WirelessWire News Technology to implement the future

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2年ほど前、クラウドファウンディングに登場した、CicretやRitotというガジェットがある。手首に腕時計やブレスレットのように装着し、小型の光源から腕の皮膚に映像を照射するという「未来的」な機能を持ち、利用シーンの映像も公開されていた為、メディアの注目を集めた。

Ritotは時刻など比較的少ない情報のみ表示するのに対して、Cicretはスマートフォンの画面全体がカラーで表示され、屋外でも浴槽の中でも、手首をくるっとひねるだけで、腕の手首寄りの部分がタッチスクリーンとして使えるとしていた。単に照射するだけでなく、センサーが指の位置を読み取って、メッセージを読んだり画像を見たりするだけではなくて、メールを送るためにソフトキーボードから文字を入力することもできるという。

しかし、残念ながらクラウドファウンディングで人気を集めたこれらの製品は、新しもの好きの人々の手元に届くことはなかったようだ。YouTubeで2,600万回以上再生されたCicretの映像は、実は合成だったのだ。非常によくできていたが、例えば操作する指の影が映像を隠さないなど不自然な点は多かった。Cicretはプロトタイプの本物の映像も公開しており、こちらは合成映像とは程遠く、文字や大きなアイコンが辛うじて映し出されているだけだ。

手首にほぼ密着した光源から水平に映像を投影するには、映像そのものを大きく歪ませる必要がある。床面に置いたプロジェクターの映像を床面に映すようなものだからだ。また、筋肉や血管、毛穴などで、さまざまな凹凸のある腕の表面は、個人差もあるし、昼間、屋外でも見えるくらい明るい、つまり強い光を出すためには、ブレスレット自体に強力な光源と、それを支える電池が必要になる。さらに、アイコンをタッチしたり、文字をキーボードで入力する指先でタッチした場所を読み取るためには、複数のカメラを使って3次元で場所を捉えるなどの工夫が必要なはずだが、手首にほぼ密着したブレスレットに仕込んだセンサーで正確な場所を読み取るのは難しい。

これら実現性の難易度に比して、それでもRitotやCicretが大きな評判を呼んだのには、やはり理由がありそうだ。

ガラケーと言われたフィーチャーフォンに比べて、スマートフォンは片手で取り出して操作するには、大きすぎる。ポケットやバッグから取り出して電話に出たり、メッセージを読むのが大変だと思っている人が多いということだろう。逆に、スマートウォッチは小さすぎる。腕時計の文字盤に、アルファベットや数字、記号が表示されて、それを1文字ずつ指先でタッチするのは難しい。Pokémon GOをやっても、指先で上手にポケモンを捕まえるのは難しいだろう。ユーザーインタフェースとして、スマホは大きすぎてスマートウォッチは小さすぎるから、腕や手の甲、掌といった、凸凹はあるものの、やや平らな面が利用できるとなると、待ってましたと飛びつく人が多かったのだろう。

今は、腕や手を情報の表示ではなく、入力、つまり、タッチパッド代わりに使う研究が盛んだ。カーネギーメロン大学のフューチャー・インタフェース・グループの研究者が作っているSkinTrackは、腕や手の甲を指先でタッチして、アイコンをタップしたり、電話番号の数字を入力したり、指先を動かして、ローマ字を描いて入力したり、Angry Birdを飛ばしたりすることができる。

指の動きに応じてデモ用のスマートウォッチの画面は移り変わるけれども、腕にも手の甲にも何も表示はされない。その代わり、入力に使う指に、高周波の電気信号を出す指輪を装着するのだ。スマートウォッチの方には電極が2つの電極が2対、アナログ時計の文字盤なら、12と6、3と9の位置に合計4個ついている。指が腕のある場所に触れると、1対の電極に信号が到着する時間がほんのわずか異なるので、その位相の差を使って、電極からの距離が分かる。2対を使えば、縦方向と横方向の距離が分かるので、位置をピンポイントに決めることができる。99%の正確さで判別が可能で、平均誤差は7.6mmとのこと。

もちろん、すぐに製品化されることはなさそうだ。まず、人差し指にはめる指輪が長時間、高周波信号を出すようにするためには、電源の問題などをクリアしなければならない。また、皮膚を伝わる電気信号を使うため、汗や空気中の湿気なども問題になるはず。それでも、プロジェクターとカメラを使って入力も出力(映像の表示)も両方行うのに比べて、入力だけに腕や手の甲を使う方が、ずっと現実味がある。

もっとも、手の甲でポケモンのバトルが可能になっても、歩きながら操作することは安全面から避けた方がよさそうだ。

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