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救急 ヘリコプター イメージ

①ドクターヘリに学ぶ―技術と制度を最適化する方法

2017.03.30

Updated by Hiroshi Machida on March 30, 2017, 06:00 am UTC

過疎地の救急医療の救世主として期待されているドクターヘリだが、まだ多くの問題を抱えている。最先端の技術であっても制度を整えなくては、効果的な課題の解決にはつながらない。ドクターヘリの全体最適化問題は、今後の自動運転車の運用方法に多くの示唆を与えている。

ドクターヘリが救急車と異なるのは、医師が乗って現場に駆けつけるという点だ。群馬県のドクターヘリは、普段は拠点の前橋赤十字病院に待機しており、消防の要請を受けて医師を乗せ、現場に向かう。医師はヘリで移動しながら詳しい患者の状況を消防から聞き、現場ですぐに処置をして患者を病院に搬送する。群馬県全域を20分で移動できるため、病院が遠い過疎地などでは、救急車で病院に運ぶよりも速く適切な医療措置をとることができる。

県境の壁を飛び超える

ドクターヘリの利害関係者は多く、中央省庁、地方自治体、消防、病院や医師、ヘリの運航会社、住民など、多くの人の理解があって初めて成り立つ事業だ。

ドクターヘリの運営は都道府県ごとに行われているが、県境を超えた広域連携も進んでいる。実際に私たちが埼玉の桶川に出動しているときに群馬北部の草津で要請があり、長野のドクターヘリが対応してくれたことがあった。しかし都道府県の財源で運用しているため、このような広域連携は行政にとってためらいがあるようだ。行政官のなかには「自県のドクターヘリが隣県に行っているときに自県で何かあったらどうするんだ」ということを言う人もいる(そういうときは県境にこだわることのナンセンスさを伝えるため「たまたま隣県にいた自県の人が急病になった場合は隣県ヘリは対応してくれないのか? 自県内で隣県の人が急病になったときに自県ヘリは無視するのか?」と答えることにしている)。群馬県のドクターヘリの出動回数は年間800回程度で、一日平均で考えると2〜3件しかない。しかし要請が重なれば出動できない瞬間もあるので、県を超えた広域連携は必須だ。

通常の出動要請であれば県境をまたいで連携できることが多いが、県が災害対策本部を設置するような大きな災害だと、関係各機関の無理解からそういった対応がしづらくなることがある。

今のような不完全な広域連携を打破するためには、都道府県ごとの財源で運用するのではなく、国が一括してドクターヘリを運行すべきだ。患者からすれば自県のヘリだろうが隣県のヘリだろうが、早く治療してくれればどうでも良い。ドイツの救急法には救急患者には15分前後の時間内に初期治療を始めなければならないと定められており、自治体の境界に関係なくドクターヘリが稼働している。

消防との連携や住民の理解

原則として、日本のドクターヘリは事前に患者のもとにたどり着いた消防から、患者を引き受ける方式を取る。救急車が患者のもとに駆けつけ、ヘリが着陸できる場所まで患者を運び、ヘリの着陸ポイントを整備して(砂埃が舞わないようグラウンドに水をまくなど)、そこに医師が乗ったドクターヘリが着陸することになっている。

しかし、例えば赤城山の上で急患があったとき、救急隊が到着するまでには40分近くかかるが、ドクターヘリなら7分で到着することができる。そのため昔はその間上空で待機しなければならなかったが、現在群馬県では消防職員以外でも特別な講習を受ければヘリを降下誘導して良いことになっている。水上、嬬恋、赤城など、救急車が辿り着くのに時間かかるエリアでは、スキー場の従業員や町役場の職員がヘリを誘導できる仕組みができた。

しかしこれには住民の理解が不可欠だ。「ヘリコプターがいきなりやってきたら危険ではないのか」、「砂埃が舞って洗濯物が汚れる」、そのような住民の懸念を払拭するため、群馬県の運行規約では、機長の判断のみで降下することはできず、県で認められた人が着陸点にいなければ降下できないことになっている。このような制度づくりや住民への説明を、行政が主導して進めたおかげで、ドクターヘリによる迅速な救急医療が可能となった。私たち病院や消防の要請を受けて、前橋市や群馬県庁がリーダーシップを発揮した結果だ。

とはいえこのような仕組みは自治体によって違いがあり、群馬県内でも前述した前橋市の赤城山は消防がいなくても降下できるが、隣接する高崎市の榛名山は消防なしでは降りられない。高崎市とは以前より交渉を進めているが、なかなか認可が降りない。群馬県や国レベルで、「救急患者が発生した際は必ず30分以内に救急医が接触します」というような医療体制のコンセプトを打ち出して欲しい。

日本で一番活躍しているドクターヘリは、兵庫県の公立豊岡病院を拠点とするヘリだ。このヘリは、有資格者が着陸点で待機することなく、機長の判断で降りることが認められている。豊岡は行政も丁寧に住民説明会をしているうえ、限られた数の病院しかないため住民の理解は深い。

ドクターヘリは最先端の技術が人々の生活に大きな影響を与える良い例だ。こういったテクノロジーを最大限活かすためには、行政の果たす役割が大きい。自動運転車もこのようなドクターヘリの事例から学ぶことは多いのではないだろうか。

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町田 浩志(まちだ・ひろし)

前橋赤十字病院 高度救命救急センター 集中治療科・救急科 副部長。1975年札幌生まれ、2000年北里大学医学部卒業。北里大学医学部胸部外科学、群馬循環器病院で心臓血管外科医として従事し、2008年より前橋赤十字病院に救急医として赴任、2010年から現職。救急・災害医療を専門とし、特に心臓血管外科の経験を生かした外傷診療やドクターヘリチームリーダーとして病院前診療を中心に活動を展開中。救急科専門医、日本外傷学会評議員、日本航空医療学会評議員。