情熱 お金 イメージ

情熱は最も貴重な財産である

Enthusiasm is the most valuable asset

2017.02.16

Updated by Ryo Shimizu on 2月 16, 2017, 11:10 am JST

 とある企画を立てました。
 ヒットする企画というのは立てた瞬間にわかるものです。これはイケる。素晴らしい。クライアントとも盛り上がり、さあやろうということなりました。

 ところが企画が素晴らしくても実装が伴わなければうまくいくわけがありません。

 しかしこの実装はなかなか手強そうだぞ、と思いました。

 年末年始、どうせやることもなかったので会社に引きこもって試作を繰り返し、まあなんとか半分くらいのプロトタイプはできたので、色んな人に見せてみると「スゴイ」と好感触で、まあこれはいけるだろうなと自信を深めていたのでした。

 ところが、まあPoCはできたものの、実際に製品化に向けた実装となると話は別です。

 するとひょんなことから昔から知っている若者が会社を立ち上げてデモを作ったというので、見せてもらいました。

 ・・・完・・・敗

 なるほどなあ、これをこうするのか。どうしてうちの会社ではこういうものが作れなかったんだろうと嫉妬を通り越して尊敬の念を抱いてしまいました。

 結局、これに関しては彼らのモノの方が出来がいいしすでにかなりの完成度なのでどうにかしてこれをライセンス提供してもらえないかという話をすると、そういう話なら大歓迎ということだったので、筆者は彼らをクライアントに紹介しました。

 もともと僕の企画ではありますが、もう全部やっちゃっていいですよ、くらいのノリで紹介したのです。

 ところがクライアントは、「いやいやあくまで清水さんとの話なんだから清水さんは入ってください」と言います。まあそれもそうかなと思ってでは契約金額の交渉という段になりました。

 ところがそれが驚くくらい安かったのです。
 それまで僕はそのクライアントと過去に何度も取引をしてきて、純粋研究としていただいていたフィーの1/10くらいでした。これまでと違って事業化を前提としているのになんだそのはした金は、と思いました。それでまともなものが作れるわけがないし、そもそも僕らのフィーとしても安すぎます。

 まあただ、先方は予算を決められているらしく、なかなか難しいということなので、あとはもう先方の社長と直接話をしてくれと、そういうことになりました。

 そのとき僕は思ったのです。

 そしてつい口に出してしまいました。

 「あのね、この世界、特にコンピュータの世界で一番希少価値が高いものってなんだかご存知ですか?」

 「なんでしょう?技術力とか、特許とかですか?」

 「いいえ。情熱です」

 そう言い切って、僕は続けました。

 「これをここまで作り込むことができるのは、真の情熱を持った人だけなんです。彼らは完全に自腹でこれを作ると決め、社員を雇い、一円にもならないかもしれないのに真摯に良い物を作ろうとした。見せかけや誤魔化しのためのデモではなく、真に価値のあるものを作ろう、こういうものが必要になる世界がきっと来ると信じて、人生の全てを捧げる覚悟でこれを作り上げる情熱は、特許や学力なんかに比べたら、遥かに高価で希少性が高いものです。あなたがたが買わないならば、僕が自ら競合相手に彼らを紹介しますよ。なんせまだ契約はNDA意外になにも交わしていないわけで」

 「いや、それは困ります」

 「だったら彼らの価値を正当に評価してください。これはビジネスとしてではなく、公益を考えた上でのお願いです。ここまで完成したものは世界のどこにもなく、この次元までこのコンセプトを高めることが出来た彼らの情熱をはした金で踏みにじらないでください。評価していただけないなら、正当に評価する人を僕が探します」

 「とにかく来週、社長同席の上で話をさせてください」

 というわけで一度は持ち帰りになりました。
 

 そして次の取引先に移動して、先方の社長と話をしていると、「あ、そうだこっちの会社でもいいじゃん(競合じゃないし)」と思い、あわてて「こんな技術があるんですけど見てみませんか?」と誘ったところ、「いいね」という話になり、急遽、彼らを呼び戻して即席のデモ環境を作ってもらいました。

 体験した人が次々に「これは面白い」「(似たコンセプトで世界的大企業が開発した)○○よりもずっと楽しいしよくできてる」「これは将来性がある」と絶賛し、なんとかいろんな形で彼らを応援してくれることになりました。

 この話にオチはありません。

 ただ、僕は自分自信の発言に驚いたと同時に同じくらいに納得したのです。

 なぜ僕が、ほとんどの起業家を好ましく思っていないのかという理由が、そこに集約されている気がしたからです。

 要はたいていの起業家には情熱が無いのです。
 情熱が無い、というと言いすぎかもしれませんが、欲望は感じても情熱を感じないのです。

 僕がこれまで見てきた若い起業家に、「なぜ起業したいのか」と聞くと、「社長という職業をやってみたい」「かっこいい」「お金持ちになりたい」という、我欲だけを感じるのです。その他になにかそれっぽいこと、たとえば「プログラミングで世の中を良くしたい」とか「インターネットで世の中を良くしたい」とか、そんな浮ついたことを言っていたとしても、

 「では君は、いったいぜんたい良い世の中をどう定義しているのか」

と問うと

 「貧富の差がない、平等な世界」

 「飢えや苦しみのない世界」

 「差別のない世界」

などと小学生のようなことを言います。

 「あのな、そういう世界を作りたいんだったらとっとと公務員にでもなるか、政治家にでもなるか、国連職員にでもなりなさいよ。あなたが個人的に金儲けすることで世の中は良くならないよ」

と言うと、たいてい黙り込んでしまいます。

 結局、自分が金持ちになりたい、女の子にモテたい、威張りたい、誰かの指図を受けたくない、そんなくだらない理由で起業する人が圧倒的に多いので、僕はほとんどの起業家が嫌いなのです。

 では自分はなぜ会社を作ったのかと言われれば、僕にしかできない仕事があると考えたからです。

 というか、本当は自分が社長になるつもりは全くありませんでした。もともと社長になるはずだった経験豊富な経営者を直前に引き抜かれてしまい、僕は成り行き上しかたなく社長になりました。

 僕はその後なんども、社長をやめようとするのですが、結局いろいろな事情で社長を15年も続けています。

 そんなに長いこと社長でいる人はたぶん珍しい方だと思います。普通は引退するなりして後進に道を譲るものです。

 では僕にしかできないことというのは一体なにか、それはいろいろなところで散々書いているように、人類全ての人がコンピュータによる真の恩恵を得られるようにすること、手段としてはプログラミングという強大な力を誰もが自由に使えるようにすることです。

 それは繰り返し教育の現場に立ち、小学生の頃からプログラミングをしてきて、自らOSやプログラミングを簡易化するためのライブラリやミドルウェアを作り、普及させてきたという経験を持つ、僕にしか出来ない仕事だと信じているからです。

 今僕の情熱はディープラーニングに向かっていますが、それはディープラーニングが必ずや人類が使いこなすべき道具の実現に不可欠だと信じているからです。

 広い意味で言えば、これも個人の欲望と言えなくもないです。しかし、これは会社を経営する以外の他の手段では決して満たせることのできない欲望です。

 女の子にモテたい、お金持ちになりたい、かっこよくなりたい、尊敬されたい、という欲望は、極論、サラリーマンでも満たせます。否、サラリーマンでもそういう欲望を満たすことが出来た人間でなければ、もっと大きな欲望、自分にしかできない仕事を成し遂げたいという野望を描くことはむしろ難しいのではないかと思います。

 幸運にも、僕はサラリーマン時代に大半の欲望を満たしてしまいました。いまでも僕にだって「お金持ちになりたい」とか「かっこよくなりたい」とか、そういう欲望があります。でも自分の野望達成のためには、他の欲望は全部後回しにできるんです。それを僕はこれからは情熱と呼ぶことにします。

 真の意味での情熱を持った起業家は、驚くほど少ないのです。たいていの起業家が信じられないほど低い志で会社を経営しています。もちろん、それが悪いことだとは思いません。実際にそういう欲望で会社を立ち上げ、上場してお金持ちになった知人・友人も沢山います。

 しかし僕は、今この瞬間、お金持ちになることよりも、貧乏でも自分にしかできない自分自信の野望を達成したいと願う情熱を持って起業する人のほうがそうでない人の何百倍も好きなのだということをこのとき初めて気づきました。

 彼には成功して欲しい。
 もちろん僕も負けないように自分の野望達成のために日々頑張ろう。

 そう思いました。

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清水 亮(しみず・りょう)

1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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