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テクノロジーでウケを取る、ニコニコ技術部とイノベーション

Why funny project will make innovation?

2016.08.01

Updated by Masakazu Takasu on August 1, 2016, 16:27 pm JST

今回はニコニコ動画上でテクノロジーを愛する活動をしているコミュニティ、ニコニコ技術部の活動が海外に広がっている様子についてレポートします。

ニコニコ技術部とは

ニコニコ動画上にテクノロジーに関する動画、多くは自分で作った作品を「ニコニコ技術部」のタグをつけてアップするこのコミュニティは「才能の無駄遣い」をキャッチフレーズに思うまま作りたいものを作り、オンライン上の同好の士からコメントや「作者は病気」などのタグをつけられることを喜びに感じるこの活動は、京都・金沢・名古屋などの各地にリアルイベントを生み、海外で作品展示を行うことも多く行われています。

先日の7月16-18日は金沢でNT金沢(NTはニコニコ技術部の英語名、Nico-Techの頭文字)では、100近い出展者が3日間にわたって作品展示を行いました。金沢での活動は金沢大学秋田研究室の活動の一環としてサポートを受けており、金沢駅の構内という誰でも立ち寄れるロケーションのなか、今年は子供が体感できるワークショップ型の展示なども多く見られました。

秋田教授は、NT金沢を開催する理由について「セレクションしない、作ってみた人全員が出せるイベントをやることで、予測できない未来が開ける可能性」について一連のTwitterで語っています。

▼NT金沢の様子。場所柄さまざまな人がテクノロジーや作品作りの面白さに触れるいいきっかけにもなっている。

■正解のあるテクノロジー

ニコニコ技術部=テクノロジーを使ってウケをとること=は、かなり高度な遊びだと思っています。

僕がはじめて「住んだことのある外国」は、2013年のジャカルタでした。2016年の今はIoTハッカソンなども開かれているインドネシアですが、当時も今も先進国ではありません。

▼インドネシア在住のギークたちとボロブドゥール遺跡を訪ねる。このとき、バイオハッカーが遺跡周辺のコケを採取していた
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首都のジャカルタでも、街中には冷蔵庫がない飲食店(屋台)が多くあります。冷蔵庫はすごい発明で、冷蔵庫がないと、野菜や肉を新鮮なまま保存することが難しいので、屋台で売っているものは揚げ物ばかりになってしまいます。

一度揚げたものをお客さんに出す前にまた揚げ直して提供するのですが、インドネシアの調理油はなぜか、日本では石けんの材料にしかならない、常温では固形化しているようなパーム油が主流です。とても胃もたれするし、健康にも悪そうに感じます。冷蔵庫が普及しきれていないことが健康にも影響しているように思います。

ジャカルタではいま地下鉄工事を行っています。地下鉄もすごい発明で、車がないと移動できないジャカルタでは、よく2kmぐらいの距離をタクシーに乗ったら1時間、みたいなことがあります。急成長中のジャカルタですが、地下鉄が開通したら街の風景はだいぶ変わり、生産性も上がってますます発展するでしょう。

テクノロジーがきちんと普及することは、人間を一気に幸せにする効果があります。発展途上国では優秀な人ほど、インフラとか「答えがきっちり見えている問題」を解こうとしているように感じます。インドネシアに住んでいる間にも、さまざまなテクノロジーイベントに参加しましたが、作品への質問の多くは「何の役に立つの?」でした。

ニコニコ技術部との親和性は高くないように感じました。たしかに、ニコニコ技術部が作っている「何かしら面白いもの」は、冷蔵庫や地下鉄と並べて比べられるようなものではありません。

正解のないテクノロジー

発展途上の国は、どうすれば良いかの正解が見えています。地下鉄や冷蔵庫のない場所は、なるべく早く行き渡るようにするのが発展への近道です。

一方で先進国は、誰かの後をついて行くわけにも行かない、道なき道を進んでいます。正解がある問題は多くがすでに解かれていて、一つの大きな課題を解くと全体が前進できるわけでもありません。もちろん研究所など、優秀な人の集まりも蓄積も、先進国には多いのですが、社会が複雑になりすぎていて、解くべき問題を見つけることも難しくなってきたりしています。

「面白くすること」はそこへの、一つのヒントになりえます。

メイカーフェアを世界で最初に始めたメイカーメディアのデールはイノベーションについて、「一番いいイノベーションは趣味、ホビーとしての世界で、考えるよりも本能のままに作ることから始まる」と答えています。

2012年のこのインタビューには、「イノベーションを生み出すのは“Play”、あくまで遊び感覚からだと思っている。アイデアを思い付く最初の段階で、『ビジネスとして、成功するか、失敗するか』なんて考えていると、新しい発想は出てきづらい(笑)。『俺の作ったロボットを見て、ビックリした人が、どんな顔をするかな?』みたいなことをスタート地点にしている。」「作ることと遊ぶことの境目を曖昧にする」など、まるでニコニコ技術部の部員に聞いたような話がいくつもでてきます。

ニコ技の作品そのもの、また作品を作るプロセスに現れている「ウケることの楽しさ」、そこから生まれる(かもしれない)イノベーションは、複雑になり、袋小路に見えかねない世界に、新しい答えを与えるかもしれません。

▼先進国のほうが、「作ってみた」についての理解が深い。これはメイカーフェアシンガポールで、電動ドリルを使ってゴーカートにしてみたもの

世界はニコ技を待っている

僕を発起人とした何人かは、「ニコ技輸出プロジェクトと」して、海外のメイカーイベントへのニコ技からの共同出典を行っています。具体的にやっているのは、共同出典としてブースを多めに申し込み、出展費を割り勘することで、現地までの交通や宿泊は各自が行っています。

特に台湾は日本から近く、関西方面からだとカルチャー的にも予算的にも、メイカーフェア東京に出すよりむしろ手軽に出展できるフェアとして、今年は20人近くが出展・見学に訪れました。台湾は技術力の低いロボット選手権、ヘボコンが大人気だったり、メイカーフェア内で「役に立たない自作ガジェット選手権」が開かれるなど、面白がるセンスについてもかなり日本と親和性のある国で、台湾からメイカーフェア東京への出展者も多く、年に2回会い続けるコミュニティが生まれつつあります。

▼メイカーフェア台北への出展者たち。撮影してくれたのは、隣のブースで出展していたSeeedの社長エリック・パン氏
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シンガポールでは2015年に共同出展したニコ技ブースに前述のデールが訪れ、優れたメイカーを表彰するMakerMeritのブルータグを渡していきました。2016年には、「一緒にメイカーフェアを盛り上げるコミュニティパートナー」として、シンガポール内のいくつかの機関/団体とともにニコニコ技術部が表彰され、ヤコブ・イブラヒム情報通信大臣からCertificationをいただく栄誉にも預かりました。

▼メイカーフェアシンガポール2014にて、ニコニコ技術部ブースを訪れたデール氏
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次回のニコ技共同出展は、おそらく10月21-23日のMakerFaire深センになると思われます。また、来年も台湾とシンガポールでは共同出展が行われるはずで、さらに拡大した出展になるでしょう。

袋小路に入りがちな進化に、新しい可能性をもたらす可能性がニコニコ技術部にはあるように思います。

告知です:
2016年8月12-14日で開催されるコミックマーケット90の3日目、サークル「つくってクワクワ」(西地区“f”ブロック-56b)にて、台北・シンガポール・深圳・ベルリンなどで出展してきたニコニコ技術部の海外メイカーフェアでの体験記についての同人誌が出版されます。僕はそのとき深圳への出張中でブースにいないのですが、ニコ技輸出プロジェクトの発起人として、この文章と同様のテーマの記事を寄稿しています。ぜひ訪れてみてください。

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高須 正和(たかす・まさかず)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、メイカーズのエコシステムという書籍に活動がまとまっています。ほか連載など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264