北朝鮮でプリペイドSIMを購入する・2015年版 -koryolinkのプリペイドSIMは 約1万円に
To use koryolink Prepaid SIM Card in DPRK – It costs 8,400 KPW
2016.02.02
Updated by Kazuteru Tamura on February 2, 2016, 12:16 pm JST
To use koryolink Prepaid SIM Card in DPRK – It costs 8,400 KPW
2016.02.02
Updated by Kazuteru Tamura on February 2, 2016, 12:16 pm JST
2015年9月、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)を訪問して北朝鮮の移動体通信事業者でサービスブランドをkoryolinkとして展開するCHEO Technology JV Company (以下、CHEO Technology)のプリペイドSIMカードを購入した。CHEO TechnologyのプリペイドSIMカードは2013年12月にも購入しているが、プランが大きく変わっていた。そこで、今回は新しいプランやプランを変更した背景などを紹介する。なお、CHEO Technologyはサービスブランドのkoryolinkで一般的に知られているため、以下からkoryolinkと表記する。
北朝鮮を訪問する外国人はkoryolinkのプリペイドSIMカードを購入できる。北朝鮮では外国人によるスマートフォンを含めた携帯電話の持ち込みが長らく禁止されていたが、2013年1月7日に携帯電話の持ち込みを解禁するとともに、外国人を対象にプリペイドSIMカードを販売開始した。
外国人による携帯電話の持ち込みを禁じていた時代は、出入国が同じ場所であれば税関に携帯電話を預け、出入国が異なる場所であれば携帯電話を袋に密封して出国まで開封厳禁としていた。外国人による携帯電話の持ち込みを解禁し、プリペイドSIMカードまで発売したことは日本を含めた世界各国のメディアが報じて話題となった。
当初、外国人向けのプリペイドSIMカードは主に平壌国際空港の第1ターミナルで販売していた。税関を通過してすぐの位置にkoryolinkのブースを設置し、平壌国際空港から入国する外国人は誰もが気づく位置となっていた。また、空港以外ではINTERNATIONAL COMMUNICATION CENTRE (以下、ICC)に入居するkoryolink Sales & Customer Service Centerでも外国人によるプリペイドSIMカードの購入が許可されていた。
2015年7月1日に平壌国際空港の第2ターミナルの運用開始に伴い、すべての国際線は第2ターミナルを使うことになった。ところが、第2ターミナルにはkoryolinkのブースを設置しておらず、平壌国際空港では外国人向けプリペイドSIMカードの購入が不可となった。そのため、基本的に平壌ではICCのkoryolink Sales & Customer Service Centerで購入することになる。なお、ICCが工事中で立入禁止となっていた期間中は、ホテルなどにkoryolinkの仮設ブースを設けて販売していた。
▼koryolink Sales & Customer Service Center が入居するINTERNATIONAL COMMUNICATION CENTREの建物。
外国人がプリペイドSIMカードを購入する際には身分証明書としてパスポートの提示が必要である。北朝鮮への入国にTOURIST CARDを取得している場合は、TOURIST CARDの提示を求められることもある。
駐朝外国人など一部の外国人を除いて北朝鮮に滞在する外国人には原則として2名の指導員が同伴し、パスポートなどは指導員が管理する決まりとなっている。そのため、北朝鮮到着後はパスポート、TOURIST CARD、(航空機で出国する場合は)eチケットの控えを指導員に預ける必要がある。プリペイドSIMカードを買いに行く前にはパスポートなどを忘れず持参してくれるように指導員に伝えておく方が無難だ。特に高麗航空(AIR KORYO)の航空機で出国する場合はリコンファームのためにパスポートなどを指導員が高麗航空のオフィスに預けていることがあるので、注意が必要だ。
なお、筆者がプリペイドSIMカードを買いに行った際には、指導員が高麗航空のオフィスにパスポートなどを預けていることを忘れており、koryolink Sales & Customer Service Centerに着いてからタクシーで高麗航空のオフィスまでパスポートなどを受け取りに行き、koryolink Sales & Customer Service Centerに戻ることになった。2名の指導員のうち1名は以前に筆者がプリペイドSIMカードやスマートフォンを購入する際に同伴してくれたが、訪朝する日本人が少ない上にプリペイドSIMカードを買う日本人は更に少ないため、パスポートなどが必要であることを忘れていたという。
▼パスポートなどが預けられていた高麗航空のオフィス。
▼高麗航空が運営するタクシーで移動した。後ろの建物がINTERNATIONAL COMMUNICATION CENTRE。
外国人向けにプリペイドSIMカードを販売開始した当初は、3種類の料金プランを用意していた。3種類のプランのうち最も有効期間が短いプランは14日間であったが、北朝鮮を訪れる外国人観光客は1週間以内の滞在が多いことを受けて、2013年中に7日間の割安なプランを追加した。しかし、2015年9月の訪朝では有効期間が1ヶ月間のプランのみとなっており、滞在期間は1週間未満であったものの1ヶ月間のプランを購入することになった。プランの詳細は表を参考にしていただきたい。
プランには大きな変更があったものの、データ通信の利用が許可されていないことや、外国人向けの契約と北朝鮮人向けの契約では相互に電話をかけることはできず国際電話専用となることは変わっていない。なお、外交や商用などで北朝鮮に長期滞在する外国人にはインターネットの利用が許可されることがある。
通信方式および周波数はW-CDMA方式の2.1GHz帯(Band I)で、3Gサービスとして展開している。プリペイドSIMカードを購入するのであれば利用する携帯電話がW-CDMA方式の2.1GHz帯に対応し、SIMロックフリーであることを確認しておきたい。
SIMカードのサイズはMini SIM (2FF)サイズのみを用意しており、Micro SIM (3FF)サイズやNano SIM (4FF)サイズの携帯電話で利用する場合はSIMカードのプラスチック部分を切断することになる。
旧プラン
※1 後から追加されたプランで、プラン名は用意されていない。
新プラン
※2 プランは1種類のみで、プラン名は用意されていない。
旧プランの料金表はユーロで表記されており、支払いもユーロが望ましいとされていたが、新プランは北朝鮮ウォンで表記されており、北朝鮮が提示するレートで換算した外貨での支払いとなる。筆者の訪朝時点(2015年10月)で北朝鮮側が示していたレートは1円=0.856北朝鮮ウォン、1ユーロ=119.87北朝鮮ウォン、1中国人民元=16.60北朝鮮ウォンであった。小数点以下は切り上げで計算すると、1週間以内の滞在であれば旧プランにある7日間のプランでは約4,202円で済むところが、新プランでは約9,814円となってしまった。なお、筆者はプリペイドSIMカード以外に840北朝鮮ウォンのチャージカードを2枚と12,950北朝鮮ウォンのスマートフォンを購入した。
中国経由の訪朝で中国人民元の現金を所有していたため、中国人民元の現金での支払いを希望すると1,388人民元となった。小額の日本円は好まれず、切り上げや釣銭がユーロ、中国人民元、米ドルとなることもあり、指導員は中国人民元を用意する方が無難と説明していた。なお、朝鮮貿易銀行が発行する電子決済カードであるNaraeも利用できる。前回紹介したとおり、Naraeは日本円で購入可能だ。
koryolink Sales & Customer Service Centerではサービスの利用を申し込むために、一般カウンターで申込書に必要事項を記入し、利用する携帯電話やパスポートなどと一緒に提出する。IMEIホワイトリスト制度を採用しており、利用する携帯電話をカウンターに預けてIMEIを登録する必要がある。しばらくすると伝票が渡されるため、支払い専用のカウンターに伝票を持って行って支払うことになる。決済通貨は支払い専用のカウンターで伝えれば問題ない。
必要であれば支払い専用のカウンターでインボイスを発行できる。北朝鮮では入国時に税関で持ち込む携帯電話の機種名が控えられており、出国時にトラブルを防ぐためにも指導員はインボイスの発行を推奨していた。支払いを終えれば一般カウンターに戻ってプリペイドSIMカードを挿入した携帯電話やパスポートなどを受け取る流れとなる。
▼koryolink Sales & Customer Service Centerには販売中のスマートフォンなどを展示していた。また、季節に関係なくクリスマスツリーが飾られていた。
▼koryolink Sales & Customer Service Centerの内部。一般カウンターが並んでいる。
▼koryolink Sales & Customer Service Centerの支払い専用カウンター。
▼koryolinkの申込書。裏面には約款が記載されている。
▼プリペイドSIMカード、チャージカード、スマートフォンを購入時に発行したインボイス。
筆者がプリペイドSIMカードと一緒に購入したスマートフォンはPyongyang 2404で、受け取ったPyongyang 2404を確認するとkoryolinkからメッセージを受信していた。有効期間は1ヶ月で初期残高は1,400北朝鮮ウォン分となっていたが、自動的に音声通話のパッケージに加入していた。音声通話のパッケージが800北朝鮮ウォン分で、1,400北朝鮮ウォン分から800北朝鮮ウォン分を差し引いた600北朝鮮ウォン分が実質的な初期残高となっていた。音声通話のパッケージ分を消費すれば、残高から引仕組みとしている。
チャージカードは筆者の訪朝時点では840北朝鮮ウォンと1,500北朝鮮ウォンの2種類であったが、チャージカードの金額の種類はしばしば変更されるという。チャージカードの販売額がそのままチャージされることになり、840北朝鮮ウォン分を2回、合計1,680北朝鮮ウォン分をチャージして利用開始時の残高は2,280北朝鮮ウォン分となった。
チャージ回数に応じて有効期限が延びており、初期の期限は購入から1ヶ月後となる2015年10月21日であったが、1度目のチャージで2018年5月9日に、2度目のチャージで2020年10月25日まで有効期限が延びた。チャージの方法はダイヤル画面で*909*14桁の番号#を押下して発信するか、919に発信して音声ガイダンスに従ってチャージする。14桁の番号はチャージカードに記載されており、スクラッチ印刷の部分をコインなどで削って確認する。残高や有効期限は919に発信して確認することが可能で、koryolink Customer Serviceでの対応が必要であれば999に発信する。
北朝鮮からは日本と香港の電話番号に国際電話を発信した。日本の電話番号に発信すると着信側では発信元の電話番号が通知不可能と表示されるが、それ以外は問題なく国際電話を利用できた。香港の電話番号から着信を受けることもできた。なお、北朝鮮以外の国から国際電話を発信した際にも通知不可能となることがあり、通知不可能となる事象は北朝鮮からの発信に限ったものではない。
国際電話の料金は発信先の国や地域で異なっており、詳細な料金は公開されていなかったが、日本の電話番号に発信して1回あたり29秒と1分15秒の通話を行ってから、香港の電話番号に発信した通話が6分を経過したところで残高不足となり自動的に切断された。残高不足でも着信を受けることはできた。
平壌地下鉄の駅構内や駅間は圏外となったものの、それ以外の平壌市内の屋内外や平壌と南浦を結ぶ高速道路などはエリアが整備されており、問題なく使うことができた。また、IMEIを登録していないスマートフォンにプリペイドSIMカードを挿入したところ利用できず、IMEIホワイトリスト制度を継続していることも確認できた。
▼筆者が購入したPyongyang 2404。OSにはAndroidを採用している。
▼koryolinkのプリペイドSIMカード。
▼koryolinkの840北朝鮮ウォン分のチャージカード。
平壌国際空港でプリペイドSIMカードの購入が不可となり、また安価なプランが廃止されたが、koryolinkの担当者によると短期滞在の外国人はあまりプリペイドSIMカードを購入しないことが主要な理由とのことである。
北朝鮮のホテルで出会った北朝鮮旅行を手掛ける中国の旅行会社の関係者に外国人観光客のプリペイドSIMカードの利用状況を聞いたところ、顧客に購入は推奨していないそうだ。国際電話はホテルで利用可能であり、スマートフォンを機内モードに設定すれば電池の消費を抑えつつカメラやゲームを楽しめると案内しているという。2013年に外貨獲得を狙って外国人向けSIMカードの販売を解禁したものの、思惑がはずれた格好となっているようだ。
国を挙げて観光事業に注力する北朝鮮は娯楽施設の整備を進めるなど外国人観光客の誘致に積極的である。世界ではSNSなど様々なスマートフォン向けサービスが普及しており、北朝鮮滞在中もそれらのサービスを使うことができれば外国人観光客としては嬉しいはずである。
過去にkoryolinkは外国人観光客にデータ通信の利用を一時的に解禁したり、安価なプランを追加したり、需要に応じたサービスを提供しようとする姿勢は垣間見える。外国人観光客の受け入れを促進するためにも、安価なプランの復活やデータ通信の解禁など、外国人にとって携帯電話をより使いやすい環境が整備されることに期待したい。また、平壌国際空港の第2ターミナルは拡張工事を進めており、平壌国際空港にkoryolinkのブースが戻ってくることにも期待したい。
▼新たに運用を開始した平壌国際空港の第2ターミナル。更に拡大する計画である。
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登録はこちら滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。