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赤堀 洋

ソフトバンク 法人事業開発本部長 赤堀 洋氏(後編):「見える化」への第一歩を踏み出し、エンドツーエンドのソリューションを考える必要性

日本のIoTを変える99人【File.004】

2015.11.06

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on November 6, 2015, 08:00 am JST

IoTではすべてのモノをつなぐことから始まると説くソフトバンクの赤堀 洋氏は、さらに「つなぐ」ための通信回線のコストやセキュリティの検討が求められると言う(前編参照)。そして、実際にIoTを活用するには、価値を生み出すソリューションを考えることが重要だと続ける。後編では、ソフトバンクが考えるIoTのソリューション提供の姿を浮き彫りにする。

赤堀 洋

赤堀 洋(あかぼり・ひろし)
ソフトバンク 法人事業開発本部長。IoT /M2Mはじめ、法人向けモバイル・ソリューション事業やデジタルマーケティング事業など、主にB to Bの新規事業開発を担当する。最近では、ホンダの車車間通信端末「V2Xユニット」の共同開発や、GEとの協業によるインダストリアル・インターネット「Predix」事業、法人向けロボティクス(Pepper for BIZ)事業、アリババとのインバウンド協業などさまざまな新規事業開発案件に伴うパートナーシップ・アライアンス、プロジェクト推進などの陣頭指揮を取る。1992年明治大学卒業後、サッポロビールからショップチャンネルを経て、2004年ソフトバンクBB(現・ソフトバンク)へ。

通信事業者がIoTのソリューションにどのように向かい合っていくかですが、ソフトバンクとしてはサービスやプラットフォームまでお客さまである企業に提供できる立場でありたいと考えています。通信事業者ですからコアビジネスとしての通信があり、その上に乗るサービスも含めて提供していくということです。

例えば自動車メーカーがお客さまの場合、IoTのソリューションのうちでもクルマの制御系データの管理はメーカー自身が手掛けるでしょう。一方で、ナビゲーションのような情報活用や音楽などのエンタテインメントを含めた「インフォテイメント」と呼ばれる部分はサービス部分まで含めてソフトバンクが提供できると考えています。自動車メーカーが提供したいサービスを一緒になって実現できる立場にありたいわけです。テレマティックスのサービスプロバイダーという位置付けですね。サービス部門、プラットフォーム部門を担うプロバイダーというわけです。

アウトソーシングをトータルで請け負えるようにパートナーと協業

B to BやB to B to Cのお客さまが、IoTのソリューションをすべて自分たちで作り上げられるかというと、なかなか難しいものがあるでしょう。M2Mソリューションでこれまでにソフトバンクがお付き合いしている企業の中でも、一部の企業は自前でソリューションまで構築できる力を持っています。しかし、これからIoTを自社のサービスに取り込んでいこうというような企業の場合、インフラやサービスを構築できる事業者にアウトソーシングするケースは多いでしょう。特にIoTの場合は自前で作るよりも、外部に委託したほうがコスト面でもスピード面でも有利だと考えている企業が増えていると感じています。

そうなると、単に機器と回線を提供するというレガシーな通信ビジネスでは成立しません。どんなサービスを作るために、何をどのようにネットワーク上に配置し、どの部分をクラウド化するのか。そうしたコンサルティングが求められます。ソフトバンクは、IoTではコンサルティングをビジネスのコアとして提供していきたいと考えています。その際に、ソフトバンクの力やノウハウだけでなく、パートナー企業と一緒になってソリューションを提案、提供していきます。

ここ数年、グローバルのIT企業からベンチャーまで、世界中でIoTのプレーヤーが急増しています。その中には、優れた技術やサービスを持っているけれど、顧客となる企業との接点がないことでビジネスに生かしきれていない企業もたくさんあると感じています。そうした企業にとって、ソフトバンクとパートナーになって一緒にIoTビジネスを推進することは意味があるのではないでしょうか。ソフトバンクは、通信事業者として現在40 万社以上の法人のお客さまがあります。また認証基盤など通信以外の資産もあります。これらを活用して、新しいパートナー企業とサービスの価値を作り上げていきたいと考えています。

その1つの動きとして「SoftBank Innovation Program」があります。ソフトバンクが持つ通信事業者としてのリソースと、日本および世界中の企業が持つ技術やサービスを組み合わせることで、革新的なサービスを作り上げることが狙いです。ソフトバンクとパートナーになって、一緒にIoTのアイデアを具体的なビジネスにしていきませんかと提案しています。

今の日本のIoTに必要なことは、IoTのサービスをとことんテーラーメイドで構築することでしょう。お客さまの求めるソリューションは1つではありません。IoTのセンシングだけを見ても、お客さまごとに大きな違いがあります。課題をていねいに抽出し、IoTでできるソリューション、サービスを作り上げていくことが第一に求められるのです。まだ日本のIoTソリューションは、企業ごとの個別構築に近いものだと認識しています。企業ごと、業界ごとのソリューションを構築し、知見を積み重ねていくことで、業界に共通する領域が見えてきたら、それを生かしてSaaSのような形で安価にIoTサービスを提供できるようにしていきたいと考えています。

インフラや通信の規格、クラウドへのつなぎ込み方などは、どんどん共通化しないと競争に勝てないでしょう。一方で、実際のサービスレイヤーに近い部分は、個別のお客さまが何をしたいか、どこに課題があるかをそれぞれ見極める必要があります。サービスの提供というレイヤーでは、まだ標準化ができるとは考えていません。機器のセンシングすら出来ていないような段階で、標準化したSaaSを提案してもニーズにフィットしないわけです。標準を押し付けてしまったら、現段階ではIoTの推進を逆に阻害することにすらなってしまうと思います。まだ、サービスは個別構築的に作っていかなければならない段階で、それができないと競争に勝てないと感じています。

まず第一歩を踏み出すことが大切

IoTについて「ウチでもやってみたいけれど、どうやって実現したらいいのだろう」といった感覚の方が多いと思います。このままではダメだという危機感はあるものの、実際の行動には移せない段階です。

そこで必要なのは「まず見える化から」です。まだ日本の企業の多くは客観的なデータによる可視化ができていないのです。まず可視化することから一歩を踏み出さなければいけないのですが、実は結構それが出来ていない。見える化が出来ていない状況で、IoTでデータアナリティクスを入れて最適化しましょうと提案されても、そもそも現状をデータとして把握していないためにピンと来ないのです。そこで私たちは、プロセスを1つにつないでまず見える化してみませんか?と提案しています。目的を持ってセンシングして、見える化するという最初のステップが必要です。

例えば製造業で、「工場のラインのダウンタイムを最小限にしてコストを減らしたい」という普遍的な課題があります。しかし、どこから手を付けたらいいか、必ずしも多くの企業が共通認識を持っているとは言えません。理屈で言えば、「ライン上の機器のセンシングをして、動作を見える化して、稼働状況を監視することで故障の時期を予測し、ダウンタイムを最小化する」といった流れになるでしょう。そう言うのは簡単ですが、そもそも機器の稼働状況がどうなっているのか、まずはセンシングしてみなければわからないのです。

センシングして、見える化するところから始めてみませんかというのは、こういうことです。これは、全部つなげて何ができるかを考えてみませんかということに最後はつながるわけです。人間の動きだけでなく機器の動きもすべてデータで見える化をします。そこに自然な気づきが生まれれば、新しいソリューションやサービスが生まれます。どういうデータを集めたらいいのか、こうしたときにはどういうアラートを出したらいいのか。そうしたことが必ずわかってきます。

IoTは、ソリューションのパーツが取り上げられることが多いですが、センシングして分析して、蓄積した知見からフィードバックするという流れは、どれか1つだけが重要なのではなくて、エンドツーエンドで考えるべきものです。例えばIoTの導入で機器がセンシングによる見える化で効率化されるとします。そのとき、考えることはそこで止まってはいけません。機器が効率化されたら、人間の働き方も変わってくるはずです。そうするとジョブシフトに変革が必要になるかもしれません。エンドツーエンドで見ることで、例えばモノの効率化とヒトの効率化が同時に実現できるソリューションが得られるわけです。

紙の記録や人の経験からデジタル化したデータへ

日本の製造業ではQC活動などをはじめ、世界に誇る部分は多いと考えます。しかし、その品質管理は人間に依存している部分が多いのです。現実には人口の高齢化が進み、就労年齢も高くなっています。これは今後、製造現場でのノウハウを持っている人が減ることにつながりますし、製造拠点の多くは国内からアジアなど海外に移っています。人に頼ったマネジメントは限界に来ているのです。究極は完全なオートメーションでしょうが、そこに一足飛びに移行できるかというと、そうは簡単ではありません。機器はネットワークにつながっておらず、そもそもの基礎データが取れていないわけです。故障したときにも、それまでどのような稼働状況だったかのデータがなければ、対策が立てられません。これまでは人間の勘と経験に頼っていました。それが高いレベルだったから対処できてきただけだったのです。

製造現場で、機器からの情報のデータが共有化されているか、そして人を介さずにトラブルを解決できる方法があるか。紙に書いた情報や人間の経験があっても、それは普遍化できません。いかにデジタルデータ化して共有するかが、今後の日本の製造業に求められるソリューションであり、そこをIoTの力でお手伝いできるのではないかと思います。そのためには、ソフトバンクとしても通信のプラットフォームだけでは何もできません。サービスの部分のソリューションを持っていることが必要なのです。

将来的には、すべての人とモノが自律的にネットワークにつながる「コネクティングワールド」が到来するでしょう。それを前提にサービスもインフラも考えることが必要です。すべてのものが常につながって、データのやり取りができるようになったとき、何ができるのかを徹底的に考えるべきだと思います。

スマートフォンが普及して、人と人は確実につながっている世の中が近づいてきました。それによって世の中も急速に変化しています。FacebookやUberなどを使えば簡単に実感するところでしょう。それではモノはどうでしょうか。まだつながっていないですよね。モノも全部つなげてみたら、世の中はさらに変わるでしょう。IoTを考えるとき、「まずつないでみましょう。つなげることを怖れないでほしい」ということを、すべてがつながる世の中を想定するソフトバンクからのメッセージとして贈りたいと思います。

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