログラミング可能な存在なのですが、単なるプログラミング言語の部品と人間の違いは心を持っていることです。

 心をどう管理するかということが最大の問題で、それをも包括して組織をプログラミングするのは難しく、しかしチャレンジのしがいのあることです。

 なので私はかなり胡散臭い類のものも含めて、心理学にまつわる本を大量に読んでいます。
 自分自身で心理学的な実験をしたりもしています。

 私が大切にしている「宇宙の真理」というものも、この人間の心理学と密接な関係性があります。

 最新の宇宙理論では、宇宙は平面かもしれない、という説が有力になってきました。
 
 直感的には「そんなバカな」と思うかもしれませんが、むしろ平面だと考えたほうがしっくり行く、というのが最近提唱されているホログラフィック宇宙論です。ホログラフィック宇宙論に関する日本語の文献がまだとても少ないので、日本では大学の物理学者にさえ「嘘だろ」と言われたことがあるのですが、れっきとした理論です。

 まあホログラフィック宇宙論の前に有力視されていた超ひも理論にしても、宇宙は10次元の超ひもでできていて、しかし6次元ぶんが折りたたまれていて我々人間には残りの4次元しか認識できないのだ、という話だったりするので、10次元が2次元になってもそれほどの違和感はありません。

 まあシリアスな世界に生きる我々としては、宇宙が10次元でも2次元でも構わないのですが、宇宙が本当はどうなっているのかという厳密な探求は人間ならではのものです。

 さらに最近では量子コンピュータやその原理である量子テレポーテーションなど、宇宙論と密接に結びついた技術がコンピュータの分野にも進出してきつつあります。

 
 従って、私にとっては宇宙の真理の追求もまた非常に興味深い対象になるのです。
 また、20世紀は生物の設計図がDNAという情報に還元されることがわかったり、宇宙を構成する原子が元素番号によって周期的な性質を持っていることがわかりました。これはすなわち宇宙の本質はデジタル情報であるということです。

 超ひも理論と同じくらい有力視されているループ量子重力理論では、時間は連続的にではなく離散的に進みます。
 離散的に進むということは、時間はアナログ時計の針のように連続的に変化するのではなく、クオーツ時計の針のように、カチッカチッと進むということです。

 もし宇宙の本質がそれまで考えられてきたように連続的なアナログ量ではなく、離散的なデジタル量なのだとしたら、アナログという概念は人間もしくは生物しか持っていない概念ということになります。

 私は手書きコンピュータOSの開発をライフワークとしているので、アナログ量とデジタル量の相転移には非常に興味があります。

 私はキーボードを扱うのが得意ですが、新しいことを考えたりアイデアをまとめたりするときには必ず手書きを必要とします。

 なぜ手書きが心地良いのかと言うと、自分の頭のなかにあるもやもやした概念をもやもやしたまま表現できるからではないかと思います。

 そして手書きをしているうちに、カメラのレンズがフォーカスを合わせるように、もやもやした概念からシャープな概念へと合焦できるのが便利なのです。

 「戦略と兵站」は私の考え方の基本です。
 プログラミングそのものと対をなすほど、私にとっては大事です。

 私はときどき碁を打ちますがそれほど強くありません。
 けれども碁を打つことによって、戦略と兵站を考える訓練をしているのです。

 この考え方を教えてくださったのは、東京大学の故・浜野保樹先生で、彼の授業を履修していたことが今の私の考え方の基礎になっています。

 軍事学である戦略と兵站をコンテンツ戦略に適用するという独特の発想でハリウッドの映画システムを解説してくださり、私は兵站学(ロジスティクス)というものに非常に強い興味を持つようになりました。

 この考え方を持っていなかったら、もしかすると会社を12年も経営することはできなかったかもしれません。
 

 最後に、一番大事にしているのは「食事」です。

 人はなんのために生き、何に喜びを感じるのでしょうか。

 恋や子育て、趣味、色々な喜びを感じる手段があると思いますが、万人に共通する喜びは美味しいものを食べることです。

 美味しいものを食べることに勝る人生の喜びはありません。
 これは絶対普遍なものであり、世界共通の喜びでもあります。

 だから私は自分でも料理をしますし、食べ歩きにでかけます。
 高級なものもそうでないものもとりあえず食べてみるというのが私のポリシーです。

 そして美味しいものを見つけたら、部下や友人を連れて行ってみんなで楽しみます。
 それが私の喜びであり、「よーしもっと頑張って働こう」と思う原動力だからです。

 料理はプログラミングに似ているとよく言われます。
 その昔、月刊アスキーというマイクロコンピュータ総合誌にも「料理はプログラミングだ」という連載があったくらいです。

 料理がプログラミングだとすると、世界中のお母さんはプログラマーということになります。
 料理に凝るのはとても楽しい行為です。

 自分の作った料理で大切な人が満面の笑みを浮かべてくれたら、こんなに素敵なことはありません。
 だから私にとって一番大切なことは食事なのです。

 今回はやや脱線して、私が大事にしているプログラミング以外のことを紹介させていただきました。
 プログラミング以外のことに関する執筆依頼なら歓迎しています。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

RELATED TAG