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AIエンジニアになる方法

How to change job to AI engineer.

2017.02.26

Updated by Ryo Shimizu on 2月 26, 2017, 15:03 pm JST

 AIに関することで、多くの研究者にとって不都合な真実が、まだ世間には理解されていません。

 それは、AI研究者の大半は深層学習を専門にして「いない」ということです。
 深層学習はAI研究の中では、機械学習という分野の、ニューラルネットワークという分野の、さらに一分野に過ぎません。

 比率で言えば、95:5くらいの確率で、これまで「AIの専門家」と言われてきた人は深層学習の専門家「ではない」確率が高いわけです。

 この些細な事実がなぜ「不都合」なのかというと、こうしてなにもかも一緒くたにされた結果、これまでほとんど成果の上げることができてなかった旧来のAI研究者に大量の予算がつぎ込まれることになってしまっているということです。

 そして、今でもまだまだ国立研究機関では深層学習に懐疑的だったり、否定的だったりする研究者が大半です。少なく見積もって過半数、多く見て8割がたといったところではないでしょうか。

 しかしその一方、世間で注目を浴びているのは深層学習です。
 政府が予算を付けるのも、海外の会社が予算を投じているのも深層学習とそれに関連する技術だけです。

 しかし日本では多くの予算が深層学習「ではない」ことに回されています。

 例えば、「うちの会社はAIを導入して他社と差別化を測ります」と言っている企業の人に、「たとえばどんな技術を使うんですか?」と聞いた時、「自然言語処理や深層学習ですね」という答えが返ってきたら要注意です。

 なぜなら自然言語処理は、この30年、ほとんど進化していない技術だからです。もちろんその進歩がゼロとは言いませんが、この30年で発達したその他の技術、たとえばグラフィカルユーザインターフェースやグラフィックスプロセッシングユニット、半導体、アルゴリズムやアーキテクチャの劇的な改善に比べると、その成果はかなり見劣りします。

 例を挙げましょう。
 以下は有名なケネディ大統領の演説の一文です。

We choose to go to the Moon. We choose to go to the Moon in this decade and do the other things, not because they are easy, but because they are hard; because that goal will serve to organize and measure the best of our energies and skills, because that challenge is one that we are willing to accept, one we are unwilling to postpone, and one we intend to win .

 これを30年の歴史を持つ日本の誇る最先端の機械翻訳技術で翻訳するとこうなります。

私達は、月に行くことを選ぶ!
私達は、この10年で月に行き、それらが容易であるのでなく、それらがかたいので他の事をすることを選ぶ;そのゴールが、私達のエネルギーとスキルのベストを組織し、測定するのに役立つので、その挑戦がそれである 私達が延期ししぶっているもの、および私達が勝ち取るつもりのもの 快く私達が受け入れるので。

 この翻訳は控えめに言っても意味不明です。
 プロの翻訳者が下訳として使うとしても全く使うことが出来ません。ほぼデタラメの文章です。日本人の小学生でも辞書を引きながらならこの程度の訳はできるでしょう。

 どうしてこんな役になってしまうかというと、ケネディ大統領の演説は、最初の「We choose go to the moon」の次に続く文が一文で表現されているからです。

 基本的に機械翻訳は、まず文章を品詞に分解し、どのような構文によって品詞ができているかという構文解析を行います。次に、翻訳したいターゲットとなる言語の言語モデルの構文に解析した構文を当てはめます。

 この方式の明らかな欠点は、一文が一文と必ず対応することです。
 
 でも構文解析という手法に頼っている以上、これは原理的な問題と言えます。
 日本語は欧米の言葉とくらべると品詞と品詞の間にスペースがないので非常に構文解析には不利なのですが、この翻訳結果は、英語から日本語への翻訳であることに注目してください。そう、本来は構文解析しやすいはずの英文から和訳する場合ですら、結局意味不明になってしまうのです。

 Googleのニューラル翻訳は意味に着目したり構文を解析したりするのをやめました。ニューラル翻訳が導入されるまえの統計的機械翻訳でも似たような仕組みでしたが、ニューラル翻訳はさらに過激な意味理解への諦観がベースになっています。

 
 Googleの翻訳アルゴリズムの基礎はSeq2Seqという仕組みがもとになっていると考えられます。Seq2Seqとは、ある不定長のデータが別の不定長のデータになるという対応関係をひたすら覚えさせるだけの学習方法です。意味に着目しませんし、構文にも着目しません。ただひたすら「こういう感じの英文が来たら日本語はこんな感じ」というふうに教えるだけです。

 その結果、先程の演説をGoogleニューラル翻訳はこのように訳します。

我々は月に行くことを選ぶ!
私たちはこの10年間で月に行くことを選択し、他のことをやっています。なぜなら、簡単だからではなく、難しいからです。 その目標は私たちのエネルギーとスキルの最高の構成と測定に役立つでしょう。なぜなら、その挑戦は私たちが受け入れたいもの、私たちが延期したくないもの、そして勝つつもりであるからです。

 注目すべきは、一文を一文にムリヤリ訳そうとするのではなく、3つの文に分割していることです。これで格段に読みやすくなりました。明らかにこれはこれまでの機械翻訳とは一線を画した成果です。これぞ進歩と呼ぶべきものです。

 問題は、囲碁の場合と同じように、解決策が簡単すぎることです。

 AlphaGoは碁の定石を人間がルール化するのではなく、機械自身に学習させることで人間以上の戦況判断能力を身につけることが出来ました。

 しかし、これで上手くいくのであれば、そもそも研究者が研究すべきはずのことが、ぽっかりとなくなってしまうのです。それまで考えていたいろいろなアイデアや、既にとりかかっていた色々なアイデアが、ある日突然、時代おくれのシロモノになってしまうのです。

 こういうことがいま、単に「人工知能」と呼ばれる研究分野のあちこちで起きています。実際に深層学習を専門とする研究室は、日本には数えるほどしかありません。しかもそれは、AI研究の本道とは未だに見做されていません。

 これは彼らにとっては不都合な真実と言えますが、これからAIエンジニアになろうという人にとっては、むしろ都合の良い状況と言えます。

 これから起きることは明白で、まず最初に、旧来のAI研究者は、AIがとても複雑で注意深く思慮深く、高い数学的能力がないとまず理解も構築も飼いならすこともできないということを声高に主張します。そして一所懸命、深層学習の成果は巧妙なペテンであり、すぐに醒める儚い夢だと喧伝するでしょう。実際にそういうことが今起きています。

 一方で、あまりに深層学習を正面切って否定すると、せっかく用意された予算を貰うことができなくなりますから、あくまで深層学習を表向きは否定せず、しかしもらった予算を代わり映えしない自然言語解析に浪費する学者も少なくないでしょう。

 このような状況のとき、最も得をするのは誰か。
 旧来から積み上げてきた知識や経験、地位といった資産が緩やかに無価値化する時、かわりに価値を持つのは何か。

 それは「知らないこと」です。
 「柔軟な発想」と言い換えてもいいかもしれません。

 深層学習の成果を否定せず、そして原理を改良したり、解明したりすることは最初から諦めて、ただその成果をどのようなことに応用できるか、深層学習という新しい道具をどのようなビジネスに当てはめることが出来るか。いつかできるかもしれない人工超知能のことを心配するのではなく、むしろこれを使うとどのような素晴らしい製品が作れるか。

 全くの先入観やしがらみなしに考えられる人が、これから最も得をする人たちです。
 その人達には守るべきプライドもなければその世界での地位もないので、ブラックバスのように人工知能研究者たちの生態系に襲いかかり、全く無意識のうちに旧来の人工知能研究者を駆逐するでしょう。

 既に深層学習ではさまざまな成果が出ており、我々は応用法を探せばいいのです。
 それは新しいオモチャを買ってもらった子供が、そのオモチャでどんな遊びをするか考えるのに似ています。

 買い与えた大人すら想像もつかないような遊び方をするのが子供というものです。

 従って、そうした柔軟な発想の中から、思わぬ発明が生まれる可能性は十分あります。

 ちなみに旧来の人工知能研究者の中でも、どれだけ世間から見捨てられても地道にニューラルネットワークや深層学習の研究を続けてきた先生方が、現在のGoogleやFacebookのAI研究所の所長になっています。だから旧来の人工知能研究者の全てが駆逐されるわけではありません。駆逐されるのは、与えられた資金に見合った成果を出してこなかった人たちだけです。

 ではいつ始めるべきなのか。
 深層学習のプログラミングそのものは、プログラミングの素養があれば全く難しくありません。

 たとえば筆者の経営する株式会社UEIでは、AIのプログラミングを教えるセミナーを開いたり、毎週1時間ずつ通うスクール形式の授業をやったりしてAIエンジニアの啓蒙に努めています。

 あまりにも簡単なので、一人でも多くの人がAI(特に深層学習の)を道具として使いこなせる世の中が来る方が最終的に全員が得をすると思っているからです。

 また、弊社ではいままでAIをやったことがなかったけれども、仕事としてやってみたいエンジニアも募集しています。今、特にインフラ系やWeb系の人が足りないのでもしご興味があればぜひこちらから→株式会社UEI 採用情報

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清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

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