WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

川 文明 イメージ

情報と人・モノの流れが社会を変える

人と技術と情報の境界面を探る #003

2017.04.24

Updated by Shinya Matsuura on April 24, 2017, 07:00 am JST

前回、「情報の流通が、社会制度を規定する」という話を書いた。あるいはピンと来なかったかも知れない。が、「人とモノの流れに関する技術が、社会制度を規定する」というと、多くの人は割と素直に「そうだろう」と思うのではなかろうか。
 
 
そもそも文明の発祥には、河川の存在が大きく関係していた。河川は下流に肥沃な平野部を形成するからだが、一方で河川があれば船を使って大規模な物資の輸送が可能という理由も見逃せない。

世界史的に見れば、物流における最初の技術革新は、外洋の荒波を乗り切ることが可能な竜骨のある船であろう。古代のフェニキア人は竜骨のある船を使って地中海を往来し、貿易により富を蓄積して、都市国家でありながら巨大なローマ帝国と対等の戦いを繰り広げた。次は、道路の整備である。道路が整備されれば、河川に依存しない物資流通が可能になる。ローマ帝国は総延長15万kmにも及ぶ街道を整備し、植民地経営に役立てた。

竜骨を持つ帆船に、外洋での天測技術が組み合わさることで、欧州の大航海時代が始まる。この段階ではまだ、移動するモノは、金や銀、香辛料といった付加価値の高い産品だった。だが、産業革命により化石燃料を利用したエンジンが実用化されると、より付加価値の低い物産の貿易も盛んになっていく。
 
 
20世紀に入ると、航空機の発明により、船舶よりもはるかに高速の物資輸送が可能になった。初期の定期航空網が、郵便の輸送のために整備されたという事実は興味深い。手紙は軽量で、積載能力の低い初期の航空機にとって格好の荷物だったからだが、それ以上に手紙は「わざわざ航空機で高速輸送する意味のある荷物」であった。輸送する郵便の大半は、株式情報であったり債権であったり証書であったり——つまり「社会制度によって紙であることを要求される、財産の情報」であったのだ。サン・テクジュペリの一連の作品では、飛行士達が英雄的な献身で、郵便飛行機の定時運行に邁進する姿が描かれる。が、実際のところ彼らが運んでいたのは「付加価値の高い、金の情報/金儲けの情報」だったのである。

その後航空機は大型化し、長距離飛行が可能になり、ジェットエンジンの実用化で高速化した。1969年にボーイング社が革新的な巨人機「ボーイング747」の生産を始めると、航空旅客輸送は一気に拡大し、人が国境を超えて世界全体を移動するようになった。航空機による高速輸送と並ぶ、20世紀の巨大な技術革新がコンテナだ。1956年にアメリカのシーランドという輸送業者が開始した規格化されたコンテナによる輸送は、煩雑な港における荷物の積み降ろしを単純なクレーン作業で効率的に行うことを可能にし、さらにはコンテナをそのままトラックや鉄道に積み替えることで、海陸の輸送手段のシームレス化をもたらした。

それまで港湾では、力自慢の荒くれ男達が、荷物の積み降ろしを専門に行う沖仲仕という仕事していた。彼らに払う賃金は輸送コストの中の少なからぬ部分を占めた。さらには彼らの一部は荷の一部を盗んで転売する悪行に手を染めていたし、そうでなくともなにか気に入らないことがあると、暴動やストは当たり前だった。コンテナ輸送の実用化で、輸送システムの中から沖仲仕という人的不確定要素が排除された。輸送コストは大幅に削減され、付加価値の小さなものでもどんどん世界中を流通するようになった。
 
 
前回概観した情報流通の変革、そして上記の人とモノの輸送の技術革新、この2つが結びついたところに成立したのがグローバリズムである。グローバリズムには様々な定義が存在するが、地球全体を単一の市場として営む経済活動というのが、もっとも妥当な定義であろう。19世紀から20世紀にかけて、欧米列強の植民地経営も大陸を超えた経済圏を作ったという意味ではグローバリズムだが、ブロック経済的で世界全体を覆うには至っていない。第2次世界大戦御の東西冷戦は、見方を変えると2つのブロック経済、2つのグローバリズムの衝突だったとも形容できるだろう。

「何をもっと真のグローバリズムと呼ぶべきか」というのは、「何をもって共産主義が達成されたとするべきか」と同じような神学論争に崩れ落ちていってしまいそうな命題だが、1980年代に中国が開放経済に舵を切り、1991年にソ連が崩壊した後の世界は、「かなりのところまでグローバリズム的」と形容してもいいだろう。アメリカで設計され中国で生産されたiPhoneで、食べログを検索してラーメン屋を探すというのは、極めてグローバリズム的行為だ。そのラーメン屋が海鮮ラーメンを売りにしていて、小麦はカナダ、イカは中国、タコはモロッコ、塩はモンゴルからの輸入品なんてこともありそうである。
 
 
2回をかけて駆け足で、情報技術と、物流技術が、社会体制を変えてきた経緯を概観してみた。郵便や飛行機に見るように、この2つは密接に関わっている。むしろまとめて「流通の変化/モビリティ・ポータビリティの変化」ととらえたほうがいいかも知れない。「移動」に関わる技術の革新は、世界を変えていくのである。

技術革新は終わっておらず、現在進行形である。情報に関しては、すべての物体がセンサーやデータロガーを持ち履歴や外部環境を記録しつつ相互に通信を行う「IoT (Internet of Things)」という技術の開発と応用が同時に進んでいる。通信の速度は一層高速化している。しかも、もうすぐ数百から1万機もの多数の通信衛星群で、地球上のどこからでもブロードバンドの接続を行えるようにしようというビジネスが離陸しようとしている。欧州ではベンチャーのワンウェブが巨大航空宇宙産業のエアバスと組んで、700機以上の衛星による全世界ネット接続ビジネスを立ち上げようとしている。アメリカではベンチャーののスペースXと、航空宇宙最大手のボーイング社が同様の通信衛星群によるネット接続構想を動かしている。これは、今までネットへのアクセス手段を持たなかった、世界人口の約半分が、新たにグローバリズムに巻き込まれてネット経済のプレイヤーとして参入することを意味する。

物流の面では、自動運転技術の実用化によって、よりきめ細かくて、かつ低コストの物流が可能になるだろう。宅配便は原理的には無人のドローンによる配送で置き換え可能だし(ただし日本では法制度や事故時の補償など解決すべき社会的な問題は山積している)、完全自律の自動運転でなくとも、例えば1人のドライバーが運転するトラックを複数の無人トラックが追走して高速道路を走るといった手法をとれば、長距離貨物の輸送コストを下げることも可能だ。

技術は社会の体制や制度を変える。となると、これから実用化する新技術は、世界をどのように変えるのだろうか。また現に変えつつあるのだろうか。
 
 
続く

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

松浦晋也(まつうら・しんや)

「自動運転の論点」編集委員。ノンフィクション・ライター。宇宙作家クラブ会員。 1962年東京都出身。日経BP社記者を経て2000年に独立。航空宇宙分野、メカニカル・エンジニアリング、パソコン、通信・放送分野などで執筆活動を行っている。自動車1台、バイク2台、自転車7台の乗り物持ち。

RELATED TAG