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被災地域で空からメールを送受信、KDDI研究所が無人機による実証実験

2016.02.25

Updated by Asako Itagaki on February 25, 2016, 18:10 pm JST

KDDI研究所は、災害時を想定したメッセージ蓄積中継システムを開発した。携帯電話が使用できない孤立した被災地域に無人航空機を利用してEメールを届ける実証実験に成功した。

KDDIでは災害時のエリア復旧対策として災害用大ゾーン基地局、車載基地局の拡充やトライブリッド基地局の開発などの「陸」の対策、海上保安庁と強力して船舶型基地局の実用化に向けた開発・実証という「海」の対策に取り組んで来た。これらの取り組みはいずれも被災により不通となったエリアに通信を回復するためのものだが、陸上の対策は道路が復旧するまでは難しく、海からの対策では海岸から離れた場所への対応は難しい。今回の無人航空機を活用したEメール配送システムの開発は、災害発生直後から救援到達や臨時復旧までの間にある「安否確認」ニーズに、「空」から応える対策だ。

孤立地域では、避難所にいる被災者が自分のスマートフォン等を使用してWi-Fiで避難所に設置されたメッセージ保管装置に接続する。ウェブブラウザ経由で専用のアプリをダウンロードし、インストールすることで、このシステム専用のメールアドレスが発行される。専用アプリ経由で送受信されるメールは、メッセージ保管装置に一時的に蓄積される。

蓄積されたメールを地域外に送信するには、小型サーバーとWi-Fi通信装置から成るメッセージ集配装置を搭載した無人航空機を使用する。孤立地域の上空に飛来した集配装置とメッセージ保管装置をWi-Fi接続し、メールのデータが集配装置に蓄積される。メッセージは無人航空機に載せられて物理的に運ばれることになる。

無人機が非孤立地域まで戻って来たら、集配装置に蓄積されたメッセージは、メッセージゲートウェイに送信される。メッセージゲートウェイではインターネットの従来のメールシステムとの相互接続・変換を行う。非孤立地域にいるユーザーは、通常のメールクライアントでメッセージを受信できる。

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非孤立地域から孤立地域へのメールは逆の経路で送受信される。インターネットから届くメールはメッセージゲートウェイで一時保管され、その後無人機の集配装置で物理的に運ばれた後孤立地域のメッセージ保管装置に届けられる。被災者は専用アプリでメッセージを受信する。株式会社KDDI研究所執行役員アクセスネットワーク部門長 竹内一則氏は、「常時接続されていなくても接続されたタイミングでサーバーがデータを受け渡しするという電子メールの性質を使い、伝書鳩のようにメッセージを届けるサービスを実現した」と表現した。

2月25日に埼玉県の旧毛呂山高校跡地で行われた実証実験では、無人機に見立てたドローンに小型サーバーとWi-Fi通信装置を搭載し、メッセージ保管装置・集配装置・メッセージゲートウェイを介したメールの送受信を行った。

▼市販マルチコプターに集配装置を取り付ける。赤い箱の中にはWi-Fi基板、サーバー、バッテリーが内蔵されている。
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▼この日の実験では、避難所の上空50mほどの位置でホバリングしながら地上のメッセージ保管装置と通信していた。前日の実験では上空150m位置でのデータ受信に成功している。
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非孤立地域に見立てたグラウンドの反対側では、メールゲートウェイ経由でデータがインターネットに送出され、宛先のメールアドレスに届いていた。

今回の実証実験ではマルチコプターを使用したが、飛距離の長い固定翼タイプの無人機を用いた場合、孤立地域にある複数の避難所を巡回してメールを回収することも技術的には可能だ。その場合、メール回収時に集配装置側でメッセージ保管装置とメールアドレスをひも付けることで、メール配送時には「宛先の人がいる避難所のメッセージ保管装置にメールを送り込む」機能を備えている。被災者が避難所を移動した時には、移動先の避難所でメッセージ保管装置に接続することで、居場所の情報は更新される。

なお、この実験は総務省の電波資源拡大のための研究開発「無人航空機を活用した無線中継システムと地上ネットワークとの連携および共用技術の研究開発」の一環によるもので、2015年3月末でいったん一区切りとなる。実用化に向けては、災害時のメール配送システム用の無線機の飛行を人命救助や捜索等と同様の扱いにできるかなど、制度の整備などが必要となる。

 

【報道発表資料】
無人航空機を活用したEメール配送システムを開発 ~災害時に孤立地域から安否連絡することを想定した実証実験に成功~

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。