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シェアリングエコノミーとスキーバス事故の共通点

Common things between the sharing economy and the ski bus crash

2016.02.04

Updated by Mayumi Tanimoto on February 4, 2016, 08:05 am UTC

シェアリングエコノミーの希望と呼ばれているUberですが、最近、ヨーロッパでは評判が芳しくありません。料金の高いタクシー業界に風穴を開けた素晴らしい会社だ、と賞賛される一方で、批判の声も多くあります。

その批判の理由の一つは、他のシェアリングエコノミーの会社と同じく、Uberは、労働法や業界の規制の灰色な部分を「悪用」して、働く人を搾取し、リスクは働く人や顧客に押し付けて、中間搾取で儲けているだけだ、というものです。

つまり、自社はテクノロジー企業だという理由をつけて、一般的なビジネスであれば従わなければならない法令を無視し、従業員に提供されるべき訓練や保護、顧客の保護、品質を保つための仕組みなどを排除して、リスクとコストを、すべてフリーランサーに丸投げしているというにすぎないというわけです。

働く人にリスクやコストを丸投げする、という点で、偽装請負の従業員を酷使して中間搾取しているブラック企業となんら変わりません。

Uberは最低賃金を保障しておらず、運転手に対して、ほぼなんの権利も保障していません。実質的にはフルタイムに近い状態で働いている人がいるにもかかわらず、Uberにとって、運転手は「パートナー」(協同経営者)なので、従業員ではない、というのが言い分です。

イギリスのドライバーは、Uberは雇用法で保障されている給料に関する基本的な権利、休暇、健康と安全管理義務に従うべきと主張しています。

イギリスのタクシーはUberよりも割高ですが、その理由は、地元政府より営業免許を受ける必要があるからです。運転手は安全衛生義務に従う必要がありますし、車両も一定の水準に達していなければなりません。しかしこういう規制は「顧客を守るため」に存在していることを理解する必要があります。

イギリスのタクシーは、17世紀に登場します。当初は馬車を持っていた紳士階級が、維持費を減らしたいために他の人にも馬車を提供したことから始まります。古くなった馬車を購入した人々が乗合馬車を始め、馬車は電気自動車へと変わります。しかし当時のタクシーは、車両の質や清潔度がマチマチだったり、運転手がどんな人間化わからない、運転手が乗客に強盗されることもあるなど、決して安全な乗り物ではありませんでした。

そこでタクシー業界は規制されるようになります。これは海を超えたアメリカや大陸ヨーロッパでも同じでした。

ロンドンの場合は、タクシーにはブラックキャブとミニキャブがあります。前者は規制がより厳しく、後者は若干緩いが値段が安い、のが特徴です。

ブラックキャブの運転手になるためには「the knowledge」という試験に合格する必要があります。この試験、世界一難しいタクシー運転手の試験と呼ばれています。

ロンドン市内を流す「Green Badge」運転手の場合、 Charing Cross から6マイル半径の、320 のルート、25,000の通り、 20,000 の目印や有名な場所を覚えて、筆記試験と口頭試験を受けます。口頭試験では、行き先をパッといわれて、その場で、経路を詳しく答えられなければなりません。

私の仕事仲間のお父さんは、雑貨屋を経営していましたが、商売がなかなかうまくいかないので、50代でタクシー運転手に転職するために、三年間毎日勉強して、やっと合格しました。「the knowledge」の受験には受験予備校があります。仕事の傍ら予備校に通って、先生や受講者とロンドンの地図を片手に道をせっせと暗記します。そしてロンドン中をバイクや自転車で走り回って目印や道の「感じ」を覚えます。試験には筆記と一対一の口頭試験があります。口頭試験では正しい経路だけではなく、正確な通りの名前、Uターンできないところや進入禁止の場所まで聞かれます。

この様な厳しい試験が存在するので、ブラックキャブの運転手には、通常、有名な場所の名前や住所だけ言えば、あとは何も説明せずにその場に到着します。一見無愛想ですが、通りの名前をちょっと言えば最短距離で目的地に行ってくれるので、スマホの電池切れで行き先の乗った地図を見せることができなくなる心配をする必要がありません。スマホのナビが故障したり、システムがダウンしても心配する必要がありません。

車椅子やベビーカーをそのまま載せられる車両が「標準」なので、子連れ移動も全く心配上がりません。ベビーカーを乗せて、さらにスーツケースを2つ載せても大人が余裕で座る広さがあります。何も言わなくても運転手が助けてくれます。

Uberの運転手は国籍も様々、運転歴も様々なので、いくらナビがあるとはいっても、その質は様々で、普段ブラックキャブに慣れている人からすると「これ安いけど一体何??」と怒ってしまう人もいるようです。車椅子やベビーカーがそのまま乗れる車両は多くはありません。

イギリスでタクシー運転手になるには、顧客の安全性を保つために、犯罪歴、健康状態、運転経歴の審査を通過する必要があります。犯罪歴のチェックは、政府によるDisclosure and Barring Service (DBS)を通して、犯罪歴がないことを証明しなければなりません。

医療関係の仕事、フィジオセラピーなど他人の体を触る仕事、アルコール中毒者の相談に乗るボランティア、介護の仕事、子供を対象としたボランティア、に従事する人は、取得が義務になっている証明書で、その審査は、かなり厳密です。

ボランティアにまでこんな審査が必要なのかと驚かれるかもしれませんが、法律で義務になっている理由は、子供対象のボランティア団体で性的虐待をしたり、殺人を犯した人がいたからです。また、フィジオセラピーなど人の体を触る仕事の場合、お客さんに危害を加える人がいないとも限らないので、こういう制度があります。

ロンドンのように多様な人が住む都市には、様々な国からやってくる移民も働いています。EU国籍者の場合、住むにも働くにもなんの許可も必要ないので、入国時に犯罪歴などのスクリーニングが一切ありません。EUの運転免許はそのまま有効です。汚職が蔓延している国や、警察が機能していない国出身の場合だと、賄賂で運転免許を取れてしまう場合もあります。Uberはタクシーに比べたら審査がほとんどないので、そういう人がドライバーになる可能性もあるわけです。

制度の運営には、政府側の手間もコストもかかりますし、証明書を取得する人のコストもかかります。しかし、スクリーニングがあったほうが、サービス提供する側も、お客さん側も安心です。どこの誰かわからない人でも、政府が調査を行って、身元を保証することで、仕事をしやすくする制度になっています。

イギリスのタクシー運転手は、政府の安全健康管理法に従う必要があります。この法律は、タクシー運転手だけではなく、他の業界やオフィスワーカーにも適用されるもので、連続勤務できる時間、休暇の取り方、安全対策などが決められています。そういう「コスト」がタクシー料金に反映されます。運転手を守ろうとするとコストが高くなるのは仕方ありませんが、安全が保証されるというお客さんにとってのメリットも大きいのです。

アメリカやイギリスで指摘されている別の問題は、ドライバーと車両の保険です。タクシーやピザ配達のバイクには商業用保険がかけられていますが、Uberの場合、ドライバーは商業用保険をかけているわけではありません。Uberの運転手が事故を起こした場合の保障はどうなるのかはグレーです。さらに、「どこからどこまでがUber経由の『商業行為』になるのかもグレーです。

大半の場合、事故が起きた場合の責任は、運転手が負います。お客さんが怪我をした場合、その保証はどうなるのか、今のところはっきりしていません。ドライバーが事故を起こさないという保証は一切ないのです。さらに、ドライバーがお客さんから暴力を振るわれた場合、強盗にあった場合も対処はすべて自己責任です。車は密室なので、刃物やガスで恐れわた場合逃げようがありません。ブラックキャブだと乗客の席と運転手の席は分厚い板で仕切られていて、いきなり刺されないようになっています。しかし一般の自家用車を使用するUberのドライバーの車にはこういう設備はありません。

The Licensed Taxi Drivers Association (LTDA)の事務総長であるSteve McNamara氏の意見は単刀直入です。

「Uberの運転手は、適切な審査を受けていないし、発展途上国から来た移民もいるため危険です。発展途上国や、リトアニアやルーマニアの様なインチキ臭い東ヨーロッパは、政府がロクでもない。仕組みや事務の質が低いし、汚職だらけです。それらの国は全部汚職がひどいからです。イギリスの基準での審査をやることを、他の誰かに任せることはできません。女性には特に危険です。なぜUberの車に乗るんですか?まるでサメだらけの海に飛び込む様なものですよ」

サンフランシスコでも、タクシー業界がUberの「業界で最も安全」という広告は、誇大広告ではなく詐欺である、という訴訟を起こしています

Uberと同じくカーシェアリングサービスを展開するLyftにはアメリカで集団訴訟が起こされていましたが、先週の和解では、ドライバーは従業員だとされませんでしたが、ドライバー側には1200万ドルの和解金が支払われることになりました。

Uberに対しては20以上の集団訴訟が起こされており、全部で16万人ものドライバーが雇用関係に関する訴えを起こしていますが、Uber側は訴訟を継続する意向です。

タクシーの歴史を鑑みると、Uberは革新を起こしているわけではなく、乗り合い馬車の時代に逆行しているだけなのではないかという気がします。

日本で起こったスキーバス事故は、バス業界の規制緩和が原因だったという意見もあります。私個人は、規制が厳しいままであったら、あんな悲惨な事故は起こらなかったのではないかと思っています。

規制緩和がもたらしたのは、未経験のドライバーの無理な運転、儲け主義の経営者による無理な経営、そして、多くの犠牲者でした。規制緩和のお題目は、市場の活性化、でしたが、その実態は、低価格、低レベルなサービスが増えただけで、働く人が搾取される仕組みが強化されたけでした。

シェアリングエコノミーの利点だけを叫ぶ人達、規制緩和は良いことをもたらすだけだと無責任な意見を撒き散らすブロガーには、今一度、歴史を学び直して欲しい気がするのです。

 

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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