レンジャーシステムズ 執行役員 木村秀一氏

レンジャーシステムズ 執行役員 木村秀一氏(後編):一般にもわかりやすいIoTを思考、トイレの空き状況提供から広がるアイデア

日本のIoTを変える99人【File.015】

2016.09.21

Updated by 特集:日本のIoTを変える99人 on 9月 21, 2016, 14:00 pm JST

レンジャーシステムズは、IoTコネクティングサービス「monoコネクト」で、IoTを利活用したい企業に対して、コストの壁を引き下げサービス設計の自由度を高めた(前編参照)。IoTを普及させるための次の一手として、同社は一般にわかりやすいIoTをソリューションとして提示する方策を実行している。同社執行役員 monoコネクト事業部 部長の木村秀一氏は、「トイレの空き状況提供」からはじまるIoT普及戦略を掲げる。

レンジャーシステムズ 執行役員 木村秀一氏

木村秀一(きむら・しゅういち)氏
大手通信事業者で伝送・IP系のエンジニアとして8年間技術を学び、その後はベンチャー企業のネットワーク構築リーダーなどを経て、2002年BBテクノロジー(現ソフトバンク)に入社。ADSLネットワーク・固定回線ネットワーク・無線系エリア構築などのプロジェクトマネージャーとして新規事業の立ち上げなどに多数関わり、2014年ベンチャー企業でBLEを軸としたIoT事業を立ち上げ、2016年3月よりレンジャーシステムズに参画。IoT事業責任者として「monoコネクト」を立ち上げ、デバイスの開発・IoT事業の推進を行っている。

IoTコネクティングサービス「monoコネクト」の提供に当たり、社内で様々なディスカッションを行いました。IoTに利用するセンサーやゲートウエイを提供する上で、コストの削減やサーバー設計の自由度を高めることは必須条件でした。この条件をクリアしたところで、次はどのようにしたらIoTが普及してmonoコネクトが売れるだろうかという課題がありました。

様々なディスカッションをしたところ、「世の中的に、IoTってわかりにくいよね」という意見が出ました。IoTと言われても、多くの人は自分とは関係ないことと考えがちです。一般の人にもわかりやすいIoTとはなんだろうか、それを提示できればIoTが普及するのではないか――発想をそのようにシフトしてみました。

トイレの空室がわかれば「危機回避」

当時、monoコネクトの製品として、マグネットセンサーを作ることを企画していました。独居老人などの見守りをするために、トイレのドアの開閉状況などをマグネットセンサーで検知しようと考えていたのです。そこで、はたと気が付きました。「トイレか。待てよ」。急な用事でトイレに駆け込んだとき、個室が満室で困ったことがある人は多いでしょう。トイレの個室の空き状況が情報として得られれば、わかりやすいIoTのソリューションになると考えたのです。

そうして作ったのがリアルタイムトイレ空室検索「トイレsearching」です。オフィスやショッピングモール、駅などのトイレに、マクネットセンサービーコンを取り付けて、扉の開閉状況のデータを取得します。そのデータをゲートウエイ経由でサーバーに転送し、トイレのリアルタイム空室状況をモニターできるようにします。トイレ利用者は、スマートフォンなどから今のトイレの空室情報を確認できるため、「ようやくたどり着いたトイレが満室だった」という危機的状況を回避できます。

またトイレの個室の利用時間なども見える化できる事で、トイレの中で倒れてしまった人の早期発見や犯罪の抑制など新たな付加価値的なサービスも見いだせるようになりました。現在トイレsearchingは、レンジャーシステムズの本社のトイレにも設置していてホームページ上で公開しています。このサービスは、オフィスビル・商業施設や交通系の事業者などを中心に高い評価をいただき、すでに数十社と共同で導入の検討を進めています。早いところでは、2016年秋ごろには実際のサービスが開始される見通しです。

トイレの空室状況がわかるソリューションを、マグネットセンサービーコンを使って開発していたところ、トイレの課題は空室状況だけではないこともわかってきました。それが、混雑状況です。慢性的にトイレに並んでいるような場所では、満室であるだけでなく、トイレに入れるまで何分ぐらいかかるかわかりません。何人が待っているのか、そうした情報を提供できないかという課題です。

待ち行列searching マットセンサー

カメラを付ければ比較的簡単に待ち行列の人数をカウントすることができます。しかし、場所がトイレですからプライバシーの観点でカメラを設置するのは難しい。そこで考えたのが、マットセンサーを使って待ち行列の状況を把握する方式でした。マットセンサービーコンをトイレの待ち行列に並べることで、その上に立って待っている人の存在を検知し、ゲートウエイを介してサーバーにデータを送信しおよその混雑状況を見える化します。センサー情報で人数カウントや滞留時間を確認できるIoTソリューションで、これがリアルタイム行列検索サービス「待ち行列searching」の元になりました。待ち行列searchingも、現在、お客様と実用化に向けた検証しているところです。

目的はソリューションを提供することではなくIoTを知ってもらうこと

IoT関連でこうした活動をしていると、「トイレ屋さんなの?」といった質問を受けることも多くなってきました(笑)。もちろん、トイレのビジネスをするわけではありませんし、ソリューションを提供することが目的ではないのです。レンジャーシステムズでは、IoTを使ったアイデアを実現してサービスを提供しようとするお客様に対して、使い勝手の良い低コストなデバイスを提供することが1つの目的ですし、MVNOプラットフォームと組み合わせたシームレスなIoTソリューションを導入してもらうことも目指しています。

ただし、今は「IoTを知ってもらう」ことが重要だと思っています。待ち行列searchingなど検証をしていると、お客様からもアイデアが出てきています。例えば、マットセンサーを改良して椅子の座面の下に敷くことで、その椅子の着席状況がわかります。レストランの空席状況をリアルタイムの着席状況から分析することもできますし、椅子やベッドなどのサンプルをイベントで展示した際に何人が試用したかを測定することもできます。IoTでできることを知ってもらうと、現場ではこんなことも出来るのでは?といったアイデアが次々に生まれてきます。

IT業界に従事している側からすると、従来あるモノにセンサーなどを付けてIoT化すると、どのように効率的になるかといった発想をしてしまいがちです。でも、前面に技術やIoTが押し出されると、異なる業界の人にとってなかなか現実のものとして感じにくいようです。もっと一般の人に身近なところ、わかりやすいところから、IoTソリューションを広めていくことで、IoT普及の大きな壁が崩れるのかなと思っています。

「身近」を、IoTを普及のキーワードとして考えたときに、どうしても立ちはだかるのがコストとROI(投資対効果)です。今までも、トイレの空室状況を示すIoTソリューションは技術的には簡単に実現できました。しかし、トイレの見える化に50万円といった投資をすることできないのが一般的でしょう。トイレsearchingならば、4個室で導入コストは数万円、毎月のランニングコストが数百円ぐらいです。トイレの空き状況表示という付加価値の提供が現実のものにできるかできないかの差は、コストが大きなファクターになっていると考えます。

そして、IoTへの投資が、事業にどのような効果をもたらすのかの指標となるROIを設定することが必要でしょう。低コストであっても、ROIを示せないサービスは普及しません。アイデアを広げて、そこから生まれるROIをいかに上手く見せていくか、これがIoT推進のカギになりそうです。

LTE版のゲートウエイでビジネスにシナジー効果を期待

レンジャーシステムズ 執行役員 木村秀一氏

monoコネクトのBLEゲートウエイ製品には、これまで提供してきたWi-Fi版に加えて、モバイル通信が可能なLTEカテゴリー1実装版を今秋に市場投入します。これにより、Wi-Fi設備のないような場所でも、手軽にIoTソリューションを実現できるようになります。イベント会場の仮設トイレなどでも、トイレsearchingが実現できるわけです。

LTE版の提供によりレンジャーシステムズとしては、MVNOに低コストで参入できるプラットフォーム「わくわくモビリティ」とのシナジーが期待できます。センサーからゲートウエイ、ネットワーク、そしてクラウドやサーバーまで、一括したサービス提供を支援できるのです。多くのお客様にMVNO構築を支援してきたこれまでの経験やノウハウがそこで生かせると考えています。

IoTソリューションを活用したサービスを検討する企業は、モバイル通信回線を提供するMVNO事業も含めて、一括したサービスを構築してユーザーに提供できるわけです。もちろん、低コストのIoTデバイス単体で活用してもらってもいいですし、フルパッケージとしてのサービスを利用する選択も検討してもらいたいと思います。

トイレに続く身近なIoTの第3弾、第4弾のアイデアはすでに熟成が進んでいます。実際にサービスを提供するお客様と手を組んで、エンドユーザーにIoTを身近に感じてもらえるソリューションをどんどん出していきたいと思います。その時、レンジャーシステムズの名前は表には出ないかもしれません。でも、今は黒子でいいんです。私たちは、自身のビジネスとしての成功はもちろんですが、それより今はIoTの普及活動に貢献できることに強く意義を感じているからです。また自社だけで閉じた考え方にとどまらず、ウフルが事務局として運営しているパートナーコミュニティにも積極的に参加をしています。様々な企業との「協創」はアイデアや課題解決などにおいて、今後ますます重要であるとも感じています。

構成:岩元直久

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