労働流動性は日本経済の救世主

Flexible labor market saves Japanese economy

2015.09.30

Updated by Mayumi Tanimoto on 9月 30, 2015, 08:17 am JST

日本の雇用問題を書くと必ずといっていいほどコラムが大人気になりますが、本日は今週イギリスで話題になった人材派遣会社のHaysがOxford Economicsと実施した The Hays Global Skills Index という調査をご紹介します。

この調査は、31カ国のマクロ経済データを元に、各国における人材とスキルの状況を定点観測したものですが、日本に関して大変興味深いデータが掲載されています。高度人材に関する言及も多く、通信やIT業界関係者も一読しておくべき内容です。

調査では、日本に関しては、人材と仕事のミスマッチが最大の問題だと指摘しています。ミスマッチの度合いは、10ポイント中の10です。ポイントが高ければ高いほど「問題がある」ことになるので、日本の場合は、問題がMaxということになります。つまり、各企業は必要なスキルを持った人材を確保できていない、ということです。

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ただし同じくポイント10のアメリカとの違いは、労働流動性です。日本の場合はポイントが6.7なのですが、アメリカの場合は4.7です。ポイントが高ければ高いほど、労働流動性がない、ということです。つまりアメリカの場合、必要なスキルを持った人材が足りないために「ミスマッチ」が起きているが、日本の場合は、労働流動性がないために「ミスマッチ」が起きているということがいえます。

以下のチャートを見るとわかりますが、労働流動性に関しては、日本はどちらかといえば、ドイツやフランスに近い国です。

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高度な技能を必要とする産業の報酬に関しては面白いことがわかります。日本の場合はポイント2.5です。つまり、高度な技能を必要とする産業でも、高い報酬を払わなくても人材を確保しやすい、ということです。これは労働流動性が低いために、長期雇用を前提とする代わりに、高度な技能を持った人を安く使い倒せる、ということと関係があるでしょう。

転職が頻繁で、技能ベースで人を雇うので、フリーランサーでも高い報酬を得ることができるイギリスは7.6、アメリカの場合9.9です。労働流動性が高いので、人材の獲得に市場の力が働くために、報酬が高額になりがちです。以前このコラムでもご紹介しましたが、ロンドンの場合、システムアーキテクトで年収2,000万円、エントリーレベルのプログラマの年収が800万円ということは珍しくありませんし、テック業界だと大手のネット企業で働けば、インターンでさえ月収60万円超を稼ぐことが可能です。ドイツの場合は、イギリスやアメリカほどフリーランサーを雇ったり転職する頻度が高くないのですが、高度技能を持った人材が不足しているので、報酬が高くなりがちです。

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一方で、最近は日本の国立大学の文系学部廃止を始め、日本の教育の問題が指摘されることが少なくありませんが、この調査を見ると、日本の教育というのは、柔軟性があるため、働く人の育成に関しては大変評価が高いことがわかります。以下のチャートは、各国の教育が働く人を養成するのに適しているかどうかを表したものです。スコアが低ければ低いほど、その国の教育は柔軟性があり、働く人の育成に適切だということになります。

様々な国に滞在したり、仕事をするとよくわかりますが、日本の働く人というのは、他の先進国に比べても、全体的に大変レベルが高いのです。初等教育、中等教育がしっかりしているので、中卒者や高卒者でも自販機の使い方を「読むこと」が可能なので、職場でマニュアルを渡しても解読することが可能です。

日本では公立の学校で「すら」先生方はやる気があります。これは他の先進国では実は珍しいことです。他の国だと公立の学校の教師は給料が安いので、日本ほど熱心に働きません。日本の学校では校門に金属探知機を設置しなくてすむ環境です。構内での刺殺や銃撃もありません。イギリスやアメリカの治安の悪い地区や貧困地区だと、学校に銃や刃物を持ち込む生徒がいるので当たり前の光景です。日本の学校では、外国人生徒がいる学校でも、生徒のしゃべる言葉は56ヶ国語もありませんし、本を見たことがないような保護者もいません。ロンドンだと小学校ですら母語が英語ではない生徒が「過半数」なので、授業が成り立たない、学校がマイナー言語を含めた外国語通訳を雇う状況です。

こういう状況への対応には、手間もお金もかかり、公教育の運営コストに大きな影響があります。日本の場合は、治安の確保や教師の意欲の向上、他言語環境への対応といった「余分なコスト」がないので、数多くの人が、安全な環境で、効率のよい教育を受けることが可能です。

暗記中心、詰め込み教育云々と悪口を言われることもありますが、ホームレスが新聞を読むことが可能で、中等教育しか受けていない人でも、マニュアルや自販機の説明を読みこなせて、スマホを使うことができるというのは、日本の強みです。(つまり他の先進国ではそれは異様なことだということです)

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日本の場合、労働者の全体的な質はよく、報酬をあげる必要はないが、人材のミスマッチが起きています。労働流動性を高めれば問題は解決しそうですが、問題は雇用規制の緩和、だけではなく、企業と働く方の「慣習」にあると考えています。そもそも日本では働く人の解雇は「様々な方法」で不可能ではないですし、大規模リストラをやる企業もあります。

しかし、雇う方は、転職者を歓迎しない組織が少なくないです。これはもう慣習の問題です。さらに、報酬や昇進が実績ベース、技能ベースではないため、転職者やインディペンデントコントラクタなどプロジェクトベースで雇われる人の報酬体系が理不尽です。

一方、働く方にも問題はあって、転職が人生の失敗、転職したら職場を裏切ることになるという、よくわからない理由で転職を躊躇していたりします。さらに、中小企業から大企業への転職は無理だとか、女性の転職は無理だ、日系から外資への転職は無理だ、反対に、外資から日系へは無理だ、他業種へは無理だという「思い込み」を持った人が少なくないのも、流動性のなさに拍車をかけています。

イギリス人やオランダ人、アメリカ人やカナダ人、インド人などは本当にドライで、「どこそこの会社でなんの仕事があって、いくらもらえる。ベネフィットはこれだ。だから仕事を変える。グッバイ」と大変気軽に転職していきます。出戻りも当たり前ですし、短期のプロジェクトに何回も参加するフリーランサーも普通。中小企業やベンチャーだけではなく、大企業でもこういう光景は珍しくありません。報酬や条件が良ければ公務員ですら民間企業に転職しますし、大学の先生たちもボンボン転職します。35歳転職限界説なんてありません。あくまでも重要なのは稼ぐ能力です。仕事は自分の労働時間&技能と、報酬の交換にすぎませんので、至極真っ当な考え方ではないですか。

日本の働く人もこういう「まともな考え方」を持った人が増えれば、流動性が増して、日本経済はもっとよくなるのではないでしょうか。こういう人達が増えれば、雇う方もそれが当たり前だと思うようになります。つまり、問題は、「会社はコミュニティ」「職場には恩がある」「会社は自分を守ってくれる」と思い込んでいる働く人の方なんです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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