original image: © Alexandre - Fotolia.com
Viceの成功から考えるメディアの未来
Think about the future of Internet Media through Vice
2017.06.27
Updated by Mayumi Tanimoto on June 27, 2017, 07:17 am JST
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Think about the future of Internet Media through Vice
2017.06.27
Updated by Mayumi Tanimoto on June 27, 2017, 07:17 am JST
新興メディアのViceの時価総額が57億ドル(約6300億円)に達したことが話題になっていますね。
私はネット動画が大好きで、中でもViceのネット集客がうまく行かなくて悩む右翼のドキュメンタリーとか、珍走団の伝統が継承されているドキュメンタリーなど大喜びでみているわけですが、ミレニアル世代だけではなく、サブカルとオカルト好きの中年の心もがっしりと掴んでしまう同社のコンテンツは、今年の終わりまでに80カ国に展開という大好調です。
中国でも若者を中心に熱い支持を集めていて、月間1億PVを記録、ブラジルの有償テレビプラットフォームであるGlobosatと提携し、地上波でもコンテンツ配信と、新興市場でも大人気です。
Buzzfeed 等主要新興ウェブメディアをぶっちぎり快進撃を継続する同社ですが、ネット時代に成功するメディアの例として学ぶ点が多くあります。
1.ニッチなコンテンツ
やたらとニッチで、オリジナルで、エッジが効いているコンテンツには需要があるということです。かといって、ポルノやネトウヨ路線に走る必要はなく、調査ジャーナリズム的な真面目な方向性でもいける。ちょっと変わったものが好きで、しかし地上波のテレビやケーブルテレビでは絶対にやらないもの、スポンサーが顔をしかめるような内容でもネットではファンが付く。
消費者は、化粧品会社が喜ぶようなマイルドなコンテンツには飽きているわけですね。特にミレニアル世代は強烈なものを求めている。
Thiそして、人と同じものも嫌。「日本スゲー」が並ぶ日本のテレビなんてもっと嫌でしょう。
2.視聴者と距離が近い
Viceは元々紙のファンジンだったというのも面白いですね。ファンジンというのは、英語圏ではファンが作るニュースレターのようなもので、同人誌のかわら版みたいな感じなのですが、音楽ファンにはおなじみですね。好きなバンドや周辺の文化を好き放題書きまくって同好のファンと共有するという媒体なので、書き手と読者の距離がものすごく近い。アマチュア精神丸出しですが、そこがファンジンの魅力です。そのノリがデジタルコンテンツにも反映されています。ネットは巨大なファンジンなのかもしれません。
3.制作費の安さを逆手に取る
制作費がローコストなことはむしろ有利です。出演料が高い芸能人もセットも登場しませんが、高精度カメラとネットを駆使すれば面白いドキュメンタリーが撮れる。返ってその荒ぽさと素人感がいい。地上波のテレビ局の巨額な費用をかけた番組は一体何なのかということです。これはネット上のテキストコンテンツも同じでしょうね。素人ぽくって生だからいいわけです。
4.コンテンツのパッケージ化がうまい
動画は10分単位、1時間近いものなど、視聴される媒体によって再編集されています。こういうリパッケージ化が凄くうまいですね。移動中にみるもの、タブレットやスマホでみるものを分けている。
5.無償提供、グローバル配信
日本のテレビ局のように物理的な国境へのこだわりがなく、Youtubeでコンテンツを無償配信し、視聴者を数多く獲得するという方向です。これは漫画「インベスターZ」を15巻まで数円で配信して多大な広告効果を得たコルクの広報戦略と似ています。無償化することで知名度を上げ、ファンを獲得し、広告費を得ます。グローバル対象なので母数が大きくなります。
6.僻地の視点
スタートがカナダのモントリオールなのも面白いですね。私はカナダ国境近くに住んでいた関係で、モントリオールは何回も行っていますが、ここはカナダと言ってもフランス文化権の影響が強く、北米なのになんとなくフランスです。ポテトにはチーズとグレービーがかかっていて、モロッコ料理がやたらと美味。しかし一応北米なので街の感じはなんとなくアングロサクソン。人々はフランス語を話しますが、でもフランスともなにか違う。そこに様々な移民がいてごった煮です。でもアメリカ的なごった煮とは違います。
ニューヨークからは遠くて飛行機運賃は高く、しかし近隣のトロントやオタワさえ遠く、しかしオタワもトロントも東京に比べたら恐ろしい田舎で、要するに僻地です。冬はマイナス20度ぐらいになることもあり、はっきりいって寒いです。一回冬に行って車がブリザードに埋まって死にかけたことがあります。(同行者がロシア人と韓国人で、韓国人は兵役経験していたので助かりましたが)
でもこういう僻地的な環境だからこそ、主流とは違うことに目が行く、エッジのあるもの、違うものを産み出すパワーを蓄積できるという利点もあります。私はViceのコンテンツ作りの方向からは、この僻地的な視点をものすごく感じるのですが、ヘビーメタルバンドであるVenomやBlack Sabathがイギリスの貧乏な地方出身だったというのと似ている気がします。Venomはニューカッスルの恥と呼ばれていて、Black Sabathはメンバーが窃盗して生活するほど大貧乏なバーミンガムの肥溜めみたいな所出身ですが、そういう所で生まれ育ったからこそ、悪魔崇拝とか、オカルトとか、そういう全然主流じゃない変わったものをかけ合わせた音楽を生み出したわけです。
Vice の番組にやたらとオカルトやゲリラとかヤクザが登場するのに何か近いものを感じます。
ネットの世界というのはコンテンツが大量にあって、飛び抜けるのが難しいわけですが、同じものが大量にある中でユーザーが求めているのは何か違うものですね。雪に閉ざされたつまらない街に住んでいる若い子が、ケーブルテレビにも雑誌にも飽きて、ネットで一生懸命変わったものを探す。私は石川町の古本屋でせっせとマニアックなメタルバンドの載っている洋雑誌を漁っていたのでよくわかります。
ネットでのコンテンツ配信がうまくいかない組織にかけているのは、こういう子たちの生活環境や求めるものを理解する感覚ではないでしょうか?
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登録はこちらNTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。