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実用化に向けたチャレンジが続くセマンティック・ウェブのこれから -ISWC2016 基調講演-

2016.10.28

Updated by Yuko Nonoshita on October 28, 2016, 15:00 pm JST

セマンティック・ウェブをテーマにした国際学会「ISWC 2016/International Semantic Web Conference」が神戸市で開催された。15回目となる今回は12年前の広島以来、日本では2度目の開催となり、最終日の基調講演にソニーコンピュータサイエンス研究所代表取締役社長の北野宏明氏が登壇した。

AIがノーベル賞を獲るためのグランドチャレンジとは

セマンティック・ウェブとは、ウェブ上でやりとりされるさまざまなデータをコンピュータが理解できるようメタデータ化したり、フォーマットを標準化することで、情報の効率や利便性を高めるというもので、WWWを考案したティム・バーナーズ=リー氏によって提案された。インターネットが膨大な情報の意味を理解できるようになれば、自然言語を理解して人と対話したり、AIやロボットの開発にも活かされるようになる。

実際、ここ数年でセマンティック・ウェブに必要な情報量と通信インフラ、そしてマシンパワーが揃ってきたこと、さらにネットワークセンシングや画像認識、ビデオカメラの技術が向上したことで、AIやロボット関連の技術は飛躍的に進化している。「セマンティック・ウェブの研究が進み、さまざまな分野で情報がマークアップ言語化されることで、コンピュータはシームレスに話し合い、互いを理解し、人の手でやってきたことができるようになっている。インダストリー4.0やバイオハックモデルはそうした結果の一例で、マシンラーニングは当たり前の時代になってきた」という。

▼93年に北野氏らが提唱したロボットによるサッカー競技を「ロボカップ」も急速にレベルアップしているという。
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90年代後半から今年発行されたシステム生物学の分野に取り組んできた北野氏は、2050年までにAIがノーベル賞を獲る日が来るだろうと予言していいる。そのためにはビジョンとリーダーシップ、セオリー、マネジメントなどの要素が必要であり、テクノロジープラットフォームとしてデータの国際標準化が不可欠だとしている。「生命科学の分野では毎年150万本以上の論文が発表されており、人間が査読する限界を超えている。それらをコンピュータリーダブルにする研究も必要」と言う。ただし、コンピュータが自然言語から推測、分析する技術は向上しているが、パターンや統計分析を行うのはまだ難しく、それらを補うためのマッピングのアイデアを考える”マップソン”などが行われていることが紹介された。

▼北野氏は人工知能学会誌にAIがノーベル賞を獲る可能性があることを発表しており、課題に向けた取り組みが始まっている。
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システムやツールの開発も進んでおり、それらを運用するオープンイノベーションのための組織も設立されている。ネイチャー・パブリッシング・グループとの提携で運営されているシステム・バイオロジー研究機構では、GARUDAというビッグデータとマシンラーニングで知識を発見する医療を目指すプラットフォーム「GARUDA」などが運用されており、こうした場を活用しながら課題に挑戦し続けることが大事だとISWCの参加者に呼びかけた。

▼膨大なデータを医療に活かすためのシステムやプラットフォームの開発も進められている。
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学会は企業参加も増え、実用的な発表が増える

北野氏の基調講演からもわかるように、セマンティック・ウェブは身近な技術になりつつあり、日本でも注目を集めている。

ISWC全体の今年の傾向について、ホスト役(ローカルチェア)を務めた国立情報学研究所の武田英明氏は「12年前の広島では技術的な発表が多かったが、セマンティック・ウェブの認知が進んだことで実用的な使い方に関する発表が増えたように感じた」とコメントする。オントロジーやメタデータに関する発表が目立った一方で、「データのクオリティコントロールを高めるツールというような発表もあり、全体的に基礎研究と応用のバランスがとれてきたのではないか」ともしており、セマンティック・ウェブの必要性が高まっていることを伺わせる。実際に企業からの参加も増えているようだ。

また、セマンティック・ウェブに不可欠なオープンデータについても一般的に認知が拡がっており、今回は開催地の神戸市と連携してオープンデータを活用したアプリ開発を行ったり、VLED(一般社団法人オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構)と総務省の主催による「オープンデータシンポジウム」(別記事にて紹介)も併催された。

日本でもようやく注目を集めてきたセマンティック・ウェブ。ISWC2016開催についての報告会は11月10日に開催される「第40回セマンティックウェブとオントロジー研究会」で行われる。

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。