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AppBank問題に見る経営と感情のバランス感覚

Point of view from MAX-Murai; Love and affair

2016.03.07

Updated by Ryo Shimizu on March 7, 2016, 09:31 am UTC

 AppBankに次から次へと問題が発生しているようで、昔からマックスむらいこと、村井智建さんを知っている身としては、なんとも複雑な気分でニュースを眺めていました。

 横領とか恐喝とか、物騒な話もでていますが、AppBank創業当初は強力なスポンサーの一人であったやまもといちろうさん(http://lineblog.me/yamamotoichiro/archives/3761695.html)にまで次々と厳しいツッコミを入れられていて、正直見ていて可哀想と思ったりもしました。

 筆者が村井さんと知り合ったのは、まだiPhoneが日本で発売される前。
 村井さんが占いビジネスの会社に居た頃からでした。

 とにかく元気のいい人で、iPhoneが発表になった直後くらいに「あれ面白そうだよねー」と話をしていたのを思い出します。

 筆者がiPhoneの日本初の発売日のために4日間行列したときも、一番に飛んできて「ここが日本で最初のiPhoneを買うための行列ですよ」と書かれたダンボールで作った看板をくれたのをよく覚えています。ちゃっかり自分の会社の名前とテーマカラーで看板を作ったりして。器用だが抜け目ない人だなと思いました。

 その後、AppBankを創業したとき、筆者も二回ほど鎌倉の本社に遊びにいったことがあって、その時は宮下さんはツイキャスにハマっていて、筆者らが開発したアプリを宣伝する動画を作ってくれたのです。

 しかもなんと無料で。

 「え、無料でいいの!?」と聞くと、「いいんだよいいんだよ。これが売れたらそのぶんアフィリエイトが入るんだから」と笑って言ってくれました。

 思えば、これがAppBankの動画配信ビジネスの源流だったのでしょう。
 どんなことも夢中になって続ければ大きなビジネスになるんだなあ、とその時は思いました。

 筆者からすると村井さんというのは気のいい人で、ともするとややお人好しで、もしかすると意外と騙されやすい人なのかもしれない、と感じたのを覚えています。

 そしてAppBankStoreの開設。天才的なビジネスセンスだなあと思ったものです。
 当時はiPhoneのケースを売るお店が電気屋さんくらいしかなくて、その専門店をセレクトショップ的に始めたのは先見の明がありました。

 いろいろ紆余曲折はあったものの、いつのまにか村井さんは子どもたちの人気者になり、それこそ筆者が子供だった頃のハドソンの高橋名人や、タミヤの前ちゃんのごとき人気を博して凄いなあと思ったものです。

 村井さんはプログラマーではなかったけれども、プログラマー的なセンスがあったんだなあと彼との会話の端々から感じていたことを思い出します。

 そしてついに上場を果たし、まさにこれからというときにいろいろな問題が起きてしまって、気の毒になあとも思います。そもそも、上場するってのはそれだけで大変なことですし、上場を維持することにも膨大なコストがかかります。そして上場したことによって、村井さんはそれまでの村井さんのような朗らかな性格には厳しい判断をいくつもしなければならなくなってしまったのではないかと思うのです。

 想像してみてください。
 毎日のように動画に出てるんですよ。

 もしかして週に1日か2日で撮り溜めているのかもしれませんが、それにしたってとてつもないことです。

 そんなに出演してる経営者はいません。ジャパネットたかたの高田社長くらいなものです。
 芸能人だってほとんどいません。タモリさんくらいじゃないでしょうか。

 毎日毎日、子どもたちに笑顔を振りまいて、しかしその裏側では、厳しい現実のビジネスをどうにかまわしていかなければならない。

 村井さんほどではないのでまったくおこがましいのですが、筆者も2013年にラスベガスで開催されたInternational CESの会場で、開発中のenchantMOONをいろいろなバイヤーやマスコミに売り込んでいたとき、その実、会社は火の車で、大きな資金調達をしなければ販売はおろか発売日の前に会社が潰れてしまうという状況でした。詳しいことはこちらの電子書籍に書いてありますが、とにかく大変な状況だったのです。

人類総プログラマー化計画~誰でもプログラミングできる世界を目指して~

 CFOからは死刑宣告をされ、調達の目処も立たない状況。それでもどうしてもこの機械だけは完成させたい、その一心で、昼間は笑顔を振りまき、夢を熱く語り、夜は国際電話で資金繰りの相談をする、という日々で、神経は完全に参ってしまいました。

 筆者の場合は、幸い、際どいタイミングでメインバンクが2億円もの巨額資金を2年間短プラ連動という破格の条件で貸しつけて下さったので、その危機を脱することが出来ました。半沢直樹みたいな銀行員は本当にいるのです。

 借りた直後に他部門の業績不振で決算が赤字予想になり、支店長さんと融資課長さんがすっ飛んできて、CFOからは「もうなにを言われても土下座して謝るしかない」と釘を刺されていたのですが、融資課長さんは筆者から製品の開発状況やCESの状況の報告を聞いただけで、帰ってしまいました。

 「私も発売されるのを楽しみにしています」

 赤字のことなど一言も言われなくて、このときは筆者は銀行の仕組みなど理解していなかったのですが、半沢直樹の原作小説を読むと、これはかなり融資課長さんにご迷惑をおかけしてしまったのに、泥臭く夢を追いかける筆者を全力で応援してくださったんだなと心のなかで土下座しました。

 幸い、この二億円は一度も期日に遅れることなく予定通りに返し切ることができ、その銀行さんは今も弊社のメインバンクとして経営を支援してくださっています。

 でもこの時期はほんとうに辛くて、昼間はニコニコした顔で取材に受け答えして、次の会議では取締役に詰められて頭を抱え、夜は毎日不安で眠れないという有様でした。

 筆者の場合は、それが数ヶ月続く程度で済んだのですが、村井さんはおそらく比較にならないほどのストレスを抱えているはずです。

 AppBankも、当然、最初から順調だったわけではないですし、良い時もあれば悪い時もあったりして、それでも村井さんは毎日毎日、子どもたちを楽しませて、子どもたちが夢中になるのと同じようにゲームに熱中して、楽しい番組を作ってきたわけです。

 ゲームに熱中とか、仕事でも私は嫌です。否、仕事だとするととても嫌です。
 それでも村井さんはiPhoneの業界を盛り上げるため、本当に見を粉にして働いてきたんです。

 その村井さんが、退職した女性スタッフに対する怒りというか嘆きの動画を公開したことが話題を読んでいます。話題というのは、主には批判です。

 80万以上の視聴回数で、2万ものdislikeがつけられてしまっています。

[youtube https://www.youtube.com/watch?v=SkJcN-IggRE&w=560&h=315]

 正直言うと、今回のビデオ、筆者は村井さんが可愛そうで見ていられなくなりました。
 なぜか床に正座して原稿を読んでいるはずなのに、明らかに論理が破綻しています。

 村井さんはとても賢い方で、とても優しい方です。
 それがもう、ここまで正常な判断ができないところまで追い込まれているのを見るとこれはもう正直辛いです。

 この問題のどの部分が筆者にこの連載でとりあげる必要性を感じさせたのかというと、経営者というのは、究極的にこういうものだからです。

 この動画で語られているのは、紛れも無く村井さんの本音だと思います。心の底からの本心で、この話をしているのです。

 なぜなら経営者は嘘を付きます。隠さなければならない情報を沢山もっているからです。情報秘匿の最良の手段は、その情報が存在していることそのものを気づかせないことです。そのために経営者は度々嘘をつきます。

 そして経営者が嘘をつくときは、得をする時です。
 でもこの動画で話されている内容で、村井さんは全く得をしません。つまり、これが嘘ではあり得ません。

 しかも原稿に書かれた内容を読んでいます。
 つまりこれは広報がチェックしたのだと思います。

 AppBankは上場企業ですし、村井さんが感情に任せて余計なことまで言わないように、チェックしていると考えられます。

 そしてチェックしたにしても、あまりにもひどすぎる内容です。

 去るものは追わず。
 それがベストです。

 よほどの犯罪行為をしたのでもない限り、普通に退職したスタッフに対して追い打ちをかけるようなメッセージを誰に聞いて欲しかったんでしょうか。

 とすると、村井さんは今回の件で完全に感情のコントロールができてない状態と言えます。
 広報ともやりあい、広報もしぶしぶこの原稿の内容を認めたのでしょう。

 本来、正しい広報戦略なら、こんな動画は一切配信しないほうがいいに決まっているのです。

 経営者は常に自分の感情をコントロールすることを求められます。
 熱意、愛情、興奮、怒り、不安そしてそれらの感情の起伏が、普通の人の何倍も激しいのです。

 一日のうちに、5つの感情が全て表出します。
 想像できますか?

 「この仕事は面白い!いいことあったね!ヤッター」というテンションの昂ぶりの一時間後には「契約を失注してしまいました!業績を下方修正しなければなりません」という報告を受け、さらにその後には「資金繰りが苦しいので再度借り入れをしなければならない。ついては社長の個人保証が必要なので実印をくれ」と言われます。

 「今月カネが足りないなあ」といっても、足りない額が「あと5000万円」とか「来週までに2億円必要」とか、もう個人ではどうにもならないレベルのお金を個人保証で借りるわけです。当然、「返せるのだろうか」という不安も必然的に生まれます。半端な不安ではありません。

 それでも普通の経営者ならば、感情をコントロールできます。
 なぜなら、「こういう表情をして」とは言われないからです。

 会社で社長が不機嫌な顔をしていても、不安にならないでください。
 それが仕事なのです。

 そして不安のもとをどうにかできる人間だけが経営者を続けられるのです。
 あなたが不安にならずに済むように、まず経営者が不安という感情を受け止め、コントロールしているのです。

 上司が怖い顔をしているかといって、あなたがキライなわけではないのです。

 そこいくと、やはり村井さんは本当に大変だっただろうなと思います。
 毎日笑顔を作らなければならないからです。

 それって、普通は芸能人ですら難しいことです。
 プロの芸能人ですら、顔を作ること、自分の感情を押し殺し、笑顔でいることは過大なストレスになります。

 それを両方やってるわけですから、村井さんが参ってしまうのはもはや必然でしょう。

 そして彼にとって部下の裏切りや横領よりも、事業の失敗よりも、どうしても許せなかったのが部下を失うことだったのでしょう。

 経営者にとって、部下を失うということ、しかも毎日顔をあわせている同僚を失うということは、自分の手足が切られるほどのショックがあります。

 部下が退職するというのは、基本的には自分の存在を否定されているのと同じです。
 だからそこに関して、極めて複雑な感情が絡みます。

 実際のところ、部下としては上司が気に入らないという理由よりも、自分がやりたいことが他にできたから辞めるというパターンが圧倒的です。

 しかし上司にしてみれば、部下の不安を取り除くため、部下が成長できるようにするため、あらゆる犠牲を払って自分が責任をとってきたという自負があるため、そうまでして育ててきた存在に裏切られた、という激しい怒りや失望を感じるのです。

 筆者も最初は部下を失うのが怖かった時期があります。
 本当に辛くて、思わず「つらい」と口に出してしまったこともあります。

 今でも部下を失うのが怖くなくなった、とは言いません。それは怖いです。
 筆者が自分に決めている感情のコントロール方法は、「去るものは追わず」です。

 理由の如何に関らず、決して引き止めない。

 それだけが筆者が自分の感情をコントロールする方法です。
 私が決して引き止めないことを部下は知っています。

 だから部下はいつでも自由に退職できます。
 そして退職の意志が固まっている部下を翻意させることはエネルギーの無駄です。

 感情が無用に揺さぶられるし、それこそ不安によって冷静な判断ができなくなってしまうからです。

 ひとまず村井さんはしばらく仕事を休んだほうがいいのではないかと思います。
 精神的な休養が彼には必要なのではないでしょうか。

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清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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