Microsoft HoloLens: Young Conker(Microsoft HoloLens)

HoloLensの普及版は10万円以下 ではそれはどんな革命をもたらすのか

Under $1000 holo graphics computing will come

2017.02.02

Updated by Ryo Shimizu on 2月 2, 2017, 03:56 am JST

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 筆者にとって、HoloLensの面白さが止まらないのです。

 いま筆者はHoloLensを持ち歩いて毎日色んな人に体験してもらっているのですが、例外なくみんな驚きます。

 HoloLensが開く世界・・・マイクロソフトではそれをホログラフィック・コンピューティングと呼んでいますが、そうした世界がやってくるとき、私達の暮らしはどのように変わっていくのでしょうか。

 HoloLensの凄いところは環境適応性です。
 3Dスキャナを搭載し、壁や天井、床、机といった場所を認識します。

 一度認識してしまうと、壁に穴が開いてモンスターが飛び出してきたり、机の上をバーチャルなキャラクターが走り回ったりします。

 関心したのは、その追従性の良さから来る圧倒的なリアリティです。
 視野が極端に狭いというのはよく指摘されていますが、慣れるとそれが気にならないくらい追従性が良いのです。まるで現実の世界から、バーチャルな世界を覗き込む覗き窓のように見えます。

 視野が狭いことの最大のデメリットは、大きなウィンドウや大きなキャラクターの全身を見ることが難しいことです。しかしこれはいずれ解決されるでしょう。

 問題は3000ドル(34万円)という価格ですが、HoloLens開発の陣頭指揮をとるMicrosoftのアレックス・キップマンは「一般消費者(コンシューマ)が買うHoloLensは1000ドル(約10万円)以下になるはずだ、とコメントしています。

 確かに、フルセットのVRシステムを揃えるには10万円前後のVRヘッドセットや周辺機器のほかに、VR ReadyのPCが必要です。VR Ready PCは一般的に15〜20万円しますから、足すと34万円というのはそれほど極端な高額とも思えません。

 それよりなにより、HoloLensの凄さは完全にワイヤレスで、スタンドアロンで動作するということです。
 これは控えめに言っても革命的です。

 だからこそ、筆者は自立したAR環境であるHoloLensをカバンに入れて「持ち歩く」という、ほんのすこし前には想像すらできなかったことが出来ているわけです。

筆者はhtc Viveで趣味のコンテンツを作ったりするのですが、どうしてもViveはルームスケールというだけあって部屋が必要です。専用のスペースを作らないと開発もままならないため、地価の高い東京やサンフランシスコはVR開発に向かない土地と言えるでしょう。

 ところがHoloLensは違います。
 地形を認識して空中に浮かぶため、わざわざ広いスペースを確保する必要がありません。

 たとえば筆者は趣味でMMD(MikuMikuDance)で女の子が歌いながら踊るコンテンツを作ってみたのですが、これをプレイするのに必要なのは、その女の子が出現するスペースだけです。

 HoloLensのアプリ開発が控えめに言っても驚異的に簡単であるということも特筆すべき事柄です。
 もちろんそれを実現しているのはUnityというゲームエンジンのデファクトスタンダードがあってこそですが、一昔前では想像すらできなかったような複雑なアプリケーションを極めて手軽に作ることが出来ます。

 実際、筆者がMMDのアプリを作ってみた時、実際にかかった時間は1時間くらいで、その1時間も、MMDのデータをHoloLensで見れるように転送する部分がデフォルトだと上手く行ってなくて苦労したからです。最初のチュートリアルは10分くらいで初めてのHoloLensアプリを作れるようになっていますし、たとえば地球が出てきてそのまわりを月が回る、みたいな、古典的なスクリーンセーバーのようなアプリなら、素人でも半日もあれば作れてしまうでしょう。

 これがどのくらい驚異的に簡単なのかというと、筆者がもっと原始的な、まさに太陽の周りを地球が公転し、そのまわりを月が公転するというアプリを学生時代にプログラミングしたときは、少なくとも専門的なスキルを持った人間でも最低一週間は必要でした。現実的には一ヶ月くらいは要したと思います。

 その頃はまず球体をポリゴン表現するためのアルゴリズムを考えるところから始まります。球体を何面体の多面体で記述するか、カメラはどのような規定行列であらわされる、どのように頂点と頂点を紡いでポリゴンを作るか、そこにテクスチャマップをどのようにプロジェクション(投影)するか、どのようなテクスチャマップを使うか、テクスチャマップはBMPで用意するか、それともJPEGなどの圧縮技術を使うか、仮にJPEGを使うとしたら、JPEGを展開するための離散コサイン変換の理論を理解しているか・・・などなど、実際にプログラミングを始めるまでに気の遠くなるような準備段階があり、それからいざプログラミングに入ると、思い違いや勘違いなどで思った通りにプログラムが動かず、えんえんとバグと格闘しなければなりませんでした。

 でもいま考えてみれば、これは極めてバカバカしい話です。
 表現したいものは単に3つの球体が互いに回転しているだけです。概念的には物凄く簡単なのに、実装する上で考えるべき前提条件が多すぎたのです。

 ところが今はUnityのような強力なゲームエンジンのおかげで、拍子抜けするほど簡単にこうしたプログラムを書くことが出来ます。
 Unityでこれを実現したければ、まず球体を3つ作り、それぞれのテクスチャを指定した上でふつうに貼り付け、公転に関するところだけ微妙にプログラミングが必要ですがおそらく数行のプログラムで済むでしょう。

 そしてこれをHoloLensに対応させるためには、HoloLensのツールキットをダウンロードしてきて、各種設定を全自動で適用し、プロジェクトをビルドしてからVisualStudioでコンパイルおよび転送を行うだけで済んでしまうのです。慣れてる人なら10分とかからないかもしれません。

 この圧倒的手軽さ、簡単さが、ホログラフィック・コンピューティングとよばれる一連のエコシステムを根底から支えるものです。
 もちろんプログラマーはUnity上であっても、いくらでも複雑にプログラムを書くことが出来ますが、基本的には極めて手軽に使えます。

 これが10万円以下で販売されたとき、世界はどう変わるでしょうか。
 ホログラフィック・コンピューティングは普段の景色を一変させます。

 最初に盛り上がるのはゲームでしょうが、ゲームはすぐに飽きてしまう気がします。
 物珍しさはあるものの、わざわざホログラフィックでやる意義が薄いからです。

 Microsoft Studiosが開発したYoung Conkerは非常にうまくホログラフィック・コンピューティングの良さを伝える良いゲームです。

 このビデオをみるとまるで信じられませんが、実際にこのように見えます(鮮明さは多少失われますが)。

 見慣れた風景に出現したバーチャルキャラクターが飛び回る様は感動的ですらあります。

 しかし当然ですが、ゲームである以上はゲームバランスをとらなければならず、実際にどんな環境で実行されるのかユーザーごと、場所ごとに異なることが前提になっているとそもそもレベルデザインにかなりの制約をうけます。

 つまり「誰がいつ遊んでもだいたい同じくらい面白い」というコンテンツ特有の前提が共有できなくなるので、ホログラフィック・コンピューティングという極めて自由度の高い仕組みが却って足かせになっているのです。

 また、HoloLens自体にもあまり指摘されていない欠点がいくつもあります。

 ひとつは、屋外での使用が想定されていないことです。
 HoloLensを付けて外をあることは原理上可能ですが、その場合ホログラフィック・コンピューティングは無効になります。
 HoloLensが、あくまでも室内で壁や床、テーブルがあるところでの動作を想定しているためです。

 しかしこれでは面白さは半減してしまいます。
 もちろんこんなあやしいものをつけて外を歩くと、一昔前のちょっとイタいGoogle Glassユーザーみたいになってしまうのですが、いつか普及機が出てデザインやサイズが改善されるようになることを想定すると、必ず野外で使いたいという要求はあちこちから出てくるでしょうから、今のところこれはバージョンアップを待つしかないのかもしれません。

 もっと大きな問題もあります。
 ユーザーインターフェースが根本的に間違っているか、ほとんど不完全なものという点です。

 HoloLensはなんとカーソルで操作します。
 カーソルですよ、カーソル。
 カーソルっていうのは、マイクロコンピュータ出現のときからあり、マウスでもカーソルを使用し、ようやくスマートフォンの時代になって我々はついにカーソルを捨て去ることに成功したのです。

 にも関わらず、HoloLensは、現実世界と合成される世界のど真ん中に常にカーソルが出ています。
 このカーソルは視線の中央に固定されていて、なにかをタップするときにはこのカーソルをあわせる必要があります。「カーソルを合わせる」というとマウスでやるように簡単に行くと思われがちですが、HoloLensの場合、カーソルを動かすというのは首を動かすということなので、極端に疲れます。少しやったあとだと異常な肩こりや軽い頭痛を感じるほどです。

 特にバーチャルキーボードの入力は最悪で、およそこれまでここまで最悪なキーボードを筆者は触ったことがありません。
 むかしのゲームセンターの名前入力のほうがずっとよく出来ていると思うほど、想像を絶する最悪な使い心地のバーチャルキーボードと我々は仲良くなる必要があります。

 このカーソルが致命的にダメ、という点がHoloLensの良さを致命的にスポイルしている点は否めません。
 さらにダメなのはウィンドウのデザインです。

 たとえばMicrosoft EdgeというWebブラウザを起動すると、PCと全く同じように表示されます。
 それはそれですごい、と思いがちなのですが、アドレスバーの比率もPCと同じままです。

 ということは検索したりアドレスバーに入力したりしたくなった場合、このめちゃくちゃ狭い領域に必死で首を動かしてカーソルをあて、エアタップスル必要があるのです。そのあとは、お待ちかね。バーチャルキーボード地獄です。

 もちろんキーボードに関しては救済措置もあります。
 Bluetoothキーボードを接続可能なのです。

 しかしそれだと、これがスタンドアロンで完結しているという魅力は半減以下になってしまいます。

 カーソルの問題とキーボードの問題は一刻もはやく解決して欲しい問題です。

 この、基本操作が最悪なデザインであるというのは最近のMicrosoftのOSのもはや持ち味というか特徴とさえ呼べるものになっています。
 これがある限り、HoloLensを始めとしたホログラフィック・コンピューティングの普及は限定的なものになると言わざるをえないでしょう。

 もちろん自信満々のアレックス・キップマンのことですから、なにかすごく冴えた解決策を用意して出し惜しみしてるだけかもしれません。
 そうであることを切に願います。

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清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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