エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏

エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏(後編):IoTは企業の業績に直結する効果をもたらしてこそ普及する

日本のIoTを変える99人【File.012】

2016.02.24

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 2月 24, 2016, 07:30 am JST

今ある「不便」を解決し、誰でも使える「ユーザブルIoT」が必要と説くエスキュービズム・テクノロジー代表取締役社長の武下真典氏(前編参照)。コンシューマーとしては「不便」が「便利」になればハッピーだが、一方でサービスや製品を提供する企業や事業体にとっては、そこから利潤が生まれなければユーザブルIoTの普及は進まない。ビジネスとしてユーザブルIoTを展開するためには、どのような視点が必要と考えているか、武下氏に尋ねた。

エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏

武下真典(たけした・まさのり)氏
2008年にエスキュービズム入社。2014年に、Eコマースの開発、店舗タブレットソリューションの「EC-Orangeシリーズ」を軸に事業を展開するエスキュービズム・テクノロジーを設立し、代表取締役に就任。現在、同社はオムニチャネル/タブレット/IoTという3つのソリューションを柱に事業を展開。「小売りのミライをカタチにする」というミッションを掲げ、これまで1000社以上の小売業支援実績があるほか、最近ではIoT分野で積極的にソリューションを展開している。

近年、様々なIoTのソリューションが紹介されています。見守りロボットや工場のセンシングなど、その形態は多様ですが、果たして利用されているかというと疑問があります。それは、導入する企業の視点で考えればわかることです。「IoTって、ぶっちゃけ儲かるの?」なんです。

例えば、飲食店の売上がIoTの導入で2割上がったというような事例があれば、IoTは一気に普及するでしょう。でもそこまでは至っていないのが現状です。唯一、コマツが導入している建設機械情報の遠隔確認システム「KOMTRAX」がコストダウンにつながっている成功事例かもしれないですね。そうした状況ですから、エスキュービズム・テクノロジーでは、「IoTって儲かるの?」という基本的なユーザーの疑問を意識していきたいと思っています。

アイデアはお客さまから

「儲かるの?」という視点でIoTを考えるには、1つは自分のこととしてソリューションを捉えることが必要です。自分が不便だと思っていることが便利になれば、そのサービスは顧客に利用される可能性が高いわけです。宅配便の不在配達票がポストに投函されていて、そこから再配達を依頼する電話をかけるという行動は、自分では考えたくありません。ヤマト運輸が提供を始めた「LINEに不在配達の通知が来て、そこからアクションすればすぐに品物を手にできる」ようなサービスがほしいわけです。私は「我慢出来ない派」なので、他社がサービスを提供してくれるのを待っていられず、ソリューションを自分たちで作っちゃえ!となるのですけれど(笑)。

もう1つは、お客さまと話をしてアイデアを得ることが大切だということでしょう。Eコマースやオムニチャネルのソリューションを提供していると、お客さまと話をする機会が多くあります。エスキュービズム・テクノロジーではタブレットを使ったレジのシステム「EC-Orange」を提供しています。レジというのは、利用者がお財布からお金を出す現場です。そこで少しずつ利益を上げているわけです。そんな現場で、「性能の良いセンサーを導入しませんか?」と提案されても、企業としては困るわけです。それよりも、忙しい時にはお客さんが来店を遠慮してくれて、暇になったらお客さんを呼び込んでくれるシステムがあれば、機会損失は減り利益につながります。IoTはそういうところで役に立つ必要があると思います。

要するに、コンシューマーの視線で見る「不便」と、企業の視線の「コスト削減」や「収益増加」の交点に、IoTのソリューションすなわち「解」があると考えています。私にとっては、自分の体験とお客さまのニーズの交差するところですね。そこで商品を作っていこうと考えています。

B2Bのソリューションですから、提供側の「B」の企業が儲かる必要があります。最終的にはコンシューマーが利用する「B2B2C」とも言えます。しかし、コンシューマーがITを意識しなくて済むようなIoTソリューションを作るには、B2B2Cの方向で商品開発をしてもダメなのではないでしょうか。コンシューマーを起点にした「C2B2B」といった逆の流れの商品開発が必要だと感じています。コンシューマーは、潜在的であれ顕在的であれ世の中の不便を感じながら生活しています。それをIoTが解決していけば、すべての人が幸せになるのです。

iPhoneが登場する前に、「iPhoneを欲しい」と思う人はいなかったはずです。iPhoneが出てきてその便利さを知ったからこそ、「iPhoneを欲しい」と思うようになったのです。IoTでも同じだと思います。まだIoTによる「便利さ」を知らないからコンシューマーはIoTを欲しいと言わないだけです。便利さを知ってもらう部分を私たちは試してみているのです。そこには、「誰のどんな不便を解消したら、それでいくら儲かるの?」という視点が必要なことは言うまでもありません。

IoTはビッグデータがなくてもいい

エスキュービズム・テクノロジー 代表取締役社長 武下真典氏

IoTを語るときに、どうもM2Mやビッグデータの潮流を汲んだ議論が多いように感じています。工場で人の動きを最適化したり、トラブルの予兆を診断したりするには、ビッグデータ解析が有効かもしれません。しかし、世の中の多くの企業はビッグデータを使いこなせていないと感じていますし、そもそも使いこなす意味がない企業も多いのではないでしょうか。

「近くで運動会をやっているときに、おにぎりが売れる」というコンテキストは、消費者の購買行動と地域のつぶやきなどの情報をビッグデータ解析すると出てくることでしょう。しかし、そんなことはコンビニエンスストアの店長は知っているわけです。大手の企業ならばデータをたくさん持っていてビッグデータ活用の意義があるでしょうが、小売りや外食ではまだまだビッグデータは遠い概念だと思います。

小売りや外食といった業態でIoTの普及を推進するには、導入したらどのような効果があるのかを示すことが必要です。単純に言ってしまえば「費用対効果」の提示です。実際には、なかなか効果を証明するのが難しいところです。「クラウド」では、オンプレミスと比べて初期投資が少なく、一定のランニングコストにする固定費の変動化が可能というメリットを提示できました。しかしIoTはソフトウエアだけのソリューションではありません。モノに対する投資が必要になりますから、投資を何年で回収できるのかを提示する必要がありますが、そこにはまだ方程式がないのです。

方程式がない状況は、現在の「IoTソリューション」の状況を映し出しているとも言えます。ソリューションといいながら、現在はITを活用した「部品」が並んでいるだけです。センサーやロボット、クラウドサービスなどがあっても、それは「儲かるの?」といった問に対して合理的な説明になっていません。レジが専用端末からタブレットなどを使ったハンディ端末に変わったとき、導入費用は20万円から5万円といった具合に大きく下がりました。どう考えてもコスト削減につながる「方程式」が見えたからこそ、爆発的に普及しました。IoTでもそうした方程式が必要です。

そのためには、IoTを「新しいモノ」として考えるのではなく、「今まであるモノ」の延長線上に新しい価値をもたせたモノとして捉えると良いでしょう。既存ビジネスとIoTのハードの組み合わせという見え方かもしれませんし、見せかけはハードウエアだけれど価値は搭載されたソフトウエアだという見え方かもしれません。

コンシューマーを起点にソリューションを考えると、技術はあまり見えないほうが良さそうです。技術が世の中の先に行き過ぎてしまっているから、そこに乖離が生まれています。エスキュービズムでは、例えばIoT機器に「宅配ボックス」の皮をかぶせて商品を作っています。誰もが使い方がわかるモノに、使いやすさや便利さを付加するというところから、IoTのソリューションは成り立っていくのではないでしょうか。

構成:岩元直久

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