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ドイツ 交通 イメージ

②「相乗り」はいかにして社会に定着するか?

2017.06.09

Updated by Yu Ohtani on June 9, 2017, 18:00 pm UTC

1. 都市間の交通手段がない!

今回は筆者のドイツ暮らしの体験を手がかりに、自動車の「相乗り」について考えていく。

筆者は2010年からドイツに暮らしている。ドイツに来たばかりの頃は田舎に暮らしていたが、仕事と余暇の両方の時間をほとんど同僚と過ごしていたので、移動するときは車に同乗させてもらうことが多く、不便は無かった。しかし2011年にドレスデンに引っ越し、約100km離れたライプツィヒで友人とともにまちづくりのプロジェクトを行うようになったときに問題が生じた。週に2,3回ドレスデン−ライプツィヒ間を往復するのだが、一回の往復で50ユーロ=約6,200円もかかる。ドイツの国鉄はとても高いのだ。日本だとだいたい東京−小田原間と同じくらいで、私鉄を使えば往復約2,000円の距離が、ドイツでは約3倍もかかる。これを週に3回も往復していては、とてもではないが交通費だけでプロジェクト資金が底をついてしまう。他のヨーロッパ諸国では都市間交通としてバスという選択肢があるが、ドイツでは国鉄の寡占状態が続いており、都市間バスは2013年まで自由化されていなかった。よって当時都市間の公共交通は実質国鉄しかなかったのだ。

もちろん国鉄にも定期券や各種の割引サービスは存在する。しかしそれにしても高い。なんとか安く移動できないものかと悩んでいたとき、友人に紹介してもらったのが「Mitfahrgelegenheit(ミットファー・ゲレーゲンハイト)」という相乗り仲介サイトだった。

2. 相乗り仲介サイト「Mitfahrgelegenheit」の仕組み

「Mitfahrgelegenheit」は2001年に開設されたドイツのウェブサイトだ。掲示板のような作りになっていて、日時、出発・到着場所、料金、ドライバーのプロフィールがずらっと並んでいる。その中から自分の予定に合う車を見つけ、ドライバーに直接連絡をとって予約をする。連絡手段としてはメール・アドレスか、携帯電話番号が書かれていることが多い。ドライバーから指定された集合場所で落ち合って相乗りさせてもらった後、目的地まで無事到着したところでドライバーに直接料金を払う。非常にシンプルな仕組みだ。ライプツィヒ−

ドレスデン間では、往復で10〜15ユーロくらいが相場で、これは電車賃の約5分の1ほどである。

実質国鉄しかなかった都市間交通を補完するものとして、「Mitfahrgelegenheit」の利用者は爆発的に増加し、2008年の時点で実に70万人の人々が利用者登録を行っており、15万件のオファーが常時表示されている状態だった。

3. メリットとデメリット

かくして筆者は「Mitfahrgelegenheit」のおかげでライプツィヒ-ドレスデンをしばらく往復する生活をおくることが出来た。その体験も合わせ、メリットとデメリットをまとめてみよう。

メリット①環境に優しい
言うまでもなく、一台の車を複数人でシェアすることになるので、一人あたりのCO2排出量を下げることができる。

メリット②安い
繰り返しになるが、国鉄の20%ほどの料金で都市間を移動することができる。これは特に若者や学生にとってはありがたいシステムだ。一方でドライバーにも、通勤や旅行のついでに収入を得られるというメリットがある。

メリット③出会いがある
ドライバーや相乗り客同士の出会いがある。ちょっとした会話に始まり、住んでいた街や旅の経験などを話し合ったりする。フランクな人々と相乗りになれば、ちょっとしたドライブ気分を味わえる。またドライバーによっては、お互いの信頼関係で目的地を少し変更して家の目の前まで送ってもらうこともできる。

デメリット①ドタキャンがある
公共交通ではなく、あくまで個人と個人の約束なので、ドライバーや相乗りする人の都合が突然変ることもある。集合場所で待てども待てども車がこない、そんな体験を筆者も何度かした。サイトは何も保証してくれないので、本当に大切な用事に相乗りを利用するのはとてもリスキーだ。

デメリット②「変な人」にあたる
これはメリット③と紙一重だが、ドライバーや他の相乗り客がちょっとめんどくさい人だと、狭い車内で到着まで逃げ場もないので大変だ。極稀に本当に深刻なトラブルに見舞われるリスクもある。金銭的トラブルだけでなく、相乗りサイトを利用した女性がドライバーに連れ去られる事件が起きたり、相乗りで一緒になった人が不法移民だったために大学生が不法入国介助の疑いをかけられたという事件も発生している。また事故にあっても保険が降りないケースがある。相乗りサイトはあくまで自己責任で利用することが求められる。

4. 欧州と日本における「相乗り」の今

このようなメリットとデメリットを併せ持ちつつ多数の人々に利用されてきた「Mitfahrgelegenheit」だが、2013年に都市間交通として民間のバスが自由化されることで流れが変わった。自由化の後一年足らずでバス網がドイツ国内中に広がり、4社ほどが熾烈な競争を繰り広げたことで運賃が下がり、相乗りでドライバーが提示するのと同程度かそれ以下でバスを利用することができるようになった。ほぼ確実に移動でき、事件に巻き込まれるリスクもなく、サービス的にも保証されているため、バスの利用者が急増し、逆に相乗りを利用する人は減少。ついに2015年に「Mitfahrgelegenheit」のサイトは閉鎖された。

しかし現在でも相乗りを仲介することで成長しているサイトがある。そのうちの一つ、2006年にフランスで生まれ、今ではドイツを含む全ヨーロッパで120万人の利用者がいる「Bla Bla Car」は、先に挙げたデメリットを克服することに力を入れている。ドライバーと相乗り客共に完全登録制になっており、ドライバーは本人確認が義務付けられ、かつ利用者からの評価が行われ、評価が高い人は「今月のベストドライバー」としてサイト上で表彰されている。またFacebookと連携することでプロフィールや「友達の数」を確認でき、その人の信頼性が可視化される仕組みになっている。さらに自動車保険会社と提携することで、事故対応から損害補償まで受けられたり、全てインターネット上で決算し現金の受け渡しをなくすことで金銭トラブルを抑えたりといった施策もなされている。

こうしてデメリットを克服する一方、メリットとして「Bla Bla Car」が打ち出しているのは「出会い」だ。それもSNSと提携することで「こういう人と出会いたい」という欲求を満たす方向での「出会い」である。こうして料金と確実性でまさる都市間バスが登場しても、相乗りには未だに根強い人気がある。

日本でも、2007年に「Notteco」という相乗りサイトがスタートし、現在2万人ほどの登録者がいる。ドイツにくらべまだまだ普及しているとは言えないものの、日本ならではの相乗りの興味深い実験が行われている。北海道の天塩町と「Notteco」が連携し、稚内−天塩の交通の相乗りを奨励しいているのだ。今後人口減少に伴い、公共交通の維持が難しくなる地域で、相乗りが過疎地域の人々の足になる可能性が模索されている。

この様に、相乗りは様々な社会のニーズを反映して定着しつつある。相乗りの開く未来の移動は多様だ。

WEB:
Bla Bla Car
Notteco

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大谷 悠(おおたに・ゆう)

NPOライプツィヒ「日本の家」共同代表。ドイツ・ライプツィヒ在住。東京大学新領域創成科学研究科博士課程所属。1984年生まれ。2010年千葉大学工学研究科建築・都市科学専攻修士課程修了。同年渡独。IBA Lausitzにてラオジッツ炭鉱地帯の地域再生に関わる。2011年ライプツィヒの空き家にて仲間とともに「日本の家」を立ち上げる。ポスト成長の時代に人々が都市で楽しく豊かに暮らす方法を、ドイツと日本で研究・実践している。