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オペレーターのバックエンド業務自動化で注目されるTupl Inc.(以降、トゥプル社)が日本市場への参入を決めました。プロセラネットワークス ジャパンと協力し、日本のオペレーターにもAIによる「自動化」導入をすすめようとしています。トゥプル社 CEOのPetri Hautakangasと、CTOのPablo Tapiaに、同社の提供する「自動化」とDPIの果たす役割について聞きました。

トゥプル社 Pablo Tapia氏(左)、Petri Hautakangas氏(右)

トゥプル社 Pablo Tapia氏(左)、Petri Hautakangas氏(右)

オペレーター出身のCTOがコスト構造変革を目指す

——まずはトゥプル社の紹介からお願いします。

ペトリ:我々はヤングスタートアップというわけではないのですが、シアトルに本社があります。CTOのパブロは創設者で、もともとT-mobile USAで働いていました。その時に、オペレーターのお客様向けフロントエンドには3Gや4Gなど新しいテクノロジーのイノベーションがあるのに、社内バックエンドにはそれがない、ということに気づいたのです。

ネットワーク管理ツールはサイロ型で、部門間で情報やノウハウが共有できず、イノベーションができない。だからいつまでたってもメンテナンスコストが高い。この状況を打開するためのキーアーキテクチャを作るために、2014年に会社を設立しました。

パブロ:オペレーターのバックエンドシステムはとても複雑ですが、Google、Facebook、YahooのようなITの世界ではAI技術などの最新技術によるオートメーションを導入していることを知っていました。通信業界にもそのようなテクノロジーを取り込んではどうかと考えたのです。バックエンド業務の自動化で、オペレーションのコスト構造を変えることを目指しました。

——オペレーターのバックエンド業務の自動化を目指したということですが、あなたはT-mobile USAというオペレーターの中にいましたよね?なぜ立したのですか?

パブロ:会社を設立したのは、エンジニアに主導権を持たせるためでした。我々の会社はネットワーク、ソフトウェア、AIのエキスパートの集団で、世界で最初の商用SON(Self Organizing Network) を開発したエンジニアなども含まれています。

とはいえ、会社設立から1年半はソリューションやアーキテクチャをこつこつと作る、地味な作業をしてきました。その後お客様にアプローチしてさまざまなユースケースを開発し、トゥプル社のプラットフォームと共にメリットを享受していただけるようになりました。

我々は、ソフトウェアと機械学習によって、ネットワークオペレーターが抱える3つの大きな課題、「ネットワークパフォーマンス」「顧客満足」「効率」を解決します。

パブロ:例えば、あるモバイルオペレーターのお客様からのクレーム対応に活用いただくことで、精度は4倍、問題解決速度は10倍に向上しました。ソフトウェアアルゴリズムがエンジニアの工数のうち、反復作業の9割を自動化したのです。また、この業務で重要なのは一貫性です。従来は百人のエンジニアがマニュアルで処理していたので一貫性がありませんでしたが、ソフトウェアを使うことで常に一貫した結果を得ることができます。

オペレーション業務のピースをエコシステムとして組み上げる

——トゥプル社のプラットフォームについてもう少し詳しく聞かせてください。

ペトリ:オペレーション全体を一度に自動化することは難しくて、少しずつ進めていく必要があります。さまざまなピースを一つのエコシステムの中で動かす必要があります。弊社のプラットフォームは、そのエコシステムを指すと考えてください。

プラットフォームは、さまざまなアプリケーションで必要な共通ユーティリティ、たとえばソリューション展開・メンテナンスのファシリテーション、データの収集や処理といったことを行います。最小限の工数で新たなデータソース・フィードを追加する、KPIの計算、時系列データやさまざまなフィードの相関から異常を検知してアラートを発報するといった機能もあります。アプリケーションがロジックを作るための基盤を担っています。

こうした技術はITの世界では既に確立されていますから、我々が一から作ったわけではありません。さまざまなテクノロジーの中から最高のものを取り入れ、トゥプル社のユーティリティを加えています。様々なオペレーションを自動化するアプリそれぞれを開発するためのオペレーティングシステムのようなものと言うこともできます。

トゥプル社のプラットフォーム

オペレーターのネットワーク上では多くのイノベーションが起こり、複雑性が増しています。OSレイヤーによって複雑性を低減することで、価値あるオートメーションの仕組みが開発しやすくなります。

自動化のイネーブラーとしてのトゥプル社のプラットフォーム

パブロ:ネットワークは複雑化しており、全てをマニュアルで作業する運用は不可能になりつつあります。自動化の鍵となるのは、まず、ネットワークのバックエンドで、あちらこちらに分散しているデータを集めることです。データの種類、ソースにかかわらず、すべてのデータをプラットフォームに取り込めることが重要です。

ペトリ:80:20のルールを考えてください。例えば、従来は特定ツールやファンクションを実現する場合、その100%を開発しなくてはいけませんでした。しかし汎用的なプラットフォームを使えば、その中には(必要なファンクションのうち)80%ぐらいの割合を実現するツールが入っています。そのためオペレーターは特定ロジックを使ったアプリケーション開発にこれまでの20%の労力をかけるだけで良いのです。イノベーションサイクルは加速し、メンテナンスも容易になります。プラットフォームはユースケースとイノベーションのイネーブラーになるのです。

もちろんアプリケーションをきちんと作るのも重要です。ほとんどの開発者はユースケースを作るのに時間を費やすだけで良くなります。

パブロ:データの種類、ソースにかかわらず、すべてのデータをプラットフォームに取り込めることが重要です。プロセラのソリューションを使用する場合は、我々のプラットフォームにプロセラのデータを取り込み、データを組み合わせます。有線ネットワークから収集される情報と無線から収集される情報の相関をとり、AI技術も用いたスマートな分析を行い自動化を実現します。プラットフォームにデータを取り込み、ロジックを適用してアプリケーションを作ることで、価値を創造するのです。

トゥプル社 Pablo Tapia氏

エンジニアへのエスカレーションを減らしてトラブル対応時間も短縮

——AIを利用した自動化のユースケースをご紹介いただけますか?

パブロ:我々が注力している3つのテーマがあります。ひとつはデータの可視化。インテリジェントな分析能力を使い、ダッシュボードで表示します。もうひとつがネットワークオペレーションの自動化です。ネットワーク最適化のためのメンテナンスやトラブルシューティング、ネットワーク設定などを自動化することで、エンジニアの日々の作業負荷を下げます。そしてもう一つがカスタマーサポートの自動化です。加入者の不満への対応は時間がかかり、調査も必要ですが、すぐに対応しなくてはいけません。

ACCR(Automatic Customer Compliant Resolution)は、カスタマーサポートの事例です。加入者からのクレームが来た時に、ネットワークパフォーマンスや加入者パフォーマンスを含む10のデータソースをプラットフォームで取り込み、データ間の相関関係を調べます。お客様がクレームしていた時のお客様のパフォーマンスや、クレームが発生したネットワーク装置のパフォーマンスなどをトラッキングして、クレームの根本原因を明らかにして、「エンジニアが解決すべき問題かどうか」を自動判別します。

原因に対するソリューションが既に分かっており、自動で解決できることであれば、エンジニアに知らせることなく、自動的に問題は解決されます(クローズドループ)。クレーム処理の時間を短縮できるので、お客様の満足度は向上します。技術的クレームの75%がこれに該当します。

もちろん、エンジニアの関与が必要になることもあります。例えば、パフォーマンスについてクレームが来た時、原因がお客様の端末であれば、ネットワークエンジニアが時間を割く必要はありませんが、あるエリアで周期的にパフォーマンスが悪くなっていることが判明した場合は、エンジニアが調べて問題を解決する必要があります。

ペトリ:分析の精度を上げるために、最初は分析結果の妥当性をエンジニアが検証し、フィードバックを行います。アルゴリズムの精度を評価し、十分に精度が高くなれば、クローズドループに移行し、加入者への対応を自動化します。

また、原因が明らかになったクレームの情報はシステムにフィードバックされます。モニタリングしているデータから異常を検知したときは、加入者からクレームが発生する前に自動的に解決が図られると共に、カスタマーサポートのスタッフに対しては加入者に対してどうコミュニケーションを取ればよいかが提案されます。

トゥプル社 Petri Hautakangas氏

この段階で、エンジニアにエスカレーションが行われるのは2つのケースです。ひとつは、緊急にネットワークトラブルを解決する必要がある場合、もう一つはアルゴリズムを使っても答えの信頼性が低い時です。その場合、アルゴリズムの答えが正しいのか、エンジニアによるダブルチェックが必要になります。

ネットワークは常に進化するものですから、AIもそれに合わせて変わらなくてはいけません。そのためにはエンジニアが専門知識を持って、常に検証し続ける必要があるのです。

定性的にしか把握できなかった「加入者体験」がDPIでデータ化される

——なぜトゥプルはプロセラと協力することになったのですか?

ペトリ:プロセラとはグローバルでも協力関係にあり、協力してオートメーションの導入に取り組んでいます。このたび日本市場の開拓にあたり、テクニカルパートナーとしてプロセラネットワークス ジャパンと協業することになりました。日本はデータ消費が多い市場なので、大切な市場ですし、プロセラの重要性も高いと考えています。この分野では、モバイルオペレーターだけでなく、固定通信のオペレーターも興味をもっていただけているようです。

——トゥプルのAIを、プロセラのDPIはどうサポートするのでしょうか。

ペトリ:我々のテクノロジーは、大手DPIベンダーのプロセラの技術と相性が良いです。私達は、カスタマーサポートのためには、アプリケーションのパフォーマンスレベルに至るまで、加入者経験を確認するのは重要だと考えています。

従来のオペレーターは、ネットワークのKPI、すなわちネットワークパフォーマンスにフォーカスしていました。一方で、加入者の体感である、アプリケーションのパフォーマンスとネットワークのパフォーマンスの相関性を調べることはしてきませんでした。プロセラの前処理されたデータをトゥプル社のプラットフォームに取り込み、他のフィードと相関をとることで、有用なアプリケーションを提供できるようになるでしょう。

先ほど紹介したACCRの他にも、ネットワークを変更したときの影響を、ネットワークレベルとカスタマーレベルでリアルタイムにシミュレーションできる「Impact Analyzer」や、ダッシュボードでさまざまなKPIを一元的に管理できる「Unifier」などもご利用いただけます。日本のオペレーター様にもさまざまなサービスをプロセラと一緒にご提供していくことを楽しみにしています。

パブロ:プロセラの集めるデータはユーザープレーンのデータなので、ユーザーアプリケーションによる加入者体験が分かります。トゥプル社は、たとえば無線の状況、コントロールプレーンのシグナリング、ネットワーク内障害のアラームといった、それ以外の情報を全てとりこんでいます。

この2つを組み合わせることで、ネットワークパフォーマンスがどうなっていれば加入者が満足しているのかが分かります。つまり、エンジニアリングの観点から、加入者体験や満足度を上げるには、ネットワークをどうすればよいのかを把握できるようになります。

——加入者を理解するためにプロセラが役立つということでしょうか。

パブロ:その通りです。今まで我々は、カスタマーサポートにかかってくる電話でしか、加入者が感じている「品質」を知ることができませんでした。プロセラはそれをデータで持っています。

ペトリ:これまでは「お客様の声」という定性的な情報でしか把握できなかった加入者体験の評価をデータで持つことによって、はっきりとイメージでき、精度の高いユースケースが作れるようになるでしょう。より良い分析結果をプラットフォームに対して提供できます。

パフォーマンス管理は、ネットワークフォーカスからカスタマーフォーカスへ

--今後の展開について教えてください。

ペトリ:3つの注力分野ごとにマイルストーンを設定してプロダクトを開発しています。

トゥプル社のプロダクト

カスタマーサポートの分野では、VIP Careというプロダクトを準備中です。特に重要なお客様に対して、エクスペリエンスが十分でないと分析結果が出たら、それをトリガーにオペレーター側から自発的なアクションを行います。例えばネットワークアドバイザーと併用することで、障害が発生した場所を特定し、苦情が出る前に対応します。そのようなケースでは、DPIによってお客様の体感が落ちていることを検知するのはとても重要です。

パブロ:今、ネットワークのKPIはマクロで見ていますが、セル全体としてKPIが完璧でも、特定の加入者のパフォーマンスが悪いこともあります。現状ではそうしたケースに何も対応できないのですが、プロセラのデータを使うことで、「なぜその加入者の体感が悪いのか」「それに対してどういうアクションをとるべきか」を認識できるようになります。今後のパフォーマンス管理のフォーカスは、ネットワークから加入者にシフトすると考えています。

現在、VIP CAREはパイロットフェーズです。ネットワークアドバイザーも、設計段階で、ロジックを検証中です。今年の半ばからはパイロットフェーズに入れる予定です。

ペトリ:ネットワークアドバイザーに対してはかなりの需要があることが分かっており、我々にとっては次のステップだと考えています。先ほどご紹介したACCRがオペレーターに実装されていれば、プラットフォームの中にはネットワークアドバイザーに必要な情報がすでにある状態なのです。フィードも統合されています。あとはアルゴリズムを整え、ネットワークアドバイザーに必要なロジックを整えていくことになります。

SOC (Service Operation Center)については、現在、欧州を拠点とするグローバルオペレーターにパイロット提供をしています。

AIとテレコムは密接な関係がある

——今、「AI」と「機械学習」はバズワード化しているところもありますよね。

パブロ:「AI」は非常に人気のある言葉ですが、私は実際にAIとテレコムは切っても切れない密接な関係があると思っています。というのもテレコムの環境は常に変化しており、シンプルなロジックでは対応・判断するのが難しい状況が多く生じるからです。

一方で多くの人はAIは魔法の箱で、さまざまなネットワークに関するデータを入れれば答えが出てくると思っています。でも現実はそんなに簡単ではありません。私たちはステップバイステップで、手がとどくところからまずデータの性質を分析し、少しずつAIを本格的に導入していきたいと考えています。

手順をふむのは重要です。データサイエンティスト単独で通信の問題を解決できるとは思っていません。ソフトウェアのエキスパート、通信のエキスパートが協力して、時間をかけて取り組む必要があります。

ペトリ:パブロは通信のエキスパートで、全世界で販売されている通信技術者向け書籍の共著者でもあるし、T−mobileのさまざまな分野のパテントホルダーでもあります。通信の専門家がITの技術を使ってAIによる自動化に取組んでいる、というのがトゥプル社の強みです。

——ありがとうございました。

トゥプル社 Pablo Tapia氏、Petri Hautakangas氏

【関連情報】
さまざまな利用パターンの可視化でユーザー体感を向上するソリューション プロセラネットワークス
メールでのお問い合わせはこちらまで japan-sales@proceranetworks.com

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