ハウステンボス株式会社 代表取締役社長 澤田秀雄氏(後編) スピード感ある実地での実証実験が、運用実現への第一歩
ヒトとモノを巡る冒険 #005
2016.11.24
Updated by 特集:ヒトとモノを巡る冒険 on November 24, 2016, 07:00 am JST Sponsored by ユニアデックス株式会社
ヒトとモノを巡る冒険 #005
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「モノ」「ヒト」「サービス」の3つの分野で先進的な取り組みをされている企業様へのインタビューを通し、IoTがもたらす未来とそこまでの道筋を描きだすことに挑戦する本特集『ヒトとモノを巡る冒険』。第5回目は世界初のロボットホテルとして注目を集める『変なホテル』をオープンさせた、ハウステンボス株式会社 代表取締役社長 澤田秀雄氏に、ユニアデックス株式会社 山平哲也が、お話をうかがいました。(構成:WirelessWire News編集部)
山平:ハウステンボスの中にホテルは5つありますが、実験的なことをやられているのは『変なホテル』だけなんでしょうか。残り4つのホテルのスタッフの方々は、『変なホテル』での取り組みをどう受け止めてらっしゃるんですか。
澤田:実験的なことをやっているのは『変なホテル』が9割ですね。みんな、脅威とまではいかないけど、「こんなに生産性が上がるのか」とプレッシャーは感じていると思います。「今自分たちは50人でやってるのに、なんであいつら6人でやれるんだ」と。本当にあんなサービスでお客さんが付くのかどうか、オープン当初は斜めで見てたように思います。でも1年経って、「これはひょっとしたら面白いかもしれない」という目で見てるんじゃないですかね。世界一生産性が高くなって、競争力が抜群になっていますから。
▼『変なホテル』外観 写真提供:ハウステンボス株式会社
山平:『変なホテル』で働いている方と、それ以外のホテルで働いている方はローテーションで勤務されるんですか。
澤田:『変なホテル』専属です。『変なホテル』は最初、ホテルを知らない人間だけで始めたんです。最近、サービス面を向上していかなくちゃいけないので、ホテルの人間を1人入れましたけど、最初はホテルの従業員を一切使わなかった。
山平:それはどういう意図だったんですか。
澤田:既成概念に捉われないためです。「これはこういうもんなんだ」と思うと改良出来なかったりします。多分、今までのホテル業者さんには、ああいうホテルは考えられないと思います(笑)。ただ、利益はどんどん上がってくるからね。経費がかからないから。僅かオープンから半年で、自分のホテルの何倍もの利益が出るようになれば、脅威に感じますよね。
我々のコンセプトは、実証しながらちゃんと儲ける、ということ。実験ではなく実証。利益が出ないと次の設備投資が出来なくなりますから、利益が上がらないと意味がない。利回り20%で回ると5年で償却できるからそこを目指そう、とか、そういう計算で作るんです。そうでないとただ作って、実験場で終わってしまう。我々はビジネスをやっていますから、利益が出ないと次のステップに進めないですからね。
ですから、これから我々がやらなきゃいけないことは、もっと生産性を上げるということ。オープン当時はスタッフが30人弱いました。1年経って10人に減り、今は9人になっています。生産性は倍以上あがったんですけど、あと半年以内に6人に減らし、目標としては最終的にはほぼ1人であのホテルを回す計画を進めています。
今はセンサー技術がどんどん発達しているので、センサーを至る所に付けまくって、10店舗くらいまとめて1人で管理出来るような時代がくると思いますよ。
山平:そうですね、我々がIoTという枠の中でやらせていただいていることでも、似たような事例はありますね。
澤田:『変なホテル』が10店舗、20店舗になって来た時には、どこか一箇所にコントロールセンターを作って、そこに全部の情報が来て、映像も全て見られるようにして。なにかあったらそこでコントロールして、ダメだったら近くの誰かがピッと走るとか……そんなふうになったら、ほとんど究極に近いホテルになってくると思いますね。
▼『変なホテル』フロント
山平:インタビューにあたって、いくつか著書を読ませていただいたんですけれども、過去にいろんな国を旅行されておられます。その頃にこういうホテルが日本じゃなくてどこかの国にあったとしたら、どうお感じになったと思いますか。
澤田:まぁ、1回は泊まってみてもいいかなと思いますけど、2回泊まるかどうかは、ホテルが面白いか、もしくは値段がむちゃくちゃ安いか、ここ次第だと思います。
山平:その目線で見た時に、今の『変なホテル』は60点ということですね(笑)。
澤田:そう、60点(笑)。だからやっぱり、もうちょっと面白くないとね。来年3月、舞浜にオープンする『変なホテル』2号店は、全然タイプの変わったものを作ろうと思ってます。面白くなりますよ。フロントも全然違います。今、詳しく言えませんけど、場所がディズニーランドのそばですから、ディズニーランドにいらしたお客さまに喜ばれるようなフロントになります。
システムも今やっていることの集大成ではなく、ここでやっていることをより効率化したものを導入します。今まで使ったこのハードウェアは1,000万かかったけど、よく調べたら100万くらいで入るかなとか、このシステムはいらないじゃないかとか、そういう無駄を全部削ぎ落としたものが、2号店としてオープンします。
山平:ホテルの雰囲気も、こことは違ってくるのですか。
澤田:全然違います。1号店と2号店、両方行って面白かったら「じゃあ5号店はどうなっているのかな」って、行きたくなるでしょ。鉄人28号じゃないけど(笑)1号から28号まで進化していきます。まるっきり同じだったら「もう知ってるから泊まらなくていいや」ってなる。値段が安かったら泊まってもいいけど、べつに他でもいいじゃないかと。だから、全部タイプ変えてやろうと思ってるんですよ。『変なホテル』だから。その方が面白いじゃないですか。
山平:3号店の場所も決まっているのですか。
澤田:これも決まっていて、愛知県蒲郡市のラグーナテンボスに来年の7月、オープンします。
山平:近くにテーマパークがある、お客さんが集まるところでちょっと別の体験をしてもらおうというコンセプトですね。
澤田:そうそう。でもここ(ハウステンボス)は西の端なんで、あんまりお客さん来ないんですけどね(笑)。
山平:ハウステンボスには今回、初めて来ました(笑)。
澤田:初めて来ていただいて、ありがとうございます(笑)。
でも今後は、テーマパークの側だけじゃなしに、都市や海外にも展開していきます。そのためにはやっぱり、満足度を上げていかないといけない。だから新しい展開では温泉を付けてみよう、とか、いろいろ計画しています。いったい何が理想的な『変なホテル』なのかっていうのは、まだまだ試行錯誤するんじゃないですかね。
『変なホテル』はフランチャイズでもやる予定ですが、やっぱり3店舗くらいで利益が上がって、生産性が高くて、お客さんの満足度もある程度取れるという実証ができていないと、参加していただく方にご迷惑をかけてしまいます。(今までここで)1年間365日やってみて、ほとんどロボットは潰れませんでした。満足度はいろいろな意味でどんどん向上させていかなくてはいけないし、ロボットももっと進化させなくちゃいけないんだけど、とりあえずほぼOKということが分かった。ですから、ここが始まりで、将来的には100店舗以上の展開を計画しています。
▼クロークロボット
山平:『変なホテル』ではロボットを中心に使われていると思うんですが、今後2号店、3号店と展開していくにあたって、こういう技術分野、こういう動きに注目している、というのがあれば教えて頂けますか。
澤田:いま世界に、ロボット企業がどんどん出来てきてますよね。アメリカ、カナダ、ヨーロッパ……。最先端の技術をもった世界の会社と業務提携していこうと、弊社も動き出しています。今どんどんテクノロジーが発達して、面白いものがいっぱい出来あがってきていますから、我々はそれを実用で使って、改良してもらう。うちがゼロから作ると時間がかかっちゃうので、世界の優秀な企業と組んでいく。その計画を今、進めているところです。
山平:ロボットというのが、今後進化を続けていくための重要な技術ということですね。
澤田:このロボットが、IoT、AI、これらと重なってくると思います。センサーも、より小さく、より性能良く、どんどん進化しているし、CPUもどんどん安くなっています。それの実証実験をどんどんここでやれば、今後は面白いかなと思ってます。使えば、問題点はすぐ分かります。ドローンなんかもそうですよね。実際に使わないと分からない。
ハウステンボスは私有地ですから、規制が少ないので簡単に実験ができるのが良いところです。安全面のチェックをして、我々が決済したら「明日からやれ」って言えますから。面積はモナコくらいの広さがありますし、ホテルも5つあります。店舗もあるし、レストランもあるし、あと発電所もある。1つの都市のようなものなんですね。ここで実際に実証実験をやってみて、ダメだったら、変えるか、辞めればいい。
今の技術の進化というのはものすごく早いですから、そのくらいの速度でやっていかないと。実証実験やってみないと、使えるか使えないか、分からないんです。カッコいいんだけど、人が常に隣にいなくちゃいけないとか、3時間くらい使うとモーター焼き切れちゃうとかね。我々がロボットに働いてほしい場所はホテルですから、24時間くらいは働いてもらわないとダメなんですよ。
フロントロボットになぜ現行機を採用したかというと、あれが365日、24時間潰れないからです。これが特徴。3時間で止まったら、実用面では使えない。だから、実用実験で使ってみるのが一番早いですね。それを踏まえてそれを企業に投げかければ、改良していくんじゃないですかね。
▼『変なホテル』外観 イーストアーム 2015年7月オープン(建築:東京大学生産技術研究所) 写真提供:ハウステンボス株式会社
山平:最後に、ITサービスを提供している我々のような企業に、どのようなご期待があるかお聞かせください。
澤田:ハウステンボスというのはひとつの都市ですよね。この都市をもっと住みやすく、もっと生産性をあげるためには、どういうことをやればいいのか、というご提案を頂けると、嬉しいですね。我々としては、今スタッフが千何百人いますが、これを3〜5年で半分にしようとしています。その為には、ロボット化、IoTをやっていかなくちゃいけない。でもウチだけで考えるのは限度がありますから。
「こういうことをしたら、この場内は素晴らしいIoTが使われて統計がキチッと取れてかつ将来の生産性が上がる」とか「場内の人の管理がバッチリわかりますよ」とか。あまりお金がかかりすぎることはできませんが(笑)ご提案いただいたものを受け入れるか、あるいは、共同開発のような形も考えられますね。
山平:実際に実験をしながら、使えるかどうか考えるということですね。これまでも、いろんな企業さんとのコラボレーションで仕組みを作られていたり、一部、実験的な取り組みを進められていると思いますけれども、そういうアプローチを今後も続けていかれるのでしょうか。
澤田:そうですね。プロジェクトチームは、各企業の技術の人、大学の研究者、各研究機関の方々に来ていただいて、うちのチームの人間と一緒になって、世界一のシステムを入れるとか、新しい技術を入れるなどやっていただいています。1ヶ月に1回みんな集まっていただいて。やっぱり、その道では一流の企業、もしくは研究家、もしくは天才たちを集めていかないと、新しいことはできないでしょう。うちのチームに、それだけの能力は無いですから(笑)。
山平:いやしかし、こういう施設を具体的に運営されながら、儲けも追求するというのはひとつの強みですね。御社のように実証しながら本番運用をしているところはなかなかないので、とても参考になりました。
今日はありがとうございました。
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