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自由の女神(お台場)

アメリカの移民入国禁止は日本にとってのチャンス

Immigrant ban in US is an opportunity for Japan

2017.01.30

Updated by Mayumi Tanimoto on January 30, 2017, 08:01 am JST

トランプ大統領が難民およびイスラム教7カ国(シリア、イラン、スダーン、リビア、ソマリア、イエメン)の国籍保持者の入国を禁じた大統領令がアメリカで大騒動になっています。

アメリカのグリーンカード(永住権)保持者や、これらの国の二重国籍保持者の入国も禁止されたので、一時帰省していた人、出張中だった人もアメリカの自分の家に帰れなくなってしまいました。急だったので、空港に車を止めたままの人、ペットを預けたままだったの人もいたようです。

この大統領令はイギリスでも大変な話題です。イギリスには革命の時にイギリスに逃れてきたイラン人やその子孫も大勢いて、イランとイギリスの二重国籍の人も少なくありませんが、イギリス国籍を持っていてもアメリカ入国は禁止です。南米旅行中でアメリカでトランジットする予定だった二重国籍の人(しかもイギリス産まれ)すら飛行機に乗れず困っています。

イランと二重国籍の国会議員も入国できませんし、最近イギリス女王からナイトの称号を得たオリンピック金メダリストのモー・ファラー卿はソマリア国籍ですが、同じようにアメリカに入国できません。

私の仕事上の知り合いのサーバーエンジニアにも北スダーン出身の人がいて、彼はエジンバラ生まれのエジンバラ育ちなので、スダーンには数回しか行ったことありませんが、この人も入国できません。キリスト教徒なので、豚の生姜焼き弁当が大好物です。

Microsoft、Apple、Netflix、Uber、Airbnb、 Tesla Motorsなどアメリカの主要IT企業の多くはトランプ政権による移民政策を非難する声を上げています。

Gooleは海外にいる従業員が入国できなくなる可能性があるので、即帰国するように呼びかけ、AirbnbのCEOであるBrian Chesky氏は、入国を拒否されて立ち往生している人に滞在先を無料で提供することを申し出ています。

SlackのCEOであるStewart Butterfield氏は祖父が難民であったことをつぶやいています。

 

アメリカという国の前提は、肌の色や出身、信条を問わずに、能力さえあれば誰でも力を発揮し、その結果富を得られるという実力主義ということでした。

権威主義の国に比べればその自由度は遥かに高く、こういう前提があるがために、世界中の頭脳が集まってくるのがアメリカというところの強みです。

今回の大統領令のように、移行期間も何もなしに、永住権があっても、どこどこの国出身だからということで入国できなくなる、仕事も家もめちゃくちゃになってしまうという状況ではたまりません。アメリカの強みが崩壊しかけているということです。ちょっと注意深い人であれば、アメリカでの留学や就職、起業を躊躇するのではないでしょうか。

現に私の周囲の人でも、慎重な研究者や技術者はアメリカを避けはじめています。今や研究やITのプロジェクトは多国籍なので、プロジェクトメンバに入国禁止国の国籍の人がいたら仕事になりませんし、そういうメンバが重要なこともあります。

この状況が続く場合、第二のシリコンバレーがカナダやオーストラリア、イギリスに出没する可能性だってあります。現にカナダに移民してしまった人もいますし、不確実性はビジネスにとって良いことではありません。テック業界では優秀な人材はすでに取り合い状態ですから、より安定した就労環境を得られる国にある拠点を選ぶ人が増えてもおかしくありませんし、従業員を守るため、アメリカを脱出するテック企業が出てきてもおかしくありません。

日本がどういう方向に行くのかわかりませんが、アメリカの不安定な状況は、一方で日本にとってはある意味チャンスです。

言語のバリアや住環境が違うという短所はありますが、より安定した環境で暮らしたいという人にとっては日本は良い所です。

銃殺される可能性は低く、安い家賃の住宅に住んでも殺される可能性はありません。公的な幼稚園があり、国から恵まれた補助が出ています。公立の学校は安全で、先生が刺殺される可能性も、構内にドラッグディーラーが来ることもありません。字の読める生徒が大半です。

都市部なら車もいらないので生活コストも安いです。公共交通機関もよく整備されています。都内近郊であっても、まだまだ住める一軒家が先進国大都市基準では冗談のような値段で売られています。就労許可を取るのも難しいわけではありません。欧州に比べたら遥かに簡単です。

受け入れ側がアメリカ水準の報酬(これが一番のネックでしょう)、トレーニングの機会(特に外部)、言語的バリアの解消を提供する必要はありますが、これを機に、日本側の人事体系や仕事のやり方を大きく変えてみたらどうでしょうか?

世界の頭脳が手に入るなら安いものではないですか。

 

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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