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インフラ点検に測量、災害救助向けに開発が進む日本の産業ドローン

2016.05.09

Updated by Yuko Nonoshita on May 9, 2016, 06:30 am JST

ドローンに関連する技術とサービスの専門展示会「第2回 国際ドローン展」が幕張メッセにて開催された。

日本能率協会の主催で昨年からTECHNO-FRONTIERやIoT Techを始めとする複数のイベントと同時に開催され、474ある出展ブースのうち約60ほどがドローン関連によるもの。4月20日から3日間の全体来場者数31,403名のうち、ドローン展は8,172名と最も多く、昨年の9,307名を下回ったのは、ドローンビジネスへの本格参入を目指す関係者に来場者が絞り込まれたからとも言えそうだ。

▼今年で2回目となる国際ドローン展は商談メインの専門展示会で出展内容も技術寄りのものが多い。
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▼改正航空法などドローンの法規制について説明するセミナーは立見が出るほど大盛況だった。
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ドローンを取り巻く動きとしては、日本でも昨年12月10日に航空法が改正され、国土交通省より「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」が発表されたことで、ビジネスの運用がしやすくなるとの期待感が高まっている。国内市場については「2020年で1138億円規模に成長する見込み」(ドローンビジネス調査報告書2016 インプレスより)などいずれの調査報告でも拡大傾向にある。

人手不足に悩むインフラ点検、測量現場への投入が進む

今年の国際ドローン展のテーマは「構造物の点検」「空撮・測量」「災害対策及び通信インフラの維持」ということで、全体的に測量用のドローンやセンシングシステム、運用ソリューションに関する出展が目立っていた。

背景としては、国土交通省がドローンを含む「UAVを用いた公共測量マニュアル」を3月末に発表するなど、人材や経験者不足に悩む現場の戦力としてドローンの活用を推進する動きがあり、すでに昨年から専用の機体やシステムの開発が始まっている。これまで職人の技量や経験に依存するところが大きかったトンネル内の点検や橋りょうなど、人が作業しにくい環境に対応できるドローンが複数出展されていた。

▼「NEC」のブースではトンネルや橋りょうの劣化を診断する点検システムを搭載したドローンが展示されていた。細長い機体の両脇から伸びたアームで位置を固定しながら、鼻先に付いたハンマーで壁を一定間隔で叩いて調査ができるというオリジナルのドローンで、「自律制御システム研究所」らと共同で開発を行っている。目視での点検に変わる近接での映像撮影が可能なシステムも開発しており、年内の運用を目指している。
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▼「NEXCO中日本」が開発する点検用ドローンは、GPSの届かない場所や従来の点検手法では対応できなかった箇所まで目視点検できる撮影システムを搭載している。構造物を傷つけず、落下物を防ぐフェンスを付けたタイプは有線で利用もできる。
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▼測量に関しては一度の飛行で正確で緻密に行える技術が求められている。電動バイクを開発するテラモーターズのドローンビジネス部門としてこの3月に設立された「テラドローン」は機体の開発ではなくあえてドローンを使う測量システムで市場へ参入する。設立以前から開発を進めてきた精密な測量システムを売りにしており、すでに業界での実績もあるという。WWN16drone06

新技術を次々取り入れた国産ドローン開発が活発に

ドローン本体に関しては、宅配向けにペイロードを拡張したり、悪天候に対抗できる稼働型ローターを搭載したり、長距離飛行が可能なハイブリッドなど、さまざまなタイプの機体が展示されていた。

▼日本発の本格的な産業用ドローン専門メーカーとして注目を集め、会場内で最も大きくて目立つブースを出展していた「PRO DRONE」では、農業や図書館の書籍運搬、水中撮影など、用途に合わせて開発されたさまざまなドローンを複数展示していた。
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▼水中探索や撮影機能を持つ全天候型ドローン「PD6-AW」
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▼航空法の適用を受けない190kg以下の超小型産業用ドローン「PD4-MINI」はスマホと連携して空中撮影などを行う。
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▼最大30キロの荷物が運べるペイロードを備えた配送専用大型ドローンは最高時速50kmで30分飛行できる性能があり、年内の実用化を目指すとしている。
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▼非常時にはパラシュートを使って強制着陸させるセーフティーユニットなども開発している。
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千葉大学のベンチャーとして先進的なドローンの開発を行っている「自律制御システム研究所」は、高速・長距離飛行が可能なVTOL型のドローンや水素燃料電池を搭載したドローンなどを出展し、開発技術力の高さをアピールしていた。

▼エイのような形をした「VTOL DRONE」は高速・長距離飛行が可能で、推進用のプロペラを後方に設置したシンプルな設計で安全性と信頼性を高めている。
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▼水素燃料電池型のドローンは電池の大きさを飛行に耐えられるほど小さくできるかが課題という。
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▼救助・災害支援活動機能を搭載したドローンはすでに発売中。救急キットや浮輪の運搬が可能で、大きな無線スピーカーで呼びかけもできる。
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▼強風や横風に対応してルーターの角度が調整できるドローン「N-ONE」は特許出願中。飛行中の安定性が高くカーボン仕様で強度も高い。
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ヨコヤマ・コーポレーションが展開するドローン事業部の「TEAD」は、さまざまなニーズに対応するドローンが多数出展されていた。デザインもマルチロータータイプ以外のユニークなものが多い。中でもエンジンと小型蓄電池を使って2時間飛行可能なハイブリッドドローン「hydro x」はこれまでにないスタイルで、高出力が可能な対向ピストンエンジンで発電した電力でモーターを駆動し、安定した飛行力を備えている。

▼2時間飛行可能なハイブリッドドローン「hydro x」はNEDOと共同で開発が行われている。
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▼パトライトを搭載した「FRG-Pato」は警察や消防用の特殊仕様になっている。
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▼アームの長さが異なるユニークな形をしたドローンも出展されていた。
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▼海外からの出展は少なかったが、韓国の釜山大学が大型のペイロードを備えた新型ドローンを参考出展していた。
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用途に合わせた機能と運用ソリューションがセットで求められる

災害現場の調査や支援を行うドローンは熊本地震の現場でも活用されているが、非常時以外でも日常的に活用できるドローンが開発されている。たとえば、NTT東日本が開発する新型のマルチヘリは常時は電線の点検などを行い、非常時は電線の配線作業を支援したり、状況を確認するなど複数のニーズに合わせた機能を備えている。また、独自の運用ルールをいち早く設けており、規定に応じて安全に運転できる技術を持つ人材の育成も進めている。

▼NTT東日本が開発しているマルチヘリの新型機はさまざまな用途が想定されている。
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▼電線を運ぶ専用の機能を持ったものも。
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▼航空法が改善される前から独自の厳しいルールを設けて運用を行っている。
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狭いところでも移動できるドローンはレスキューでの活用が進められており、菊池製作所が京都大学と開発中の人命探査用ドローンは、大型軽量のパネル型アンテナを使って、探索が困難な場所でも空中から的確に遭難者を探しだす機能の実用化を目指している。

▼ヘリの飛行高度からでは見つけにくい遭難者を探索するのを目的としたドローンの開発も行われている。
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今回は産業用の汎用型ドローンが多数出展されていたが、用途に合わせてよりカスタマイズされたドローンを使いたいというニーズも出てきそうだ。「クリスタルテックUAV」は利用者の要望に応じて完全オーダーのドローンを製作するサービスを行っており、仕様設計の段階から相談にのってくれるという。

▼オーダードローンは必要とする機能だけを搭載できるので無駄がなく、運用もしやすいなどのメリットがある。
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実際の運用や実証実験については、すでに国内の複数地域で指定されているドローン特区で行われる機会が増え、実用化に向けた本格的な動きがこれから見られそうだ。

▼徳島県那賀町ではドローン推進室を設けて配送実験などの実証実験フィールドとして運用する。
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▼宮城県丸森町の「丸森ドローンフィールド」ではスクールや工房などを運営する。
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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。