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2015年4月22日に、日本の首相官邸にドローンが落下し、中から放射性物質が見つかったことは、世界のいろいろな国に衝撃を与えた。CNNなど世界的なメディアでも大きく報道され、シンガポールでも多くのメディアが伝えている。

わかりやすいシンガポールのドローンルール

ちょうどその事件の2日前、シンガポールの各家庭に、IDA(Infocomm Development Authority 情報通信局で、経産省と総務省のような役割)からドローンの活用についてハンドブックが配られた。「やっていいこと」と「わるいこと」がシンプルな絵で描かれたわかりやすいものだ。ハンドブックはここからダウンロードできる。(PDFへのリンクがページ内に2つあるうち、下のSafe and Responsible Operation of Unmanned Aircraft (for recreational uses not requiring a permit)とあるほう)

▼やっていいこと
20160129-drone-rule-cando

▼やっていけないこと
20160129-drone-rule-dont

やっていいことは、届け出も何も要らない。これによると、重量7kgまでのドローンは、見通しがよい場所で、有視界で飛ばすなら、勝手にやってかまわない。

たくさんの人の上、車の運行、上からものを落とすなどはダメ。軍事施設や空港の5km圏内もダメ。非常にわかりやすいルールである。

柔軟なドローンに関する行政

このハンドブックが発表されてからしばらくした5月14日、シンガポールでもドローン(自動操縦される飛行物体)についてのルールが発表された。

当時のシンガポールでは、すでに20件ほどドローンの事故が報告されていて、研究やサービス開発などでドローンの利用が進むにつれ、事故の件数も増えていた。もっとも影響が大きかったのは、MRT(列車、これも自動運転されている)の線路にドローンが落下して、運行に支障が出た事件だ。

イベント等で空に飛ぶものを使う場合、たとえば花火から風船を飛ばすことまで、CAAS(Civil Aviation Authority of Singapore、飛行物体管理局のような意味)に事前申請のフォームがあるのだが、そこにドローンが追加された。CAASが、たとえばシンガポールF1がある数日はそのエリアのドローンを管理して、撮影用に許可されたもの以外は飛行禁止にする、などの措置をとる。

重ねて、「既存の法律はちゃんと守ろう」という告知もされている。たとえば無線通信に関する法律などだ。多くの輸入品があるフリーポートのシンガポールだけに、怪しい機器はいっぱい入ってきているけれど、おおっぴらには使えない。

「扱いとしてはイベントで飛ばす風船とかと同じようなものだよね」という認識はうまい。大きさにしても飛ぶ高度などにしても、ドローンと飛行機を一緒にして考えるのはちょっと遠いように思う。

様々なシンガポールのドローン活用

2016年1月、プログラミングで編隊飛行するドローンが、空に花火を描くパフォーマンスが行われた。プロジェクトのとりまとめは政府系ファンドテマセクが出資して作っているテマセク・ラボ、開発はシンガポールの工業系大学である南洋工科大・SUTD(Singapore University Technology and Design)そしてシンガポール国立大学。特別協力としてシンガポール軍もクレジットに入っている、まさに国策プロジェクトといえる。

▼空に絵を描くドローン

 

このプロジェクトは、以前触れた The Future of Us展の関連企画で、いわば国の未来を見せるプロジェクトだ。イベントでは夕方ゆっくり川沿いを歩いている多くの人が、ドローンに喝采を送っていた。なんとなく「いいものだなぁ」という印象は残ったと思う。

花火も、今いきなり花火とまったく無縁の国で始めたら、怖がられるかもしれないし反対運動とかも起こるかもしれない。普通の人がゆっくりと新しいテクノロジーに触れていくのはいいことだ。

シンガポールのテクノロジーに関する考え方は、こういうところにも表れているように感じる。

告知:
2016年1月末に、一部はこの連載でも扱ったような、アジアのメイカー事情を、山形浩生さんや江渡浩一郎さんなどと、いろいろな寄稿を集めてまとめた書籍「メイカーズのエコシステム」が出ます。ご興味ある方はぜひ。

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高須 正和(たかす・まさかず)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、メイカーズのエコシステムという書籍に活動がまとまっています。ほか連載など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264