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IoT案件は前年度比倍増でも具体的な利活用への移行が課題--IIJが見る日本のIoTの今

2017.12.07

Updated by Naohisa Iwamoto on December 7, 2017, 06:25 am JST

「IoTの技術的課題はクリアになってきた。しかし具体的な利活用シーンへの取り組みはまだこれから」。インターネットイニシアティブ(IIJ)は、IoTに関する事業説明会を開催し、国内のIoTへの取り組みの現状をこう説明した。

IIJでは、2016年7月にIIJ IoTサービスを発表。その後、フルMVNOへの取り組みを発表するほか、スマートメーターやコネクテッドホーム、農業IoT、スマートファクトリーなどの分野での実証実験や協業、サービス提供を続けてきた。2017年10月には月額300円から利用できるようにIIJ IoTサービスを刷新したほか、2018年3月にはフルMVNOを活用した新サービスの提供を目論む。

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まず、IIJのモバイルサービスの現況の説明があった。「IIJのモバイルサービスは、法人、個人を合わせて200万回線を突破した。法人向けでは2015年を境に、パソコンやスマートフォン用途から、IoT、M2M用途へと変化が進み、現在では法人モバイルのSIMの3枚に2枚はIoT/M2M用途にまで伸びた」(IIJ クラウド本部 副本部長の染谷直氏)という。IoT/M2Mの活用ジャンルとして最も多いのは「カメラ(監視・マーケティング)関連」。染谷氏は「下りはコンシューマの利用で帯域が圧迫されていても、上りはスカスカ。この帯域を活用したソリューションとしてカメラが有効に使われているようだ」と分析する。

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IoTを実現するには、必要な技術要素が多い。センサーなどのデバイスからデバイスゲートウエイ機器、モバイル通信に代表されるネットワーク、さらにネットワークやデバイスの管理、クラウドのアプリケーションやミドルウエア、データベースの利用、そして実際の業務のアプリケーションに至るまで、幅広い技術が組み合わさってIoTが具現化できる。そうした中で、IIJは「IoTの“つなぐ”をすべて提供する方針。ネットワークを中心に、デバイスとネットワークの管理・監視・制御のソリューションを提供し、多岐にわたるIoTの要素をシンプルな形でサービスとして提供する」(IIJ クラウド本部 クラウドサービス2部 ビッグデータ技術課長の岡田晋介氏)。さらにクラウドサービスとして自社のIIJ GIOを持ち、自社がサービサーでもありながらシステムインテグレーターとしての力を持つことも併せて、一気通貫でのIoTサービスが提供できることを強みにしていく考えだ。

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10月に行った最新のサービスの見直しでは、IoT専用モバイルSIMカードを月額300円で提供し、0.2円/MBの従量料金の料金体系とするように、料金をシンプルにした。速度制限を設けていないことも、カメラなどのアプリケーションでの利用に適しているという。またユーザー専有の閉域ネットワークの提供も開始し、セキュリティ対策の強化にも貢献する。また、IIJ GIO以外にも、Amazon Web Service(AWS)やMicrosoft Azureの他社クラウドとの連携、オンプレミス環境との接続も可能にした。さらに、IIJの独自のルーター管理技術である「SACM」の技術を応用したIoTデバイス集中管理の仕組みも提供し、デバイス一元管理やメンテナンスの負荷軽減も実現する。

そうした取り組みが功を奏し、IIJが手がけるIoT案件は前年度比で倍増となる傾向にある。「案件は数百の規模感に上る。車載用モバイルカメラや店舗監視カメラなどでの利用が増えている。一方で、まだ案件の多くはPoC(概念実証)の段階で、本格展開は数百件の中の数割程度」(岡田氏)。PoCや既存ビジネスの延長線上の段階から、さらなる付加価値を生み出す新しい取り組みへと変化が求められるというのが、記事冒頭の発言の意味合いだ。岡田氏は、「顧客側でも変化があり、これまでIIJに対応する部門は情報システム部門などが多かったが、IoT関連では半分が事業部門や企画部門といった現場部門に変化してきている。IIJ自身もサービス提供者としてだけでなく、IoTにおける『これは』というソリューションを生み出すために、自分たちも実践しながら一緒に考えていく」と語る。

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実際にIIJが自ら実証実験を手がける1つの例が、農業IoTだ。農林水産省の公募事業「水田水管理IoT」を受託した。活動はIIJが研究代表機関を務める「水田水管理ICT活用コンソーシアム」で、複数の企業団体と共同で行っている。

IIJで農業IoTプロジェクトを手がけるIIJ ネットワーク本部 IoT基盤開発部部長の齊藤透氏は、「日本でも大規模な農業経営体が生まれているが、実際の圃場は点々と分散して適切な水管理に人手と手間がかかっている。1万円程度のセンサーと、3万円程度の自動給水弁、そして2km以上の無線通信が可能な通信システムを組み合わせることで、低コストで導入しやすく効果が高い水管理システムを提供することを目指す」と課題と目的を語る。

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計画では、100台の自動給水弁、400台の水位・水温センサーを静岡県の圃場に導入し、LoRaWANによるLPWA通信で広域に低消費電力のネットワークインフラを提供する。「2017年度に試作機開発とフィールド事前調査を行い、2018年度に試作機の設置とフィードバックによる改良を行い、2019年度に量産化に向けた効果検証を行う予定。機器のコスト削減、LoRaWANの無線の飛距離など技術的な課題はもちろん、泥や藻、虫、薬、風、雷など課題が山積していることが実際に手を下してみて実感している。こうした課題をクリアして、将来的にはオープンな仕様で全国普及を目指し、IIJのビジネスにつなげていきたい」(齊藤氏)。

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IIJでは、実際の現場での取り組みを通して知見やノウハウを得ている。そうした現場感をサービス開発やシステムインテグレーションにフィードバックすることで、IIJではIoTのPoCから具体的な利活用のステージへの橋渡しを進めていく考えだ。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。