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アマゾン

Amazon、クラウドの次の収益の柱は「動画プラットフォーム」:「Amazon Video Direct(AVD)」でYouTubeに対抗

2016.05.17

Updated by Hitoshi Sato on May 17, 2016, 06:34 am JST

AWSが支えるAmazonの黒字

2016年4月28日、Amazonは2016年第1四半期(1~3月)の決算を発表した。売上高は、28%増の291億ドルで、純利益は5億1,300万ドルだった。

廉価版タブレット「Fire」の販売の勢いがあり前年同期比2倍以上だったり、有料会員サービス「Prime」の増加も多くて好調なこともあるが、Amazonの業績をここまでけん引している最大のサービスはクラウド事業Amazon Web Services(AWS)である。AWSの営業利益は6億400万ドルもあり、北米におけるAmazonの本業であるeコマース事業の5億8,800万ドルよりもはるかに大きくなっており、ここ最近のAmazon決算の黒字を支えているのがAWSである。

AWSの次の収益源として期待される「AVD(ビデオダイレクト)」

そのAmazonは2016年5月10日、個人や企業が動画をアップできる「Amazon Video Direct(AVD)」を開始することを発表した。アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストリア、日本の5か国で開始する。動画視聴者はFire TV、Amazon Video対応のテレビやゲーム機、Amazon Videoのアプリが利用できるスマホで動画の視聴が可能である。ついにAmazonが本格的に動画プラットフォーム市場に参入してきたという印象である。

AVDでの動画の配信形態として、Prime会員が追加料金なしで視聴できる「Prime Video」か「動画販売またはレンタル」、「広告付き無料視聴」のどれかをアップする際に選択できる。それに対してAmazonはそれぞれ異なる料率のロイヤルティーを動画提供者に支払うビジネスモデルで、例えばPrime Videoの場合、1時間につき15セント(アメリカ・年間7万5,000ドルが上限)または6セント(アメリカ以外)である。さらに「追加サブスクリプションサービス」または「購入・レンタル」では売上の50%、「広告付き無料視聴」では広告収入の55%(YouTubeと同率)が動画提供者に支払われる。結構な額だが、さらにAmazonでは動画提供者に対して、毎月100万ドルの賞金も用意している。

YouTubeに対抗できるのか:戦場は動画プラットフォームへ

Amazonの動画プラットフォーム進出は「YouTubeへの対抗」と多くのメディアで報じられている。日本でも「ユーチューバー(YouTuber)」なる言葉が登場して久しいが、YouTubeに動画をアップして生計を立てようとしている人がいる(実際には、それだけで生活できる人は非常に少ないが)。それだけ動画の需要は大きい。

Googleの収入の90%以上が広告収入であるが、そのうちモバイルとYouTubeが占める割合は非常に大きい。動画の検索をするときも、日本だけでなく世界中どこでも「まずはYouTubeで動画検索」は常識になってきている。YouTubeで検索するとたいていの見たい動画は見つかる。それが合法か非合法かは別として、あらゆる種類の動画があり、もはやテレビを見なくとも困らない時代になっている。日本だけでなくテレビは世界的に視聴されなくなってきているが、それでも動画のニーズは大きく、多くの人がYouTubeで無料で視聴していることが多い。

このようにYouTubeは誰もが認める「世界最大の動画プラットフォーム」になっている。そしてYouTubeで動画を検索しにやってくる世界中の人に向けて広告を配信することによって、Googleの売上に大きな貢献をしている。

Amazonとしてはクラウド事業であるAWSで安定的に黒字になってきた。この勢いを加速したいだろうが、だがクラウド事業そのものはいずれ成長に限界がくるだろうし、ライバルが台頭してきたときの差別化が難しい。またコンシューマーにとってはそもそもAWSが何のことだかわからない人も多い。

一方で、動画という世界規模で個人のニーズがあり、世界中の誰もが集まれるプラットフォームを構築することによって、そこで広告収入や動画販売の手数料収入の方が、Amazonにとっても成長の余地は大きいだろう。あらゆる動画をネットで無料(または廉価)で見たいという世界中の人々のニーズは無限にある。また「どうしても見たい動画」ならお金を払ってでも見たいという気持ちもある。さらに世界中から、どういう人がどういう動画を見ているのかといった情報も収集できるので、それらを元にお勧め動画の配信だけでなく、コマース事業で「お勧め商品」の宣伝や購入への導線にもつながることが期待される。

Amazonとしては、いつまでもAWSだけに頼らず、動画プラットフォームで将来に向けての「安定的な収入の基盤」を確立しておきたいところだ。ただYouTubeがあまりにも巨大化してしまい、世界規模での動画プラットフォームになってしまった。しかも全世界から誰もがアクセスできる。現在のAVDはまだ5か国での開始である。AVDがYouTubeに対抗できるような規模の動画プラットフォームになるには、まだ時間がかかりそうだ。Amazonもeコマースという小売・流通企業から、ついにようやくIT企業っぽい感じになってきた。

【参照情報】
Amazon.com Announces First Quarter Sales up 28% to $29.1 Billion
Amazon Announces Amazon Video Direct, Giving Video Providers a Self-Service Program to Reach Amazon Customers, Including Tens of Millions of Prime Members
Amazon Video Direct

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。