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公共測量業務へのドローン活用促進に向けた国土地理院の取り組み

2016.12.09

Updated by Asako Itagaki on December 9, 2016, 12:01 pm JST

20161209-kokudo-111月25日、「G空間EXPO2016」内で開催されたシンポジウム「地籍の未来」(日本土地家屋調査士会連合会)において、国土地理院企画部測量指導課長の安藤暁史氏(写真)より「UAV導入に向けた国土地理院の取り組み」として測量業務におけるドローン(UAV)活用の現状と公共測量への活用に向けた同院の動きが紹介された。

測量業者のUAV保有率は1年間で1.5倍に

国土交通省では、ICTを建設現場等に適用することで建設精算システム全体の生産性向上を目指す「i-Construction」の取り組みを進めている。その背景には、今後予測される建設現場における労働力不足がある。測量業務についても同様で、ドローン活用による生産性向上が期待されている。

従来の測量はトータルシステムによる現地測量もしくは有人航空機による航空写真測量を目的に応じて使い分けてきたが、ドローンという新しい選択肢が増えた。ドローンは小型で運用しやすく、狭い範囲だけを詳細に撮影することも可能で小回りがきく。価格も幅があるが安いものは中小事業者でも手が届く範囲で導入しやすく、ここ数年は測量分野でも活用の機運が高まっている。

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全国測量設計業界連合会会員企業を対象とした調査では、2015年10月には29%だった測量業者のUAV保有率は2016年10月には45%にまで上昇している。特に中小規模の事業者で保有率が上昇しており、またその約6割は業務用機である。「意外に多く、業界全体でUAVを測量に活用する動きがはじまっている」(安藤氏)

西之島撮影でドローン測量の有用性を確認

国土地理院がはじめて無人航空機による写真測量を行ったのは、小笠原諸島の西之島である。2013年11月の噴火に伴い出現した新島が、溶岩の流出によりもともとあった西之島と一体化して、最終的には元の10倍以上の面積の島となっている。国土地理院は2014年3月に無人航空機(固定翼タイプ)を用いた写真測量で図面を作成した。無人航空機を用いた理由は主に地理的条件で、従来の有人機である測量用航空機は航続距離が1500㎞だが最も近い飛行場が700㎞離れた八丈島で、あまりにも距離がぎりぎりすぎたからだ。

無人航空機は130㎞離れた父島から自律飛行で撮影を行い、取得したデータでオルソ画像と地形判読図を作成した。以来、これまでに6回撮影を行っており、島がどんどん大きくなっていく様子を把握することができた。「無人航空機による測量が実際に役立つことが分かった」と安藤氏は述べた。

国土地理院でマルチコプターを導入したきっかけは、2014年に広島県で発生した大規模土砂災害である。このような災害時、従来であれば測量用航空機「くにかぜ」で撮影していたのだが、この時は悪天候のため長期間有効な写真が撮影できなかった。「くにかぜが飛べるのは高度1000メートルから1500メートルぐらいなので、雲の影響を受けてしまいます。地元企業でUAVを使用して情報収集するという話を聞き、国土地理院でも導入検討をはじめました」(安藤氏)

マルチコプター(Phantom 3)を購入後飛行訓練を行い、初めて実稼働したのが2015年9月10日の関東・東北豪雨における鬼怒川堤防決壊現場の撮影だった。「現場がつくば市の国土地理院から近かったので、12時50分の決壊から3時間後の16時には対岸に到着して撮影できた。撮影した動画はその日のうちにYoutubeに公開し、公式サイトで4万5千アクセス、他サイトで50万以上のアクセスを集めた」(安藤氏)現場の状況をリアルにとらえた映像として注目を集めたので、記憶にある人も多いだろう。

全国展開の必要性を痛感し「国土地理院ランドバード」発足へ

「たまたまこの時は近かったのでリアルタイムに状況を把握できたが、全国どこでも同じことができるかどうかは分からない、国土地理院の中でも訓練を行い撮影ができるのは一部の部署でしかなく、全国展開と教育の必要性を痛感した」(安藤氏)という思いから発足したのが、2016年3月に発足した「国土地理院ランドバード」(以下ランドバード)である。2014年10月から技術開発として安全管理寳保、操縦訓練の流れ、測量精度確保などの課題について検討を重ね、2016年3月に発足した。
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ランドバードのミッションは、安全管理、操縦、測量精度管理において、緊急撮影にも対応できる高度な技術を持つ人材を育成することである。は技術研鑽をしながらi-Construction への対応と公共測量への助言を行いつつ、災害時には緊急撮影と情報提供に対応する。2年後の2018年3月を目指して、運用マニュアル整備、訓練カリキュラムの策定および独自の操縦ライセンス認定による技能向上プロセスの確立、UAVの最新技術動向についての研究、精度を確保した公共測量用マニュアルの整備を行い、2018年度からは機体と人材を全国の地方測量部に配置、いつでも現地で情報収集できる体制づくりに取り組む。

すでに稼働実績もあり、発足直後に発生した4月の熊本地震では阿蘇大橋と熊本城の撮影、夏から秋にかけての北海道や岩手県の台風被害、そして10月21日の鳥取県中部地震でもランドバードのメンバーが現地入りして撮影を行っている。「現在はまだ国土地理院の中でも実際にUAVを操縦して現場で撮影できる人は数名しかおらず、訓練を続けています。大幅に増やす必要があると感じています」(安藤氏)

新たに浮上した「カメラ」の問題

工事現場など民間事業者が行う測量へのドローン活用は進みつつあるが、国や地方公共団体が行う公共測量でのドローン利用例については、2015年度までに5件の利用例があるのみである。先にも紹介した通り測量を行う事業者のドローン保有率も増えており、活用を進めるためには、作業方法をルール化する必要がある。国土地理院では、MMSや空中写真測量などの新しい測量技術に対応した作業マニュアルを作成しているが、ドローンについても2016年3月に「UAVを用いた公共測量マニュアル(案)」(以下作業マニュアル(案))を公開した。また、ドローンについては、安全に作業を行うための手続きなどについてもまだ明確になっていない現状をふまえ、「安全基準(案)」も同時に公開した。

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従来の有人機による空中撮影写真との大きな違いが、使用するカメラである。「従来は測量用のカメラでの撮影が前提となっていたので、カメラの前提条件を考える必要はありませんでした。しかしドローンを使った撮影では、使い捨てカメラや一眼レフなど、市販の民生用カメラで撮影します。撮影高度、カメラ性能、位置制御センサなどが十分ではない前提でどう作業するかをマニュアル化しました(安藤氏)

作業マニュアル(案)は、従来の空中写真測量に加えて、空中写真による三次元点群測量用マニュアルも作成。重複させながら撮影した写真をもとにSfM(Structure from Motion)ソフトで立体モデルを作成する作業は既にi-Constructionでは活用されているため、測量作業内で行えるようにマニュアル化した。UAVを用いて250分の1から500分の1相当の図面・地形モデルを測量で作成するための作業マニュアルとして、測量の作業工程、作業計画作成、標定点や検証点の設置に関するルール、UAVによる空中写真撮影の方法、精度の点検方法などについて規定した。また6月には追加で「三次元点群データを使用した断面図作成マニュアル(案) 」も公開している。

公共測量向けルール整備で民間での利用も促進

安全基準については、「国土地理院はUAVの専門家ではないが、現在まだ技術開発が進行中で、世の中一般にも安全基準やルールがあるわけではない」(安藤氏)との考え方で、測量に最適化された安全確保のためのルールとして使用するUAVの性能、測量作業体制、操縦者の技能、飛ばす際の確認や飛行中止の条件など、「安全を守る」という観点から細かく提示している。「機体もかなり安全にはなっているが、飛んでいるものは何かの原因で落ちる可能性が常にある。事故は発生するものだと意識していただいた上で、万一の事故時にも被害を最小にすることが重要」「事故が発生することで、測量業務にドローンを使う雰囲気が失われることを恐れている。安全に使うのは自分のため、地域のため、業界のためだと考え、安全に飛んでいただきたい」と安藤氏は強調した。

公開された「作業マニュアル(案)」と「安全基準(案)」は2016年度からのi-Constructionを含む一般的な測量作業に適用可能で、工事現場のドローン測量などに既に活用されている。「公共測量を意識して作成したマニュアルと安全基準だが、他の場面でも参考にして活用していただければとおもいます」(安藤氏)国土交通省ではフィードバックを受けて今後も引き続き見直していく。「測量機器についてもドローンにレーザー機器を搭載するような新しい技術も出てきているので、そうしたものにもマニュアルは早めに対応させていきたい。良い事例を積み重ねることが、世の中の理解を得るためには重要だと考えています」と、意向を語った。

【関連情報】
UAVによる公共測量|国土地理院 マニュアル(案)と安全基準
国土地理院動画チャンネル ランドバードで撮影した災害時の動画

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。