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21世紀はコミュニティ主導のオープン開発が決め手になる

Be open!

2015.10.24

Updated by Ryo Shimizu on October 24, 2015, 17:40 pm JST

小米(シャオミ)というシンプルな名前の会社が、AppleやSAMSUNG、SONYなど、名だたる大企業を脅かすまでの存在に急成長をしたのはなぜなのか。

長らく謎でしたが、その謎をシャオミの社員自らが全て解き明かした本が発売されました。

シャオミ 爆買いを生む戦略 買わずにはいられなくなる新しいものづくりと売り方

これによると、シャオミの秘密がよくわかります。

シャオミの創業者はMicrosoft Officeのコピー製品であるキングソフトの元社長。
キングソフトを香港に上場した後、キングソフトを退任し、上場したときに得た資金を元手にしてシャオミを立ち上げます。

シャオミの当初の作戦は見事でした。

MIUIという、独自のAndroidフロントエンドを開発し、それを最初期の100人のユーザとともに毎週バージョンアップするという改良を続けたのです。

毎週バージョンアップというのは、尋常な速度ではありません。

わずか20人の開発チームは、インターネットを通じて知り合った10万人のユーザとの共同チームになり、最初の1年で50万人を突破。満を時してMIUIを搭載したスマートフォンとしての小米が発売されると、熱狂的なユーザーに支持され、あっとうまに6000万人ものユーザーを抱えることになりました。

NTTドコモの全盛期の契約者が4500万人ですから、単独の会社としてはドコモよりも多くのユーザーを抱えていることになります。

最初の一年間は広告宣伝費を一切使わず、ソーシャルネットの口コミだけで50万人ものユーザを獲得したシャオミの戦略は、常識では考えられないものです。

ユーザーは欲しい機能、気に入った機能と気に入らない機能をフォーラムに投稿し、開発者がその要望に応える、という形でバージョンアップが進みます。

ユーザーにしてみれば、自分の意見が聞き入れられれば嬉しいし、愛着も沸きます。
愛着が湧くから他のユーザにも口コミで伝え、自分の提案した機能が実装されればSNSで自慢します。

ユーザーがユーザーを呼び、そして本当に高品質な製品へと仕上がります。

もうテストチームを抱えて少人数で「仕様通りに動いているか」を確認するだけの品質管理は時代遅れなのかもしれません。

ユーザーのニーズは時代とともに変化しています。
常に変化し続けるユーザーのニーズをリアルタイムにキャッチアップし、常に製品に取り入れていく姿勢は素晴らしいですし、非常に刺激的です。

ユーザーはMIUIがバージョンアップされる毎週金曜日をハラハラドキドキしながら待ち、新機能の搭載に一喜一憂します。

まさにメーカーとユーザーが一体となって、本当のニーズを共有しているわけです。

このスピード感は見事です。

2000年代のAppleは、この15年の間、年に1回か2回、キーノートスピーチで新機能を発表するのみです。

もちろん、その時代にはそのやり方ですら、進歩が早すぎるとさえ感じられました。

Microsoftが大きな製品を発表するのは3〜5年に一度というペースを考えると、Appleの年2回というペースは驚異的でした。しかしシャオミは、それを週に一度というスピードで行います。一年回に52回もバージョンアップするのです。ちょっと尋常じゃないですね。

筆者もMIUIと同じようにAndroidのフロントエンドを作ることを仕事にしていた時期があります。

しかしかたや中小企業、かたや大成功したベンチャーの上場益を元手にスタートしたハードウェアスタートアップ、我々は携帯電話キャリアと契約し、彼らの端末に搭載されるフロントエンドを作る仕事をしました。シャオミはそこで勝負しようとせずに、まず無料でフロントエンドを配り、ユーザーを獲得し、強力な味方につけて、その上でハードウェアを発売して投資を回収するという方法をとりました。

まず熱狂的なコアユーザーの欲望を満たすことに注力する、というやり方は、実はMicrosoftも採用していました。

典型的なのは、Windows3.0のマーケティングです。

元マイクロソフトで、MSXとWindows3.0のマーケティングを担当したトム佐藤氏による「マイクロソフト戦記」にはマイクロソフトがどのようにしてWindows3.0のマーケティングを成功させたか克明に記されています。

マイクロソフト戦記―世界標準の作られ方―(新潮新書)

トム佐藤氏はWindowsの成功は「ボース・アインシュタイン凝縮」が完了した結果であり、科学的に正しいことをしたからWindows3.0が成功したと記しています。

Windowsは、実は3.0までは失敗の連続でした。
Windows1.0は無残なOSで、99ドルで投げ売られました。

1986年、実にMacintoshに2年遅れてリリースされたWindows1.0は、実際には役立たずでした。

本格的なワークステーションにも使われる32ビットプロセッサを搭載したMacintoshに対し、非力な16ビットプロセッサで動作するWindows1.0は物足りなさを与えました。

さらに、ウィンドウの複雑な重ね合わせ処理を嫌ったため、ウィンドウが増えると画面が分割される、タイリングウィンドウという方式だったのも物足りなさを感じさせました。今思えば、Windows8以降のスプリットウィンドウはWindows1.0のタイリングウィンドウを彷彿とさせます。

それでもめげないビル・ゲイツはWindows2.0を発売。やっとオーバーラッピングウィンドウを搭載したWindows2.0を発売。しかしこれも鳴かず飛ばずです。

皮肉なことに、Macintosh用にマイクロソフトがリリースしていた表計算ソフトのMicrosoft Excelはバカ受けでした。ところがWindowsではまだ売れません。そこでMicrosoftはワードプロセッサのMicrosoft Wordを開発し、Windows3.0を売り込むことにします。

このとき、主に使われたのはWindows2.0を使っているユーザーたちでした。

この頃、わざわざWindows2.0を使っているのはギークと呼ばれるマニアックなユーザーが多く、マイクロソフトは彼らにねらいを定めたのです。

Windows3.0のベータバージョンをWindows2.0のユーザーに無償配布し、口コミで「これはすごい」と広めさせたのです。

当時のマイクロソフトでは、ギークを一人連れてくると、そのギークが100人のユーザーを連れてくると言われていました。

この仕掛けは大当たりし、Windows3.0の登場によって、Windowsは完全な成功を収めたのです。

最近でもWindows10では、マイクロソフトではベータバージョンにはフォーラム機能を搭載していました。

これはユーザーによる匿名掲示板で、ユーザーは誰でも思い切りWindows10のベータバージョンに対して文句を言うことができました。

さらに、ベータバージョンではユーザーを二つのグループにわけてA/Bテストもしていました。

ある機能を入れると重くなるけど見た目がカッコよくなる、それをいれたバージョンと入れてないバージョンをグループ分けしたユーザーに配布し、パフォーマンスの低下と画質の向上のトレードオフがユーザーに受け入れられるか否かをテストしたりしています。

匿名にすることによってユーザーは自分の立場や品位が汚れるのを恐れることなく、率直な感想を述べることができ、マイクロソフトの開発チームは飾り気のない、本当のユーザーの生の声に耳をかたむけることができました。

この仕組みはうまく機能し、Windwos10のベータバージョンを使っていたギークなユーザーたちはマイクロソフトをより近い存在と感じ、今年のマイクロソフトの開発者向けイベント.Build2015はかつてないほど盛り上がりました。

このように、今やOSやソフトウェアプラットフォームの開発に一般ユーザーを参加させるという手法は市民権を得ている感じがします。

この手法は、コミュニティから生まれるソフトウェア、たとえばオープンソースソフトウェアのようなものでも顕著です。

AndroidやWebKitなどもそうしたオープンソースコミュニティの賜物です。

日本の企業では開発の初期段階からユーザーに情報を公開するなんてとんでもないと考えられるかもしれませんが、今やこれが世界の主流になっているのです。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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