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今週金曜日に発売になる新型iPhone---「iPhone 7」と「iPhone 7 Plus」について面白い指摘の書かれた記事を見つけたので簡単に紹介したい。具体的な話題のネタは「iPhone 7 Plus」に搭載されるデュアルレンズカメラとそしてだいぶ物議を醸している「AirPod」(ワイアレスヘッドフォン)のふたつ。ネタ元は下記の記事である。

What the iPhone 7 tells us about the future of Apple - Recode

Beyond The iPhone - Stratechery

アップル(Apple)が「iPhone 5S」(2013年秋発売)で初めて搭載した「Touch ID」(指紋認証センサー)を布石にして、1年後に「Apple Pay」のサービスを投入していたことは改めて説明する必要もないかもしれない。ここで注目するデュアルレンズカメラとそして「AirPod」に関する記事は、いずれもこの「Touch ID」ー「Apple Pay」という流れ、あるいは展開を踏まえているところが共通点で、1年後あるいはもっと先に「(Appleの製品やサービスが)こうなっているかもしれない」という可能性を示したものといっていいかもしれない。

デュアルレンズカメラの先にあるVR

まず、ある程度確度の高そうな「デュアルレンズカメラはVRを見据えた布石」というのは、上記のStratecheryとRecodeの記事の両方で指摘されていることで、アップルはいまのところ「標準と望遠のふたつの焦点を選べる」「おかげで、これまでスマホのカメラでは難しかったボケ味(ボケ、”Bokeh”)がうまく表現出来る」ことなどを売り文句としているようだが、被写体の深度情報(奥行き)までキャッチできるこの仕組みはそのまま3Dイメージの撮影に使え、また撮影されたイメージはVRコンテンツの作成に利用できる、というもの。Recodeでは、このデュアルレンズカメラが「iPhone 7 Plus」という器に盛られて広く普及することで、アップルは「RealSense」技術を擁するインテル(Intel)や「Project Tango」を進めるグーグル(Google)、あるいはジェスチャー操作の仕組みを開発するリープ・モーション(Leap Motion)あたりと同じ土俵に立てるとする専門家の意見が紹介されている。

アップル自体は3DやVRに関して、これまでに関連技術を手がけるベンチャー企業をいくつか買収したり、あるいは経営幹部が「大いに関心がある分野のひとつ」などと口にするだけで、他社---例えばグーグルやフェイスブック(Facebook)のようにそれ自体を前面に打ち出した技術や製品をリリースしたことはない。けれども、たとえばスティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)が亡くなる少し前にライトロ(Lytro)のCEOを呼んで話を聞いていたというエピソードなども以前に出ていた。そうした点を考え合わせると、アップルとしてはかなり以前からこの分野に目をつけていたとの可能性も考えられる。

「AirPod」はボイスコンピューティングの「トロイの木馬」

「AirPod」に埋め込まれた将来への布石のほうは、デュアルレンズカメラのそれと比べると、すこし発想の飛躍が必要と思えるものだが、簡単に言ってしまえば「あれは単なるワイアレス・ヘッドフォン(音の出口)ではなく、音声をユーザーインターフェイスとするボイスコンピューティングの実現を視野に入れたもの(入力の接点)」ということになる。

そのあたりの点については、現在アンドリーセン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz、有名VC)でアナリストをやっているベネディクト・エヴァンス(Benedict Evans、元々は携帯通信業界が専門のジャーナリスト)の下記の指摘がいちばんわかりやすいかもしれない。

「Airpodは実際のところ、いろんなセンサー類やマイクロフォンが搭載された小さなコンピュータで、Siriを利用するためのユーザー接点(略)。「Airpod」は「iPhone」のほかに「Apple Watch」にも接続できる(略)そして「Apple Watch」の開発ロードマップには(単独での)携帯通信網への対応というのがある(略)将来のコンピュータ利用で音声が大きな役割を演じると考えると、「Airpod」には音楽再生以外にたくさんの使い途があるはずだ」

Benedict's Newsletter: No. 176

Stratcecheryのベン・トンプソン(Ben Thompson、独立系アナリスト)もエヴァンスと同様の見方をしていて、「いずれ「Apple Watch」が携帯通信網と直接つながり、そしてWatchとつながった「Airpod」がユーザーとの接点の役割を果たすようになれば、iPhoneを持ち歩く必要ははるかに小さくなる、などと指摘している。

アップルが「Apple Watch」への携帯通信用チップ搭載を目指しながら、いまだに消費電力などの問題が解決できておらず、今回発表した新型には搭載を見送ったとか、この問題の解決に向けて独自のチップ開発の下準備となる調査を進めている、というのは8月半ばにBloombergのマーク・ガーマン(Mark Gurman)が伝えていた通りだが、いずれにしても「iPhone」の売上が全体の約3分の2くらいを占めるいまのアップルにとって、そんな「iPhone」をふくめた携帯電話機が必要ではなくなる未来というのはいささか怖い世界であるのは間違いなく、製品発表のなかでヘッドフォンジャックを省いた決断について「勇気("courage")」という大げさな言葉を使い、そのために一部で嘲笑されてもいたフィル・シラー(Phil Schiller)には、実はそうした「怖い世界に足を一歩踏み出した」との思いがあったのではないか、などと推測していたりもする。

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