WirelessWire News The Technology and Ecosystem of the IoT.

by Category

コンピューティング イメージ

コンピュータは計算に飢えている

2018.04.15

Updated by Ryo Shimizu on 4月 15, 2018, 07:33 am JST

どうしてAI(Artificial Intelligence;人工知能)やVR(Virtual Reality)が、これほどまでに注目を集めているのでしょうか。

これにはどちらも二つの側面があります。

新技術が普及するには、二つのモチベーションが必要です。
二つのモチベーションは、別々の役割を割り当てられます。
それは、作る人と使う人です。

ものづくりを普段していない方には理解しにくい感情かもしれませんが、「作り手」となる人間は、そもそも誰にも頼まれなくても何か作りたいという欲望を持っているものです。

一種の暇つぶしというか、本能のようなものです。

週末がくればその2日間でなにか作りたい、あるいは、会社から帰って家でこっそりなにか作りたい、場合によっては、四六時中そのことしか考えられなくなります。

そういうタイプの人間が、ゲーム会社やソフトウェア会社に集まります。なにか作りたい、という人たちです。みんなで作るのもいいし、一人で作るのもいい、そんな感じです。

未踏分野の新技術の魅力というのは、まさしくこの「作る」喜びの中でも最上のもののひとつです。まだ誰も知らない地平を切り開く、もしかしたら世界初かもしれない、そんなことでワクワクしながらプログラムを書くのです。

一方で、使う人のモチベーションというものも大事です。
ビジネスにならなければお金が続かないし、プロジェクトとして大きくしていくことができません。

ところが現実には、エジソンが言うように「必要が発明の母」になることはほとんど有りえないことです。

ある新技術に対して「必要」が見つかるのはほとんど奇跡のようなものです。
例えば、どうしてもVRが必要な人、というのはちょっと思いつきません。

VRがこれだけ身近になってきても、未だになぜVRが「必要」か説明できる人は、ほとんどいないと思います。

いまのところ、PlayStation VR向けのゲームやその他のコンテンツが出ていますが、どうしてもVRでなければダメ、というゲームは今のところないように思えます。「VRらしさがあって面白い」ゲームはいくらでもありますが、VRはリアルすぎるのでちょっと怖いゲームを遊ぶとほんとに怖いので、怖がりの筆者などはVRでゾンビゲームを遊ぶとか悪夢でしかありません。もちろん、怖いものが好きな人はVRのホラーゲームは大好物でしょうが、どうしてもそれでなければダメ、ということはないはずです。

この「作りたい」と「使いたい」のギャップを埋めてビジネス化する方法は二つあります。

一つは、新技術をエンターテインメントにしてしまうこと。VRが主にその戦略を採用しています。つまり、ゲームや教育コンテンツをVRで作るわけです。これはコンシューマに対して「使いたい」という欲望を直接喚起する方法なのでB2C向けです。

もう一つは、新技術をソリューションにすること。「使いたい」と思って貰う人を増やすために、「作りたい」と「使いたい」のちょうど中間地点としてソリューションを作り、主に企業を相手に売ります。企業の中にも「作りたいけど専門的なことはわからない」という、消費者と作り手の中間にいる人がいて、その人の「作りたい欲望を使い方を提案することで満たす」というビジネスです。

しかし残念ながら、普通はこの二つのどちらも、「そこそこ」の規模のビジネスにはなるものの、大ブレイクすることは稀です。

エンターテインメントで大ブレイクするのは、ほとんど奇跡と言って良いでしょう。様々な人がエンターテインメントで大ブレイクする再現可能な方法を模索していますが、今のところ成功した人はほとんど居ません。現時点でほとんど完全な成功法則がわかっているのは、作品を多死多産で作り出し、ヒットした作品や作家に新作を作らせる、ということくらいです。

熾烈な競争が繰り広げられるスマートフォンのゲームの世界では、大ヒットを2回出したゲーム会社はほとんどありません。誰かが成功すると、みんなでその成功法則を分析しようと試みるのですが、再現できた人はいません。

従って、新技術をエンターテインメント的に売る場合、大ヒットするのは天文学的に低い確率と見積もらなければなりません。

B2Bの場合、つまり「作り手になりたいビジネスマンを顧客としたビジネス」の場合であっても、やはり大ブレイクするケースは稀です。当然ですが、ここには「使い手」が存在していないからです。

ただし、例外があります。本当にその新技術を使う「必要」がある場合です。つまり、B2Bにおいて顧客が純粋に「使いたい」という欲望を持っている場合です。

この「必要」とは、ビジネスの世界では既存事業の利益向上だと考えられます。

AIがこれから先、有望なビジネスに成りうるのは、「必要」があるからです。つまり既存事業の利益を向上させることができるからです。

例えば、自動車をガソリン車から最新のハイブリッド車に替えるとします。燃費は4倍よくなります。その差額が、自動車の購入価格よりも大きい場合、ハイブリッド車に替えない手はありません。そうすれば、利益率は自動的に上昇します。

AIは、従来、年間数十億円の費用がかかっていた様々な雑務を半分から1/10程度の費用で代替できる技術です。

少し前なら「代替できる可能性がある技術」と言ったでしょうが、いまや現実に、AIにはそうした能力があることがハッキリと分かっています。

では、なぜ大きな声で誰も言わないのかといえば、それは競争優位性があるからです。つまり、AI技術開発においては、成果が出た場合、その成果は顧客の競争相手に全く知られずに水面下で利益率を向上させ、他社を圧倒する道具として使うべきだからです。

先日、東京ビッグサイトで開催されたAI・人工知能EXPOの会場には、多数のAI関連企業が出展していました。筆者らの会社も例外ではありません。しかし多くのブースで、具体例を欠いたまま曖昧な説明が繰り返されたことで、来場者は多少のフラストレーションを感じたようです。

なぜ具体例を出せないのかといえば、まさしく、今やAIはドーピングだからです。
少し古い例えならばシークレットシューズ、今風にいえばプチ整形や育毛剤、要は「使っていることがバレたら負け」なのです。

そしてAIは、エンターテインメント的な使い方、使わせ方をするのが難しいぶん、B2Bの世界で現実の諸問題を次々と解決しています。

特定の技術カテゴリだけでも数十億円のコスト削減高価があるとなれば、顧客企業にとっても十分「使いたい理由」要は「必要」に成りえます。

会社というのは、B2Cをやっている限りは水モノですが、B2Bが回っている限りはまず潰れません。

B2Bビジネスが成長するのは、顧客の利益に貢献しているときだけです。ですから、AIがB2Bで発展していくためには、提供するサービスによって顧客企業の利益が上がるというのが絶対条件です。

ところが、これが意外と難しいものです。
筆者が聞く限り、本当に顧客企業の利益に貢献できているAI技術企業というのは、数えるほどしかないはずです。

ほとんどのAIベンチャーは、PoC(Proof of Concept;理論検証)で終わってしまい、そこであまり思うような成果が出なくて次に繋がらずに終わることが多いようです。B2Bのソリューションビジネスには、そうしたビジネス特有のノウハウが必要です。技術先行なだけではダメなのです。

ディープラーニングが世界的ブームになってから3年経ちます。そろそろ淘汰が始まる時期です。ハイプ・サイクルでいう幻滅期に入るところです。

ここを生き残れるかどうかが、AIベンチャーの最初の正念場と言えるでしょう。
手っ取り早いのは、実際に実用できるAIを開発して顧客の利益に貢献することです。それができるかできないかが命運の分かれ目になるでしょう。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

RELATED TAG