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「MP3」という、音響データを圧縮する技術がある。CDなどの音楽をMP3形式に変換すると、数千円の小さなデバイス、MP3プレイヤーに数百曲の音楽を入れて持ち運ぶことができたため、若い世代を中心に世界的に流行した。今では小型の音楽プレイヤーは、iPodやスマートフォンに押されてしまい、カセットテープを入れたソニーのウォークマンや、その後のポータブルMDプレイヤーなどと同じく、過去の遺物のようになってきている。

実際、MP3の基本特許はドイツの会社が持っていたが、今年の4月になってライセンスプログラムが終了している。(参考記事:佐藤信彦「MP3は死なず、ただ眠るのみ--特許が切れても寿命は尽きない」
 
 
さて、アフリカなど発展途上国の田舎には、道路や橋、水道や電気、ガス、通信などの社会基盤(インフラ)が未整備のところが未だに多い。そういった場所には十分な医療設備がなく、医療関係者も少なく、毎日、多くの子供たちが命を落としている。

お母さんたちには、病気や予防、健康、栄養などの知識が不足しているのだが、識字率が高くないこともあって、パンフレットの配布は役に立たない。新聞やテレビ、ラジオも届かず、インターネットアクセスもない状況で、日々の生活に追われるお母さんたちに、情報を伝えることは非常に難しい。

子供たちの死因の多くは、肺炎、下痢、マラリアなので(参考データ)、母親に衛生や栄養などに関する知識があれば、多くの命が救われるはずなのだが、知識や情報を伝える手段がほとんどない。
 
 
そんな中、ドイツのNGOがMP3プレイヤーを使った取り組みを始めている。

URIDUMP3forLifeは、ソーラーパワーで動くMP3プレイヤーで電源不要。予め400の質問に対する答えが、現地の言葉で録音されている。録音は100カ国、1万人以上のボランティアが、クラウドソーシングで協力。

健康や栄養、衛生、家族計画、子供の世話、日常生活や作業の安全、妊娠中の注意事項など、厳選した400のトピックスについて、母国語の音声で、知識と情報を得ることができるようになるというデバイスだ。現地のNGOを通じて無償で配布されている。もちろん、ハードウェアの製造その他は無料では行えないため、URIDUでは寄付を募っている

現地のお母さん一人一人に1台ずつ配布すると、それだけ多くのコストがかかるため、数人で構成されたグループに1台という割合で配ることになる。このことは現地に小さなグループを作ることを促すことにつながる。またMP3forLifeの情報を一緒に聞いたお母さん達は、一人で病気の子供と向き合うだけであった状態を脱し、皆で共有した情報を活かしつつ、互いに協力しあうようになるだろう。現地に即した創意工夫が、お母さんたちのディスカッションの中から生まれることも期待できる。

一見、時代遅れに見えそうなMP3プレイヤー。しかしこのデバイスひとつが沢山の命を救うことに役立ち、MP3自体が生き残っていくことにもつながる。

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