「ICT女子」のための「ICT女子プロジェクト」へ -炎上の原因と目指すべき方向性を考える

2016.06.14

Updated by Asako Itagaki on 6月 14, 2016, 10:26 am JST

6月9日に記者発表されたICTビジネス研究会(事務局:テレコムサービス協会)の「ICT女子プロジェクト」。その中で募集されていた「ICT48」の募集要項などが多くの批判を受け、現在サイトは一時的に閉鎖されている。なぜこのような企画が行われるに至ったのか、なぜ炎上したのか、今後はどうすべきかについて考察する。

本稿執筆に際し、事務局担当者に対してメールによるインタビューを行った。多忙な中丁寧にご対応いただいたことに感謝したい。

なお、本プロジェクトは、記者発表に先立ち、4月29日に高松市で開催された「G7 ICTマルチステークホルダー会議」中で行われた「全国ビジネスモデル発見&発表会」受賞者によるプレゼンテーションと合わせて立ち上げが発表されている。またその際に「ICT48」の公募開始についても発表され、プレゼンテーションを行ったチームのメンバーが「ICT48第一号」となることを宣言している。

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プロジェクトの主役は「ICT女子」

「ICT48」がクローズアップされているが、担当者によれば今回のプロジェクトはあくまでも「ICT女子プロジェクト」だということだ。

「ICT女子プロジェクト」は、ICTビジネス研究会で実施しているアワードやセミナー、地域活性化プロジェクトなどで女性の活躍が少し目立ってきたことを受け、「女性のアイデアを活かして地域やビジネスを活性化する」ことをテーマにしたプロジェクトとして立ち上がった。あくまでも主役は「ICT女子(ICTを用いて活動する女性)」であり、「ICT48」は「ICT女子の中でも積極的に活動し情報発信や企業とのコラボレーションなどを積極的に行っていただける方」を想定していたという。

「ICT48」の年齢を13才から24才に区切った理由は、それまでの活動の中で学生のアイデアと、社会人のアイデアが違っていることに気づいたためで、「ICT48」は学生を中心とした募集とし、25才以上については別途募集の予定だったとしている(なお、25才以上については「IoT48で募集」と一部で報じられているが、これはあくまでも一案で決まったわけではないとのことだ)。

この点について、「それなら最初から年齢ではなく学生と社会人に分ければ良かったのでは」と聞いたところ、「確かにそうなので、募集再開時には区分について再考する」とのことだった。

そもそもなぜG7での発表となったのか

担当者によれば、2015年「全国ビジネスモデル発見&発表会」表彰式後の総務大臣へのインタビューで、大臣が受賞チームについて「G7で紹介したい」と発言した(ニュアンスとしては「紹介したいなー」という感じだったとのこと)。この発言との因果関係は不明だが、後日総務省からG7会合への総務大臣賞受賞チーム登壇の依頼があり、プレゼンテーションの機会が得られることになった。

G7でのプレゼンテーションの機会を得られたため、それに合わせてICT女子プロジェクト、ICT48についても発表したとのことだ。プロジェクト発足は3月下旬だったとのことだが、受賞チームに対しては、2月23日にプレゼンテーションの依頼とICT女子の立ち上げ、ICT女子プロジェクトの発足と「ICT48宣言」をして欲しいという打診がされている。担当者によれば、打診時期については「電話で連絡したのではっきりとした日付はわからないがおそらく3月上旬頃」とのことで若干食い違っているが、いずれにせよ表彰式後からプロジェクト始動に向けた動きが始まっていたようだ。

今回、何が原因で炎上したと考えているのか

あくまでも担当者の私見としての回答によれば、(6/10のascii.jpの記事中「ビジネスモデル発見発表会の説明中にあった)「総務省後援」の文言(実際にはICT女子プロジェクトに総務省後援は無い)、サイト上にあるアップアップガールズ(仮)の写真、「48」の文言、そして総務省のツイートにより、「総務省がお金を出してアイドル的なことをやろうとしている」という憶測が広がり、その後募集内容等の要素で問題にされている、と認識しているようだ。

だからこその「サイトの内容を見なおしてプロジェクトは再開」なのだろう。

「誤ったメッセージ」の発信は、その原因が問題だ

プロジェクトの目的である「ICTを利活用する女性の活躍の場を増やすことと、女性ならではのアイデアで企業と協業し、新しいビジネスやサービスを創出すること」また、「プロジェクトを通して女性の存在感を高め、ICT産業への就業を選択する若手女性の増加を目指す」という方向性は理解できる。問題はその中身だ。

まず、「応援対象である」という「ICTを利活用する女性」の具体像が見えてこない。一番広く解釈すれば「日常的にLINEとInstagramを使って生活を楽しく便利にしている」だけでもあてはまる気もするが、経緯説明の「ICTビジネス研究会での諸活動を通して女性の活躍が目立ってきたことを受けて」という流れを素直に解釈すれば、おそらく以下のようなことを想定しているのではないかと推測できる。

・ICTを使ったビジネスモデルを考えている(コンテストに応募するなど)
・ICTを使って起業する
・ICTを使った地域活性化を実践している
・ICTを使って社会の何かを変えようとしている

だが、閉鎖前の「ICT女子プロジェクト」のサイトからは、そのような像は何も見えてこなかった。

加えてアイドルグループを意識した名称・年齢制限・「身長・体重・容姿」を問う募集用紙との合わせ技で、「ICTを活用する女性は特殊な存在」「しかも活用といいながら問われるのは年齢と容姿」というメッセージを発してしまった。しかもそれを業界団体がやらかしてしまっては、「ICT業界って女性をそう見てるのね」と思われても仕方がない。

もちろんICTビジネス研究会には、そのような意図はなかっただろう。だが「人を募集するための応募用紙」として参考にしたのが「タレント事務所の応募用紙」(活動内容を鑑みれば、普通の履歴書でも良かったはずだ)、学生と社会人の区分といいながら採用したのは「年齢による区分」という形を取ったことの過ちを、外部から指摘されるまで気づかなかったということそのものが、深刻な問題だということは指摘しておきたい。

目指すゴールの姿を描こう

「女性」に限定して応援することがそもそもいかがなものか、という意見もあるが、実態として情報通信業の就業者における女性の割合は25.6%程度と全就業人口(女性の割合は約43.0%)に比べるとかなり低くなっている(平成26年度労働調査年報による)。ICT業界を働きやすく、また持続可能な成長をし続ける業界にするためには、多様性を保つ必要がある。そのために女性就業者を増やすことを目的として、女性にフォーカスした仕組みへの業界団体の取り組みはあっても良い。

その点では、ICT女子プロジェクトが目指す、「ICT女子」を「ICT女子パートナーズ」が応援する、という仕組みは良いと思う。女性が活躍するためには、女性自身だけではなく周囲の環境や関係づくりが大事だということを理解されているように思える。

枠組みは良いとして、まず明らかにすべきは、「ICT女子」の具体像だ。女性がICT業界に夢と希望を持ち、就業したくなるためには、どのような人がどのような情報発信をすれば良いのか。ビジネスモデルコンテストからの発想であれば「学生か社会人か」で区分する、というのも分からなくはないが、「ICTを利活用して社会で活躍する」方法はビジネスモデルを考え、起業することだけではない。

企業で勤務するシステムエンジニアやプログラマーとしてさまざまなシステムを支える女性も、学生達、あるいは学生にかぎらず広くICT教育に取り組む女性も、「ICTを利活用して社会で活躍する」女性ではないのだろうか?他にもさまざまな働き方、動き方があるだろう。「ICTで活躍する」ことの多様性とその魅力が発信できてこその「ICT女子プロジェクト」だと考える。

そういう意味では、「ICT女子パートナーズ」も、「女性ならではの感性と切り口での新たなビジネス」への取り組みだけでなく、ICT女子が働きやすくなるような支援-例えば保育サービスなども含まれるかもしれない-という視点もあっても良いのではないかと思う。

プロジェクトを再開する前に、いま一度、プロジェクトが目指すゴールの姿を明確にするための議論を尽くし、情報発信のあり方を考えていただきたい。筆者自身もICT業界に長く関わってきた女性の一人として、「ICT女子プロジェクト」を応援したいと考えている。心から応援できるような形のプロジェクトとして再開して欲しいと願っている。

【関連情報】
ICT女子プロジェクト(現在は閉鎖中)
集え「ICT48」、ICTで活動する女性を募集(ascii.jp)(6/10時点でのサイトの概要が分かる)

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集長。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2013年春、長年住んだ中目黒を離れて、世界一高い電波塔の近所で下町生活を満喫中。

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