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日立国際電気 研究開発本部 次世代技術開発部の長谷川圭吾氏

「AI を監視する AI」が DX 実現に立ちはだかるカベをクリアする

2023.02.09

Updated by Naohisa Iwamoto on February 9, 2023, 06:25 am JST

DX(デジタル改革)推進を支える技術の1つとしてAI(人工知能)があることに異論は少ないだろう。特に、フィジカル空間とサイバー空間を連携したサイバーフィジカルシステム(CPS)を構築してイノベーションを推進するときには、5Gなどの無線通信によるネットワークと、データを解析するAIの連携が効果を発揮する。そうした中で日立国際電気は、「無線と映像」をコアコンピタンスに据え、映像データを収集してAIで解析することでDXを実現するソリューション提供に注力している。

日立国際電気 研究開発本部 次世代技術開発部の長谷川圭吾氏は、「DXを推進するときにはAIを導入するケースが多いように、DXとAIには密接な関係があります。すなわちDX推進プロジェクトを成功に導くAIが求められています」と語る。一方で、AIを世の中に出すときには多様なハードルがあり、上手く成果が得られないことも多い。

日立国際電気 研究開発本部 次世代技術開発部の長谷川圭吾氏

「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の調査では、AIプロジェクトが実用化に至った割合は17%にとどまっています。実際には、さらに低い成功確率ではないかと見積もっています」(長谷川氏)。それでは、どうしたらプロジェクトを成功に導けるのか。

AIプロジェクトを成功させるための3つの課題

AIプロジェクトを進める際に、大前提となる大きな問題は「AIに対しては様々な認識があり、何でもできる魔法の杖だと考える人がいることです」と長谷川氏は指摘する。まず、AIができること、AIには苦手なことを説明し、その上でスタートラインに立つことになる。

ようやくスタートラインに立ってプロジェクトを動かし始めてからも、プロジェクトの成功にはさらに3つの課題があるという。「1つは、AIの開発に必要な学習データの取得や整理に時間と手間がかかることです。いかに良いデータで学習させるかが成功へのステップであり、最先端の研究開発に従事する企業でもデータ整理に多くの人手をかけています」(長谷川氏)。

日立国際電気 研究開発本部 次世代技術開発部の長谷川圭吾氏2つ目は、実用的な精度を得るためには、膨大な学習データの取得が必要なること。「試しにAIで新しいシステムを作ってPoC(概念実証)を行うと、最初のうちは上手く精度が向上していくことが多いのです。しかし、現場レベルで求められる精度を出す段階になると、膨大なデータが必要になり手詰まりになるケースが少なくありません」と長谷川氏は語る。

3つ目の課題は、AI導入後の精度劣化への懸念。学習したデータを用いてAIモデルを作成し、PoCを重ねていくと経時的な環境の変化などで精度が落ちていくことがある。再学習を繰り返すとなると、1つ目と2つ目の課題により膨大なデータと人手が必要になってしまう。

こうした課題に対して、日立国際電気の研究開発本部では、「AIを監視するAI技術」を開発することで、解決の糸口を探る。学習の効率化や精度劣化の懸念に対して、AIが誤認識した学習データを自動検知できるような仕組みがあれば、少ないデータや人手で対応できるという考え方だ。詳細は、日立国際電気が2023年2月7日から10日に開催するオンラインイベント「日立国際電気ソリューションフォーラム(HKSF) 2022」のコンテンツで紹介しているが、そのコンセプトは「直接誤認識を検知することは難しくても、誤認識の傾向を示すスコアは算出できる」というものだ。

AIエッジコントローラーと組み合わせ現場の課題を解決

日立国際電気では、AIを監視するAI技術を適用する1つの分野として、同社が提供を始めたAIエッジコントローラーと組み合わせた画像認識のソリューションを想定している。AIエッジコントローラーとは、AIの解析処理を実現する小型のコンピューターのこと。クラウド上のコンピューターリソースではなく、カメラなどデータの入力デバイスに近い「エッジ」で処理するデバイスだ。日立国際電気が開発した高速AI技術で、リアルタイムのAI映像解析を実現している。

DX実現のためのエッジAI技術

長谷川氏は、「このAIエッジコントローラーに画像認識AIと、AIを監視するAIを搭載します。画像認識AIが判定を誤りやすいかどうかの難易度を、AIを監視するAIによってスコア化する考え方です。これにより、スコアが高い誤りやすいデータを再学習させて効率的な精度の向上を実現したり、スコアの時間変化から環境変化などによる精度劣化を予測したりすることができます」と説明する。

詳細はHKSF 2022の長谷川氏のセッションで確認していただきたいが、AIを監視するAIの利用によって、AI導入後の学習や精度の課題に対処できる朗報となりうる。AIを活用することでDXを実現しようとする企業や団体にとって、「DX推進プロジェクトを成功に導くAI」の要素技術として注目していきたい。

HKSF 2022のコンテンツを視聴する際は、「HKSF 2022」専用サイトから登録をお願いします。長谷川氏インタビューは、スペシャルコンテンツ「日立国際電気のテクノロジーを支える研究開発者の現場」でご覧いただけます。また、ソリューション紹介「先進研究事例紹介セッション〜DX推進プロジェクトを成功に導くエッジAIの開発・運用をサポートする技術〜」も併せてご覧ください。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。