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ロボット家政婦が来る前に人間の家政婦を頼む

I hire a housekeeper in human

2017.04.09

Updated by Ryo Shimizu on 4月 9, 2017, 10:47 am JST

 家庭に入るロボットとして古典的なのはハインラインの文化女中器(Hired girl)でしょう。
 USロボティクス社が開発した万能文化女中器はあらゆる家事をこなします。

 今のペッパーとは似ても似つかない代物です。なにせペッパーときたら、移動するのも一苦労だし、そもそも床に落ちたゴミを拾うことさえできません。

 iRobot社がクレバーなのは軍事用ロボットを造りつつも家庭用のお掃除ロボットを開発したところです。

 かつて松下幸之助は、パソコンに関して「それでなにをするのかが明確になってなければその商品は一般性がない」として、本格的にPCの開発に乗り出さなかったといいます。

 
 そのかわり日本ではワープロ専用機が生まれ、これはもう大変なブームを作り出しました。まさに「それでなにをするのかが明確」になっているからこそ、ワープロ専用機はヒットしたのです。

 しかしやがてワープロ専用機は消えていきました。直接の引き金はインターネットです。ワールド・ワイド・ウェブ、いわゆるWWWが開発され、紙に印刷することが前提のワープロ専用機の立場はどんとん小さくなっていきました。人々はもっぱら画面で情報をつくり、画面で消費するようにライフスタイルが変化します。

 そういう時代にワープロ専用機はあまりにも非力でした。Windowsへの移行と前後して、こうして日本からはワープロ専用機が消えていったわけですが、ワープロ専用機がなければWindowsが流行することもなかったはずです。

 人々はPCをワープロ専用機としても使えるが、さらに別の使い方もできるもの、と捉え、実際にそのように使いました。そこまでしてようやく日本でもごく普通の人々がExcelを使うようになり、PowerPointを使うようになり、突如としてスライドショーというカルチャーが輸入されました。それまで企画書はワープロ専用機で打ち出した文章の羅列というのが普通で、実際、Windowsが導入された後もしばらくはその形式が当たり前でした。

 しかし文章というのは読むのが大変だし、書くのも大変です。
 Windows95になると、Office95にPowerPointが追加され、人々はスライドを積極的に作るようになりました。PowerPointは使い方が明確なのでそれほど使い方に詳しくない人でも簡単に資料をまとめることができるテンプレートが豊富に用意されていました。

 いまや公立小学校の授業にもPowerPointでのプレゼン作成が含まれる時代です。
 そう考えてみるとクラクラしますね。

 さて、AIが実現する家庭用ロボットは、おそらくRoombaやBraavaのような機能限定のものから、やがて汎用的なものへとステップアップしていくでしょう。

 しかし冷静に考えると、筆者はそもそも家事労働者を使ったことがありません。
 もちろん家族と一緒に住んでいた時は、口うるさい家族がこまめに部屋を掃除したり料理を作ったりしてくれたわけですが、それは家事労働者というよりも口うるさい家族の一員であり、厳密な意味での家事労働者、すなわち女中とは違います。

 最近は住み込みでなくても一人暮らしや共働きの家庭を対象にした時間給の家事労働サービスがいくつかでてきました。

 知人が使っていたのもあって、一度思い切って家事労働を外部委託してみようと考え、家事労働派遣サービスに申し込みました。

 ロボットが家政婦になるのはいつになるのか、そしてそれによって提供されるサービスはロボットの対価に見合うものになりうるか。

 まずは実際の家事労働サービスを体験してみようと思ったわけです。

 最初に来てくれた人は、平日の昼間は別の仕事をしている人で、90分かけてキッチンを掃除してくれました。

 なかなか感じの良い人だったのですが、よく見ると綺麗にならべられた食品が全て賞味期限切れで、「だったら捨ててくれれば良かったのに」とちょっと思いました。

 次にお願いしたのはたまたまそのサービスに登録していた知人女性で、おなじ90分でも、洗濯物をたたんだり、風呂を掃除したり、キッチンをさらに綺麗にしたりと大活躍してくれました。

 そして気づいたのですが、そうやって家事労働を代行してもらうのは、なんとも素晴らしい気持ちになるものだということです。

 もちろん自分でもある程度は部屋を綺麗に保とうと考えているのですが、やはり自分ひとりだとどうしてもだらしなく誤魔化してしまう場所が出ます。プロの家事労働者はきちんと片付けてくれます。これだけでもQOLが物凄く上がります。ちょっとしたことが生きる感動に結びつくのだと思いました。

 彼女は子供の頃から家政婦になるのが夢だったそうで、ほんとうに生き生きと楽しそうに掃除と洗濯をしてくれました。一緒に暮らす家族と明らかに違うのは、文句を言わないことです。

 完全に仕事と割り切ってくれているので、たとえ靴下を床に脱ぎ散らかしていても、「靴下は洗濯カゴに入れてって何度言ったら分かるの?」などとなじられることもありません。むしろ他人なので自分から「ちょっとあまりにもだらしないのは申し訳ないから洗濯カゴに入れに行こう」と考えるようになります。この、家事労働を他人が行うことによって自分のほうの意識が変化するというのはかなり驚異的なことです。

 しかし果たしてロボットだったら僕はどんな気持ちになるだろうかと考えると、おそらく積極的に脱ぎ散らかすようになるのではないかと思います。なぜならロボットは人間ではないからです。

 人間ではないのでロボットに対して遠慮する必要はなく、僕は酔っ払って帰ってきたら服を脱ぎ散らかし、靴下を脱ぎ・・・いやいっそロボットに脱がせてもらう可能性すらあります・・・パジャマに着替えて・・・いやむしろロボットに着せてもらう可能性もあります・・・毛布をかけて・・・いやむしろロボットに毛布をかけてもらう可能性もあります・・・眠って、翌朝起きて、SIXPADをして、ロボットが作った朝ごはんを食べるでしょう。

 トイレットペーパーもティッシュもキッチンペーパーも調味料も切れる前にロボットが予備をAmazonで購入しておいてくれます。もうそんなつまらないこと、要は生きるというごく矮小なことに頭を悩ますこと無く、僕は四六時中、自分の好きなことに集中できます。なんて素晴らしい人生でしょう。

 しかし問題がひとつあります。ロボットは邪魔です。
 特に掃除できたり洗濯できたりするロボットは、おそらく人間と同じくらいのサイズになります。

 折りたたんでしまっておく、ということもできるでしょうが、ワンルームの一人暮らしでは、エアロバイク並に邪魔なことは想像できます。

 ではどうするか

 そこでひらめきました。

 家事労働代行サービス業者が人間のかわりにロボットを派遣するのです。
 これなら高額なロボットを買う必要もないしメンテナンスする必要もありません。もちろん邪魔にもならないし、家事労働代行サービス業者も煩わしい人間の管理をする必要がありません。

 家事労働サービスに鍵を預けておくと、留守中に勝手にやってきて勝手に荷物を整理整頓して、勝手に洗濯して勝手に料理を作ってくれるようになる近未来。人はおそらくそれまで決して解放されることのなかった家事労働の負担、文化的健康的に生きるために働く時間というのが限りなくゼロになります。高級マンションは月々の管理費の中から家事労働ロボットを維持管理し、24時間好きなときに呼び出せるようになるでしょう。

 ではこのようなロボットはいつ実現できるでしょうか。
 鳴り物入りで登場したペッパーが大変残念な感じになってしまったわけですが、ペッパーは家事労働を任せるには安すぎます。「高いよ」と言うかもしれませんが、たかが100万円で無限に働く労働力を手に入れることができるわけがありません。

 家事労働ロボットの適正価格は500〜800万円でしょう。維持費はその10%くらいだと考えられます。だから最初から共有するつもりで作るべきなのです。

 あとはアクチュエータです。つまりモーターです。かなりの高トルクモーターが必要になります。そうしないと冷蔵庫すら開けられません。あとはバッテリー。高トルクのモーターを駆動するにはそれなりの大容量バッテリーが必要になります。これは、まあ最近の電気掃除機みたいなものを想定すると、たぶん大きめのモーターを入れたとしても一回の活動時間は15分〜30分が限界でしょう。まあバッテリーを充電しながら適宜自分で入れ替えて動くことも想定できます。

 
 このようなロボットはいつ作れるでしょうか。
 まあ適切な人員と予算さえあれば今すぐにでも作れてしまいそうな気がしますが、実際に世の中に出るにはあと数年はかかるでしょうね。でもそんなに長い時間はかからないと思います。

 もちろん最初からすべての家事労働をするのは無理なので、洗濯をしたり洗濯物をたたんだり掃除機をかけたりといった単機能から始まり、少しずつ高機能になっていくでしょうね。RoombaやBraavaにはできない機能として、洗った食器の拭き取りや、風呂掃除など、重労働に近いものから代替していくようになると思います。

 しかし家事労働のアウトソーシング、予想以上に快適で驚いています。
 90分3600円程度なので、一人暮らしの社会人は頼んだほうが幸せになれますよ

 

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清水 亮(しみず・りょう)

1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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