ウイングアーク1st 執行役員 島澤 甲氏

ウイングアーク1st 執行役員 島澤 甲氏(後編):IoT活用を実践してメリットを体現、10年後にはIoTが当たり前の世界に

日本のIoTを変える99人【File.17】

2016.11.09

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 11月 9, 2016, 06:25 am JST

BI(ビジネスインテリジェンス)製品の「MotionBoard」を、IoT活用のツールへと変革させてきたウイングアーク1st(前編参照)。BIとIoTを連携させ、自らがIoT活用に取り組んだ事例や、顧客が実際に導入した事例も積み重ねてきた。今後の日本の産業や事業の変革にIoTがどのような影響を及ぼし、どのような役割を果たすか。同社 執行役員 BI技術本部本部長の島澤 甲氏にその思いを尋ねた。

ウイングアーク1st 執行役員 島澤 甲氏

島澤 甲(しまざわ・こう)氏
1981年2月 東京生まれ埼玉育ち。SIerとして製造業向けシステム開発に従事。その後、製造業向けパッケージの事業立ち上げなどを経て、2010年 ウイングアークに入社。MotionChart、MotionBoardの企画・開発に関わる。2014年 Dr.Sum EA並びにMotionBoard開発責任者に就任。2016年 ウイングアークのBI事業責任者に就任。現在に至る。

ウイングアーク1stはソフトベンダーであり、ハードウエアを提供するわけではありませんが、私たちはIoTを自分たちで体現することでユーザー企業に対して実際に実感できる価値を提供したいと考えています。そのため、かなり身体を張ったデモ環境を用意しているんです。

電力消費から行動履歴、遠隔洗車装置まで自ら実践

例えば、私の自宅にはサーバーが36台、UPS(無停電電源装置)が18台あるのですが、これらの稼働状況をインターネット経由でBIツールのMotionBoardから確認できるようにしています。今は、800Wぐらい電力を消費しているといったことが遠隔からわかるんですね。例えば工場で同様のことをすれば、消費電力量が可視化でき、電力の使い方を平準化したりピークシフトに貢献したりできます。消費電力が増えてしまってペナルティの料金を支払っていたようなケースも法人ではありますが、可視化できれば罰金を払わずに済む運用ができるでしょう。コスト削減というROIが明確なIoT導入のユースケースになります。

スマートフォンのデータを活用する「スマホ型」のIoT導入でも、こんな実験をしています。私のスマートフォンの位置情報を、MotionBoardで確認できるようにしているのです。通勤経路から立ち寄っている場所まで一目瞭然です。私がどこにいるかわかるということで、妻から高評価ですね(笑)。お陰で「今は渋谷駅でこれから帰る」などとLINEしなくても、駅まで迎えに来てくれるようになりました。IoT、便利です。

この仕組みを使えば、物流のトラックの位置情報の確認などは簡単です。今までも専用の装置を使えば位置情報を取ることはできましたが、かなりの投資が必要でした。BIツールとスマートフォンならば、劇的にコストを抑えて位置情報の活用ができます。MotionBoardにはBIツールとしては珍しく地図機能があります。位置をマッピングするだけでなく、配送先が10件あった場合の最適なルートを計算することもできます。ヒートマップから混雑状況を分析して経路を迂回することもできますし、運転中の速度をデータベースに記録してドライバーへ安全運転の啓蒙をすることもできます。

位置情報の機能を活用した具体的な事例としては、福井県鯖江市で行ったポスティングの実証実験があります。jig.jp、メガネスーパーと共同で2016年10月に実施したもので、メガネスーパーのチラシをポスティングする際の作業者の位置や状況をIoTによってリアルタイムに把握できるようにしました。取得したデータを基に、ポスティングのマーケティングへの有効性を検証します(報道発表資料:IoTをテーマにしたポスティング(チラシ投函)実証実験を実施)。

この夏から秋に私が休みを返上して作ったIoTシステムも紹介しますね。その思いは、「パソコンからクラウドサービスを操作したら、工場の機器が制御できたらいいのでは」というものでした。WebベースのBIツールでも、可能性としてここまでできるということを示したかったのです。そうしたときに、建物の形状などを測定できるセンサーを入手しました。そこで、私たちは遠隔制御できる「洗車機」を作ることにしました。

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これも私の自宅の駐車場に作ったのですが、センサーで自動車の形状をセンシングして、MotionBoardで制御することで、自動車の形状に合わせて洗車のノズルを動かすというものです。センサーからはボディーの形状が読み取れますので、そのデータを使って車種を判定し、ボディーから20cmぐらいのところでノズルを動かして洗車します。動画のストリーミング制御もMotionBoardの機能を使って取り込みましたから、周囲に人がいないかどうかを目視してから洗車を始めることができます。

私たちは、遠隔洗車のビジネスをするつもりではありません。機器の遠隔制御という案件があったときに、IoTの具体的な動きを自分たちが体感し、体現できるようにするための訓練なのです。洗車機の作成は、土日を使って2カ月ぐらいかかりました。もう2度とやりたくないというのが本音ですけれど(笑)。

IoTは新しく開けた世界への羅針盤

IoTを活用するには、こうやって具体的に体験していくことが必要だと考えています。ネットで読んだ情報だけでは、IoTの真価はなかなかわからないでしょう。

例えば電力の可視化などは、ユーザー企業が具体的にコスト削減などの要件を持っていると、とても「刺さる」案件になります。一方、多くの企業では、IoTを活用して何をするかという課題がもう少し漠然としている印象です。まだ明確なROIをにらんで戦略的にIoTを導入するユーザーは少ないですね。情報収集のフェーズを終えて、具体化する段階です。そういうときに、実際にデモを作って「機器の稼働状況を確認できますよ」「電力が可視化できますよ」という事例を見せると、反応が高くなります。そこからユーザー自身の課題の発見やアイデアが生まれてくることにつながります。

明確な課題感を持って、企業間の連携まで見越した取り組みも意識している企業も一定数あります。一方でIoTはこれからという企業も多いですね。ある意味で、2極化しているのが現状の日本企業のIoTへの取り組みかもしれません。

特に製造業の場合、自社だけで独自に行う領域と、他の企業と連携して実施するエコシステムの領域を、明確に意識したほうがいいと感じています。自社内で完結するIoTと、企業間のIoTでは視野がまったく違ってきます。現状は自分たちの企業のことを考えるのでいっぱいかもしれませんが、情報の流れを捉えることは必要です。今後は、インダストリー4.0などの共通のインフラに載った上で、他社と連携して在庫状況や部品の現在位置などを把握しながらオートメーション化していくことが不可欠になるでしょう。そうしたIoTの状況をキャッチアップしておかないと、後から自分たちだけで何かをしようとしても、手遅れになる危険性があります。

BIの側から見ると、IoTでは時間軸が短くなってくるところが特徴的だと感じています。これまでは日時、週次のデータ処理でよかったものが、毎分毎秒の時間軸に変わります。これは機械だからこそ扱える時間軸です。人間が張り付いてダッシュボードとにらめっこしていても無理でしょう。これまで、人間が紙を使ったりしながら行っていた工場の在庫管理や物流管理では、リアルタイムのデータ処理をしながらオートメーション化を進めることで大きなバリューが得られます。複数企業間で連携して工場の効率性が上がり、ラインが遊んでいる時間がなくなれば、ROIが明確に得られます。人件費削減といった次元を超えた価値を生み出すことができるのです。

ウイングアーク1st 執行役員 島澤 甲氏

今はバズワードとして流行していますが、IoT自体は、20年近くも前からある概念です。だからこそ、IoTを目的ではなく手段だということを理解して活用してほしいということを、繰り返してお伝えします。「IoTで何かできないか?」ではなく、「自分たちの業務がどうしたらよくなるか」のためにIoTを使ってほしいのです。

IoTは、実際のモノから得られる情報の新しい使い方を示しています。新しく開けた世界への羅針盤とも言えるでしょう。こういう情報との新しい接し方を提案していきたいと考えています。10年後には、IoTを利用した工場間の連携などは当然になっているのではないかと思います。IoTの活用で生産性が上がることは、確信を持っています。IoTをバズワードで終わらせず、日本を元気にしていけたら、それがウイングアーク1stとしての本望ですね。

構成:岩元直久

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