海洋研究開発機構(JAMSTEC)には、深海巡航探査機「うらしま」や、「じんべい」「おとひめ」「ゆめいるか」などの深海探査機がある。これらの探査機は、自律型無人探査機AUV(Autonomous Underwater Vehicle)と呼ばれ、あらかじめプログラムされたコースを、障害物を避けながら自律して航行し、与えられたミッションを行う。
自動車の車載センサーには、レーザー照射を用いるLIDARが注目されていると聞くが、水中を進むAUVが用いるのは、音波ソナーだ。AUVはソナーによって前方の障害物を認知し、海底や障害物からの距離を測る。センシングをしながら姿勢を制御し、自分の状況を把握して、あらかじめ指示された行動をとる。また、探査機と母船との間の通信も音波を利用している。有人潜水調査船「しんかい2000」や「しんかい6500」の運用のために独自に開発した水中音響通信技術を応用することによって、母船から遠隔でAUVを制御することも、AUVが撮影した画像を母船でチェックすることも可能となる。
街を走行する自動車と比べ、予測しなければならないことは少ないが、障害物などは自律的に回避し、避けたあとルートに戻ることもできる。自動車と異なるのは、監視できる空間領域がとても狭いことと予測できない潮の流れがあるということ。強い潮流によって自分がどれほど流されているかを計測し、元のルートに戻る必要がある。現在の技術では、流された結果の位置情報から、ルートに復帰するためのコースを再計算する手法を取っているが、潮の流れを測定し、あらかじめ流れの上流に向かって泳ぐような仕組みが理想的だ。人間のようなファジーな予測行動をとれないことは、自動運転の自動車がかかえる問題と似ている。
自律型のメリットは、海にたくさんのAUVを走らせ、短時間で広範囲で詳細な調査を行うことができる点だ。しかしこれまでの調査では、海中を走る1台のAUVのために、1台の船でピッタリ追尾して監視している。JAMSTECをはじめ世界各国で、複数のAUVでの海底調査が始まりつつあり、AUVを制御するための船を、無人化するための技術も開発が進んでいる。
無人のロボットでAUVを管理するためには、ブイのようなものを海に浮かべ、地上や船上からブイと通信し、そのブイから複数のAUVを制御する形をとる。地上からブイまでの通信は電波を用い、ブイからAUVまでの通信は音波を用いる。
AUVが様々な場所で活動するには、それを制御・監視するブイも動かさなくてはならない。現状のブイでは、動かすために多くの電力が必要となるため、近年は波の力で移動するウェーブグライダーと呼ばれる装置やAUVの制御を行う研究開発も行われている。ウェーブグライダーは、波の上下動で生じる位置エネルギーを利用し、波の上部から下部に降りるときに舵をきかせて進む方向をコントロールすることができる。
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国立研究開発法人 海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長
超好熱菌の微生物学、極限環境の微生物生態学、深海・地殻内生命圏における地球微生物学を経て、現在は地球における生命の起源・初期進化における地球微生物学および太陽系内地球外生命探査にむけた宇宙生物学を探求。
著書に『生命はなぜ生まれたのかー地球生物の起源の謎に迫るー』(幻冬舎)、『NHKサイエンスZERO 深海で生命の起源を探る』(NHK出版)、『微生物ハンター 深海を行く』(イーストプレス)など。
National Geographic日本版webにて連載『青春を深海に賭けて』:
http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20110518/270393/